新年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う「PCテクノロジートレンド」をお届けする。最後はチップセット編である。Intelは早々にRocket Lake用のIntel 500シリーズをリリースするだろうが、Alder Lake用のIntel 600シリーズは少し先になりそうだ。一方AMDはZen 4 Ryzen用の新チップセットを予定しており、こちらはPCIe Gen5へ移行するかどうかという話もある。

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  • PCテクノロジートレンド 2021 - チップセット編

    Photo01: 初代のぐるぐるさん(♀)。確か1998年の夏の暑い日、大原家の玄関で「暑くて死にそうです、助けてください」と行き倒れており、部屋に入れたらそのまま居付いた猫。もっとも毎日外の散歩というかなわばりの監視を欠かさない半野良だった。自分が猫ではなく人間だと思ってる節があり、それもあって人間と同じ扱いを要求した難儀なばーちゃん。2001年12月逝去。
    (編集注:「PCテクノロジートレンド」では例年、記事中に度々"猫"が登場することがあります。これは、著者の助手(?)をつとめる猫たちが仕事を手伝う(?)様子を節目として差し込むことで、複雑な話題を読み解きやすくする効果を狙った演出かもしれません)

Intel Chipset

恐らく3月と思われるタイミングで、Intel 500チップセット搭載マザーボードが出荷されることになる。実はIntel 500チップセットそのものは、Tiger Lakeにあわせて既に出荷されている(Photo02)。ただこれはTiger Lakeのパッケージに搭載される省電力版であり、Desktop版はもっと機能が増える事になる。まだ細かいスペックは明らかになっていないが、恐らく従来通りZ590がハイエンドに位置するのは間違いないだろう。ただ、CPUの所でも述べたようにRocket Lakeはいわば中継ぎという事もあり、それもあって400シリーズほど多くのラインナップは用意されないようで、あとはメインストリーム向けのB560とローエンド向けのH510が出る程度らしい(後追いで、例えばH570とかが出る可能性は0ではないとは思うが)。

  • Photo02: Tiger LakeのProduct Briefより。このPCH-LPがIntel 500シリーズチップセットのLow Power版である。CPUとの接続に使われるOPIはOn-Package Interconnectで、DMIの省電力版である。

ちなみにRocket LakeはPCIe Gen4をサポート、CPUから合計20レーン(16+4)のPCIeが出るので、GPUに加えてPCIe Gen4対応のNVMe M.2 SSDをそのまま接続できる。他にUSB 3.2 Gen2×2もCPUから出るようだ。その一方でチップセットとの接続は引き続きDMI 3.0、つまりPCIe Gen3での接続であり、チップセットから出るPCIeもGen3のままとなる模様だ。レーン数はこのところIntelのチップセットは世代毎にじわじわレーン数を増やしているので、ひょっとするとハイエンドのZ590では28レーン位出るかもしれない。

またこのIntel 500チップセットがComet Lake世代と互換性があるかどうか、もまだ判らない。恐らくは技術的には可能ながら、BIOS Updateが必要であり、公式には対応しないというあたりで、にも関わらず台湾の某Aで始まる変態マザーボードメーカーがComet LakeとRocket Lakeに両対応するIntel 500チップセット搭載マザーボードを出荷、なんてことがありそうな感じだ。

なおこのIntel 500チップセット、発表日が1月11日という噂がある。1月11日に何があるか? というと、CESにあわせてNews Conferenceが3つも用意されている。この2番目、Gregory Bryant氏(EVP&GM, Client Computing Group)による"Do More with the Power of Computing"というセッションがかなり怪しいと踏んでいるのだが、さて。これが事実なら、Rocket LakeのSKUなどを含む細かい話もやはり1月11日に公開されるかと思う。

その一方で、Core-X向けに関する話は一切流れてこない。個人的には(これもCPUの所で書いたが)もうCore-Xのマーケットはワークステーション向けのXeon Wで巻き取る方向になっているのではないかと思う。だとすれば新規のチップセットが出てこないのも納得であるのだが。

