2026年9月末、KDDIとのローミング契約が切れる楽天モバイル。KDDIはローミング契約の延長に消極的な様子ですが、もしローミング契約が切れた場合、楽天モバイルは地方を主体とした未整備のエリアを、どうやってカバーすることになるのでしょうか? いくつかの選択肢を考えてみましょう。

好業績に影を落とすローミング契約切れ

2019年に携帯電話事業に参入した楽天モバイル。急速なインフレが進むなかにあって、2023年6月に提供開始した「Rakuten最強プラン」や、2025年10月1日に開始した「Rakuten最強U-NEXT」などお得感の高い料金プラン、そして「最強家族プログラム」などの割引施策が功を奏し、2025年末には1000万契約を突破するなど、好調が続いているようです。

楽天モバイルの好調を受け、厳しい状況が続いていた楽天グループの業績も大幅に回復。2026年度第1四半期決算では、楽天モバイルが携帯電話事業に本格参入した2020年以降、初めて連結Non-GAAP営業利益が黒字化したことを明らかにしています。

  • 楽天グループの2026年度第1四半期は楽天モバイルの好調などによって、携帯電話事業に本格参入して以降、初の黒字化を実現している

    楽天グループの2026年度第1四半期は楽天モバイルの好調などによって、携帯電話事業に本格参入して以降、初の黒字化を実現している

ですが、その楽天モバイルは今後大きな危機が待ち構えています。それは、KDDIとのローミング契約が終了することです。楽天モバイルは2019年にKDDIとローミング契約を締結し、サービス開始当初より楽天モバイルのネットワークが未整備のエリアは、KDDIのネットワークにローミングすることで賄ってきました。

その後、楽天モバイルはネットワーク整備を大幅に前倒ししてエリアを急拡大し、すでに4Gの人口カバー率は98%以上にまで広がりましたが、その結果大幅な赤字に苦しむこととなりました。しかも、それだけのネットワークを整備してもなお、人口が少ない地方を中心に、未整備のエリアが少なからずあるため、人口カバー率99.9%を超える競合と比べるとエリア面で劣ることは確かです。

そこで楽天モバイルは、2023年4月にKDDIとのローミング契約を延長し、KDDIのネットワークを引き続き活用することで、コストを抑えながら他社とそん色ないエリアを実現しています。ゆえにローミング契約が終了してしまうと、エリア面で競合と大きな差が出てしまうわけです。

それだけに2026年、楽天モバイルがKDDIとのローミング契約を再び延長するか否かに注目が集まっているのですが、KDDIの代表取締役社長である松田浩路氏が、2026年5月12日の決算説明会でこの件に言及。ローミング契約については楽天モバイルと協議中としながらも、「楽天モバイルのエリアも全国に広がっており、当初の役割を終えた」と回答。楽天モバイルに対しても、携帯電話会社として自社でエリアを構築してほしい、と話しているといいます。

  • KDDIの松田氏は、楽天モバイルとのローミングについて「当初の役割を終えた」とし、契約継続に消極的な考えを示している

    KDDIの松田氏は、楽天モバイルとのローミングについて「当初の役割を終えた」とし、契約継続に消極的な考えを示している

それに加えて松田氏は、楽天モバイルのトラフィックが想定以上に発生しているとも説明。そうしたエリアは両社が協議の末に、ユーザーに影響が出ない形でローミング終了を図っているといいますが、KDDIとしては今後ローミングのトラフィックが、自社ネットワークに影響が出てくる可能性を懸念している印象も受けました。

それゆえKDDIは、ローミング契約の延長に消極的な感があるのですが、一方の楽天モバイルはどう考えているのでしょうか。親会社となる楽天グループの代表取締役会長兼社長最高執行役員である三木谷浩史氏は、2026年5月14日の決算説明会でこの件について問われた際、「一番重要なのはユーザーに迷惑をかけないこと」と答えるにとどまり、明言を避けている様子でした。

  • 楽天グループの三木谷氏はKDDIとのローミング契約に関して、「ユーザーに迷惑をかけないこと」が重要と答えるにとどまっている

    楽天グループの三木谷氏はKDDIとのローミング契約に関して、「ユーザーに迷惑をかけないこと」が重要と答えるにとどまっている

ローミング再延長以外、いずれの選択肢も未来は厳しい

では実際のところ、KDDIとのローミング契約が延長されずに終了した場合、楽天モバイルはどのような手段を取ると予想されるでしょうか? 1つはもちろん、自社でネットワーク整備を進めて競合に追いつくことなのですが、楽天モバイルが未整備のエリアは人口が少ない一方でエリア自体は広く、整備しても採算が合わない場所が多いと見られています。

