LegalForceは10月6日、"ルールをつくる。社会を変える。"をテーマに、「LegalForce Conference 2021」を開催した。同イベントでは、既存のルールにとらわれずに動くこと、あるいは新たなルールを生み出すことで、ビジネスや社会に変化を起こしているとして選ばれた12本の講演が発表された。その中から、「リーガルマインドが拓く新SDGs」と題して発表された、一橋大学ビジネススクールの客員教授を務める名和高司氏の基調講演をお届けする。

  • 一橋大学ビジネススクール 客員教授 名和高司氏

講演の中心となったキーワードは、 パーパス経営についてである。講演の冒頭に「パーパスは21世紀の企業にとって最も大事なエンジンである」と述べた。2008年以降に「purpose」の単語検索数が急増していることからも、世界的に注目度が高いテーマであることが伺える。

パーパスが注目されるようになったきっかけとして、同氏は「START WITH WHY(邦題:WHYから始めよ!)」の著者であるサイモン・シネック氏を紹介した。さらに、BlackRock社のCEOラリー・フィンク氏は毎年1月に送る"フィンク・レター"の中で、2019年に「Purpose & Profit」に言及しているのだという。

  • サイモン・シネック氏が提唱するゴールデン・サークル理論

こうした背景によって、近年ではB to C企業だけでなくB to B事業を展開する企業においても、エシカル消費が求められているとのことだ。「こうした市場の流れの中では、SDGsやESG(環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字をとったもの)は、コンプライアンスと同程度に順守すべきものとなっている」と同氏は述べる。SDGsやESG、サステナビリティに向けた努力をした上で、企業が何を成し遂げたいのかが問われているのである。

なお、エシカル消費とは、消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うことである(消費者庁のサイトから引用)。

続けて同氏は、企業の経営方針として掲げられることの多い「Mission(指名)」「Vision(構想)」「Value(理念)」を、「Purpose(志)」「Dream(夢)」「Belief(信念)」として、再定義を勧めた。自身の内面から発せられる声を大事にするべきとのことだ。

  • 自身の内側から発せられる声に基づいた経営方針の再定義を勧めた

ESGに注力しても企業価値の向上に直結する訳ではない。むしろ、ESGに配慮した事業を展開しなければ社会的信用を失うリスクになりかねない。また、ESGは現在の地球が直面する社会課題であり明確な需要が存在しているにもかかわらず、テクノロジーの進歩によるイノベーションが不可欠だ。

そこでこれらを代替するテーマとして、同氏はCSV(Creating Shared Value)を紹介した。縦軸に社会価値を、横軸に経済価値を並べた4象限からなるマトリクス表である。社会価値と企業の経済価値の両軸を高める施策が必要であるのだという。

  • 社会価値と企業の経済価値を両立させる施策が重要と述べる

では、実際の企業経営にパーパス経営の概念を取り入れるためにはどのような点が必要なのだろうか。同氏は「意思決定モデル」「収益モデル」「組織モデル」「日本モデル」の4つのモデルを採用しているとのことだ。

  • パーパス経営を実践するための4モデル

パーパスに基づく経営によって顧客が増えれば、そこから拡散する口コミなどによって企業ブランドが向上してさらに顧客を生み、企業の経済的価値も向上すると思われる。そうした中で、パーパス経営を実践する課題となるのはが30歳代から40歳代のミドル層であるという。これらの年齢層の人材は業務上のKPIを抱えていることが多く、パーパスと実務の両立が困難な層でもある。ミドル層へパーパスを浸透させることが、パーパス経営の重要点になるとしている。

講演の最後に同氏は、「加速する環境の中で善悪の定義が定まらない時代においては、価値観を柔軟に設定する必要があり、その際に軸となるリーガルマインドを法務部門の一人一人が持っていることが大切。自分の企業が信じる価値観を目指すための、攻めのリーガルマインドがこれからの企業価値を生む根幹になり得る」と結んだ。