新年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う「PCテクノロジートレンド」をお届けする。本稿はメモリ編として、DRAMとFlash Memoryの動向を紹介したい。今年はIntelとAMDの新CPUもあってDDR5が立ち上がるだろうし、Flash Memoryでは多層化による容量増強や、PCIe Gen5対応のNVMe M.2 SSDがどうなるかに期待できる。
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DRAM
昨年まではTechInsightsの公開されていたTechnology Roadmapを利用してご紹介していたのだが、2020年は公開をやめられてしまったので、申し訳ないが図版は無しで。
まず大きなトレンドで言えば、今年からDDR5が立ち上がる。もう2020年中にDDR5の量産そのものは始まっており、Samsungは2020年3月、SK Hynixは2020年10月にそれぞれ量産出荷をアナウンスしている。Micronは量産に関してはリリースを出していないが、2020年1月にサンプル出荷開始を発表しており、このあたりは事実上トップ3社横並びといった格好だ。
勿論この時点でのサンプルなり量産出荷というのはシステム検証用であって、まだ本番機に実装という話ではない(実際まだこれをサポートしたCPUが存在していないのだし)。ただ2021年にはこれらをサポートするCPUがIntel、AMD及びArmベースのSoCベンダーから出荷される予定であり、これに向けてまずはServer向けのRegistered、次いでコンシューマ向けのUnbufferedのDDR5モジュールが登場することになる。ちなみにCPUの投入そのものはコンシューマ向けの方が先行するが、なぜServer向けが先かといえば、こちらはより長時間の検証を必要とするためである。それもCPUベンダーやシステムベンダーだけでなく顧客に納入した先での検証とかも入る(この場合、CPUを含めたシステムは製品出荷前のサンプル機が入る事になる)事に関係する。
そんな訳で既にDDR5そのものは出荷を開始している訳だが、これが市場に流通を始めるのは2021年後半になるだろう。なにしろIntelならAlder LakeやSapphire Rapids、AMDならZen 4ベースの製品が出て初めて利用できることになる。Intelに関して言えば、Desktop向けのAlder Lakeが2021年中に出荷されるかは怪しいため、最初はMobile向けのSO-DIMMが立ち上がりそうである。一方AMDに関しては通常のDDR5 DIMMのニーズがメインになるだろう。もっともこれが出荷されるのはおそらく第4四半期からという訳で、市場全体の規模としてはそう大きくないだろう。そもそもメモリベンダーの側としても、DDR4とDDR5の生産量が逆転する(BitCross)のは2022年になると見込んでいる。したがって2021年に関してはDDR5は高止まり(同容量のDDR4比で30~50%程度のプレミア付き)しており、普及価格になるのは2022年以降になるだろう。
一方でGDDR7だが、こちらは先にAMD GPUのところでも触れたが未だに標準化作業が行われている最中である。とりあえず初期のドラフトに基づいた検証用IPを早くもインドのSmartDVがリリースしたが、これは本当に初期ドラフトに基づいたものであり、標準化には程遠い。実際、GDDR7の標準化の遅さにしびれを切らせ、GDDR6Xの検討をしている中華系メモリベンダーもあるという話は聞こえてきている。
ただGDDR6X、こちらはこちらで色々問題がある。1つ目は標準化された規格ではない事(そもそもMicronはこれをJEDEC標準にするつもりすら無いようだ)、2つ目はかなりアナログに関する技術の蓄積が無いとチップの製造が困難なこと、3つ目はこれをサポートするI/F IPが存在しないことだ。1つ目についてはこちらでも書いたが、MicronのRalf Ebert氏は質疑応答の中でJEDECに標準化作業を働きかけるつもりはないとはっきり断言しており、果たしてMicronからGDDR6XのSpecのライセンスを受けられるかどうかもはっきりしない。