楽天モバイルは、設備投資を増やす方針を打ち出していますが、その多くは顧客が多い都市部の混雑対策が主と見られています。ようやく黒字化が近づいてきた楽天モバイルが、不採算地域に積極投資するのは難しいでしょう。しかし、それができなければ、競合が楽天モバイルの弱点を突いてネットワークの広さを積極的にアピールするようになり、好調な顧客獲得にも影響を与えてしまいかねません。

  • 楽天モバイルは2026年度に設備投資を大幅に増やす予定だが、それが未整備エリアのネットワーク整備にどこまで費やされるかは不透明だ

    楽天モバイルは2026年度に設備投資を大幅に増やす予定だが、それが未整備エリアのネットワーク整備にどこまで費やされるかは不透明だ

2つ目の手段は、衛星通信でのカバーです。楽天モバイルは、米AST SpaceMobileの衛星を活用し、衛星・スマートフォンの直接通信サービス「Rakuten最強衛星サービス」を2026年第4四半期に提供開始する予定ですが、AST SpaceMobileの衛星はアンテナのサイズが非常に大きく、競合が使用している米Space Exploration Technologies(スペースX)の「Starlink」より通信容量が大きいことから、実証実験では音声通話なども実現しています。

加えて楽天モバイルは、広域をカバーしやすいプラチナバンドである700MHz帯をRakuten最強衛星サービスに活用する方針を打ち出しています。それだけに、未整備のエリアは衛星通信を活用し、コストをかけずにカバーするという可能性も十分考えられます。

  • 楽天モバイルは2026年第4四半期に、AST SpaceMobileの衛星を活用した「Rakuten最強衛星サービス」の提供を予定しているが、順調に提供が進むとは限らない

    楽天モバイルは2026年第4四半期に、AST SpaceMobileの衛星を活用した「Rakuten最強衛星サービス」の提供を予定しているが、順調に提供が進むとは限らない

その実現に向けては、AST SpaceMobileがサービス提供に必要な数だけ衛星を打ち上げる必要があるのですが、今後必ずしも順調に衛星が打ちあがるとは限りません。実際2026年4月には、同社の衛星の1つが打ち上げに失敗したことが明らかにされています。

しかも、人口が少ない地域で活用するとはいえ、データ通信が使い放題のRakuten最強プランなどを、通信容量に限界がある衛星通信でそのまま提供するのは難しいでしょう。衛星通信の容量が大きく増えるであろう将来ならばともかく、2026年時点で、すべて衛星通信で賄うというのは難しいように思えてしまいます。

そして3つ目の手段となるのは、引き続き他社の協力を得ることです。ローミング契約をせずに他社の協力をどうやって得るのか?と疑問を抱く人も多いかと思いますが、KDDIの松田氏はローミング契約が終了した場合、「楽天モバイルで困る人がいるならば、『副回線サービス』や『povo』などでの支援も考えている」と話していました。

副回線サービスは、空いているSIMに他社回線を追加し、非常時などにそちらに切り替えて通信を維持する仕組み。そしてpovoは、月額0円から利用可能なオンライン専用サービスとなります。それゆえ松田氏の発言は、楽天モバイルのエリア外で利用する人に対し、KDDIのサービスを追加契約してもらう形での支援を示しているようです。

  • KDDIは、月額0円で利用できる「povo」を提供していることから、ローミング契約終了後、楽天モバイルのユーザーに対してpovoを提供し、未整備のエリアで利用してもらうことを視野に入れているようだ

    KDDIは、月額0円で利用できる「povo」を提供していることから、ローミング契約終了後、楽天モバイルのユーザーに対してpovoを提供し、未整備のエリアで利用してもらうことを視野に入れているようだ

ただこの仕組みでは、当然楽天モバイルユーザーに別途何らかの形で追加料金を支払ってもらう必要がありますし、ローミングでは必要なかった通信回線の切り替え作業も発生してしまいます。ユーザー目線からすると不便な仕組みでもあるため、ユーザーの理解や支持を得られるかどうかが不透明です。

そうしたことを考えると、楽天モバイルがいずれの手段を取っても何らかのデメリットを負い、競争上不利になる可能性が高いでしょう。最終的にどのような判断が下されるのか、現時点では分かりかねますが、やはりローミングの再延長ができない限り、楽天モバイルが厳しい状況に追い込まれる公算が高いのではないでしょうか。