2つ目は1つ目とも絡むが、そもそもGDDR6Xはかなり高度なアナログ技術だけで波形補正(というかData Eyeの確保)をしているようで、EthernetとかPCIeなどPAM-4を利用する規格ではほぼ必須になっているFEC(Forward Error Correction)すら入れていないとされる。まぁFECはLatencyを著しく増やす(それもあってPCIe Gen6では軽いFECにFLITを組み合わせて対処する、という話はこちらで紹介した)からメモリバスには向かないのは判る気がするが、このあたりはおそらくMicronのアナログ波形補正技術のノウハウの塊になっていると思われる。このノウハウの開示なしに仕様だけ公開したところで、別のベンダーが作れるのかちょっと疑問である。そしてそういう独特な仕様だけに、Memory Controller IPを提供するベンダー(Cadence/SynopsysやRambusなど)も今のところGDDR6X用IPを提供するという話が全く出てきていない。これはGDDR6Xを利用した製品を作るベンダーの側には困った話である。
そんな訳で、GDDR7の仕様策定が終わるまでは身動き取れない、というのが現実的なところであり、なので帯域増強は(2021年に関して言えば)メモリバス幅を広げる形しか方策がなさそうに見える。まぁこの辺が動くのは2022年以降であろう。
GDDRの絡みで言えば、HBM3は? となるがこちらもまだJEDECで審議中である。HBM/HBM2の問題は1024bitという信号ピンの多さに起因して、メモリとチップの製造にシリコンインターポーザを必要とせざるをえず、結果高コストになるという問題だった。このためHBM3ではバス幅を512bitに減らし、その分信号速度を上げるという話であった。ただ既存のHBM2Eですら既にピンあたり3.2GT/sec(1.6GHzのDDR)に達しており、バス幅を512bitに減らすと同じ帯域を維持するだけで6.4GT/sec(3.2GHzのDDR)になるから、性能を引き上げようとすると信号レートが猛烈な事になり、これをSilicon Interposer無しで実現できるのか? という根本的な問題に立ち返る事になる。そうした事もあってか、いまだに仕様策定作業が完了しておらず、2021年中にどうにか出来るのか? という感じになっている。残念ながらこちらも市場投入はGDDR7並みに遠そうである。
最後に要素技術の話を。昨年のロードマップでもちょっと示したが、トップ3社(Samsung、SK Hynix、Micron)はいずれも1z世代の量産に入り、その先の1aも射程に入れている状況だが、ここからのロードマップがちょっと面白い。各社とも、1x(19~18nm)、1y(17~16nm)、1z(16~14nm)世代に関しては世代毎に2nm程度づつの微細化を行ってきたが、その先は1nm刻みの微細化になってゆくとみられる事だ。
Samsungは2020年3月に14nm(これはおそらく1αnm相当)をEUVで製造したと発表、次いで9月にはLPDDR5を1zプロセス+EUVでの量産を開始したと報じている。トップ3社の中ではSamsungが一番EUV化への意欲が高く、ロジック側のEUV移行に併せてDRAMのEUV化も進めていた、というかEUVのトレーニングにDRAMのウェハを利用していたらしいので、その意味ではDRAMのEUV化を狙ったというよりも単にEUVの習熟という話かもしれないが、Processの所でも説明したようにSamsungもそれなりにEUV Stepperを導入するので、こうした動きそのものは理解できる。現状の1zは、EUV化がなされているのはLPDDR5向け(の、しかもその一部)であり、次の1α(14nm)もEUVとArF+液浸の混載、1β(13nm)あたりでEUVへの切り替えをするつもりでいるようだ。この1βは2022年~2023年になりそうだ。
これに追従するのがSK Hynixであるが、まだ同社はEUVの習熟以前にEUVを利用した製造手法の確立といった段階であり、Samsungからちょっと遅れてのEUV移行となる。ただそれでもArF+液浸で微細化ペースそのものはそう遅れずに追従する予定らしい。
別の道を歩むのがMicronであり、同社は1α(14nm)、1β(13nm)、1γ(12nm)、1δ(11nm)と1nm刻みで微細化を進めるが、EUVに移行するのは早くても1γで、下手をすると1δまで遅らす可能性があるようだ。極限までArF+液浸でいくつもりらしい。ちなみに1αまでは概ねDouble Patterningで済むが、1β以降はQuad Patterningがメインになるようで、低コストが重要視されるDRAMマーケットでこれはどうだろう? と思うのだが、それでもEUVを導入するよりは安い、という判断と思われる。このあたり、Logicも手掛けている関係で、設備投資などがある程度按分できるSamsungと、DRAM/Flash専業のMicronの違いというところだろうか。まぁ2021年に関して言えば1α世代のDRAMチップが各社からまずDDR4 、次いでDDR5で投入され始め、2022年にはその1α世代がメインになるという感じかと思われる。
なおトップ3社以外に関しては、2021年中に10nm世代に量産プロセスを切り替えられるかはかなり怪しいところ。Nanyaは以前から10nm世代に向けて舵を切っており、2019年のAnnual Reportによれば2022年になる前にpilot runをスタート予定としていたが、これがどうなっているか現時点では確認できていない(まだ2020年のAnnual Reportが出ていないため)。Winbondは2019年に25nmプロセスの稼働を開始したばかりで、10nmに移行の気配もない(R&Dは水面下で行ってはいるとは思うが)。もっとも両社ともDRAMに関しては長期契約の、それも組み込み向けとかが多く、トップ3社の様にPCマーケットに積極的に製品を投入する感じではない。Etron Technologyに至っては汎用製品よりも独自製品(2019年に初めて登場したLow Pin Count DRAMを、2020年にはRPC(Reduced Pin Count) DRAMとしてエコシステムを作り始めているという感じで、メインストリーム向けは対象外とみているようだ。
では中国は? というと、少なくとも順調に進んでいるようには見えない。UniIC(西安紫光国芯半導体)はDDR3、CXMT(ChangXin Memory Technologies)はDDR4を既に量産開始しているが、それぞれ30nm台、20nm台のプロセスのままで、微細化に関しては(2020年の米中経済戦争のあおりを受けた事もあって)ほぼ止まっている模様である。このあたりが2021年に緩和されれば少しは進展があるかもしれないが、それでもトップ3社をキャッチアップするのには数年を要するだろう。
Flash Memory
Flash Memoryに関しては、2020年は予想通り多値化は足踏みした。FLC(Five Level Cell)を実用化に持ち込んだベンダーは2020年にはなく、2021年も研究開発レベルではあるかと思うが、製品化まで持ち込むところまで行くかどうか。筆者としては2022年あたりではないかと思う。
その一方で層数は着々と増えている。2020年だと、WDCと東芝(現キオクシア)が1月に112層で512GbitのTLC NANDを発表、YMTCが4月に128層で1.33TbitのQLC NANDを発表、SK Hynixが12月に176層の512Gbit TLC NANDを発表。Intelも12月に144層のQLC NAND SSDの製品発表を行っているといった具合。恐らく2021年の後半には200層にリーチするベンダーが複数出てくると思われる。
もっとも容量へのニーズは引き続き高い事もあり、こうした容量へのチャレンジは今後も続くことになるだろう。もっとも単純に層数を増やすのではなく(200層を超えると製造がかなり難しくなる)、100層台のものを複数個積み重ねる、というアプローチをとるベンダーもあり、この辺で各社の戦略の違いが出てきそうである。
もう一つの、主にPCマーケット向けの違いはFlash Controllerである。今はPCIe Gen3 NVMe M.2が主流ではあるが、かなりPCIe Gen4対応の製品も増えてきた。そして2021年後半にはPCIe Gen5に対応したコントローラのサンプル出荷もスタートするかもしれない。実のところ、PCIeの帯域を直にメリットとして感じられるのはGPUよりもNVMe M.2 SSDの方であり、それもあって2021年末にはPCIe Gen5対応製品が出荷されていても不思議ではないだろう。