その次にはAlder Lake向けが控えている事になる。順序から言えばIntel 600チップセットになる訳だが、そもそもAlder Lakeが2021年内にDesktop向けに投入されるかどうかも怪しい状況であり(筆者は無いと思っている)、2022年まで見送りになるかもしれない。この世代ではさすがにDMIも4.0に上がるのではないかと思う。

  • Photo03: これは多分DOS/V magazineかVwalker向けの記事(CD-Rの耐久テストか何かだろう)の際のお仕事の写真。ちなみにこのぐるぐるさん逝去により割と深刻なペットロスに陥り、その結果キリーを里親として受け入れるわけだが、その直後にアリス・ちゅるる・ヴィーノ・クロフの4匹がウチにやってきて、その後延々と色んな子がやってくることになる。今回の記事でご紹介したのは家で看取った(&まだ死んでない)子で、これ以外に家で保護して里子に出した猫が10匹以上...

AMD Chipset

AMDに関しては、Zen 4 Ryzenの投入にあわせてAMD 600シリーズ(仮)チップセットが投入されるのはまぁ見えている。CPUとの接続がPCIe Gen5 x4なのは確実だが、I/O用にチップセットから出るPCIeレーンまでPCIe Gen5なのかどうかは現状不明である(消費電力を考えるとGen 4のまま据え置きかもしれないし、それでも困らないと思う)。あとは基本的には500シリーズの延長にあると考えればいいだろう。

悩んでいるのは(これもAMD CPUの所で出た話だが)、500シリーズ互換のZen 4 Ryzenが出るかどうか、である。悩んでいる根拠はこれである(Photo04)。AMDの場合、最低でも2世代のプラットフォームの継続性を保証してきていた。つまり

Zen 300シリーズチップセット + 400シリーズチップセット
Zen+ 300シリーズチップセット + 400シリーズチップセット
Zen 2 400シリーズチップセット + 500シリーズチップセット

となっている訳で、Zen 3は本来なら500シリーズと600シリーズに両対応をしたいところである。ここで大きく異なるのがPCIeとMemoryである。

  • Photo04: 「複数世代に対応」がこれまでのRyzen+チップセットの謳い文句だったわけで、これをどうするつもりなのか興味がある。

もしZen 4 RyzenがPGAパッケージで、かつピン互換が保たれれば、PCIeに関しては互換性が取れる。この場合チップセットとはPCIe Gen4での接続になる形だが、PCIeが後方互換性を保証しているから、単に600シリーズのすべての機能を使えないだけで、それさえかまわなければ問題はない。ただどうしようもないのがMemoryである。DDR4とDDR5で共用、なんてのはいくら何でも不可能である。

ただ先にAMD CPU編の図2で示したように、AM4向けとAM5向け、2種類のIODを搭載したZen 4 Ryzenを用意できれば、このあたりが解決できる。AM4向けIODはDDR4のメモリコントローラを搭載することになるから、外部メモリはDDR4のままである。勿論この場合性能は相応に落ちる事になるが、既存のAM4マザーボードを利用しているユーザーがそのままPlug-in Upgradeできることになる。一方でAM5マザーボードを購入したユーザーは、AM5 IODを搭載したRyzenを購入し、DDR5を組み合わせて使うという形になる。

プラットフォームの互換性を考えれば、こうしたMigration Pathを提供するのは非常に合理的であるし、MCM構成であるが故にこうした製品の作り分けはそう難しくない(後工程だけで出来る)というメリットはあるが、その一方で製品の販売の際には少なからぬ混乱を招きそうな気もする。どこまでAMDがアップグレードパスを提供するつもりがあるのか、というのがここでのキーになる訳だが、Intelに対するAMDの優れた点として、このアップグレード性を挙げていただけに、あっさりAM4ユーザーを切り捨てるとも考えにくいあたり、筆者もまだ判断がついていない。個人的にはそれなりにAM4の既存ユーザーが存在している事を考えると、こうしたアップグレードパスがあると嬉しいのだが。

ちなみにこのあたりは、例年で言えば6月位からぼちぼち情報公開がなされ、正式出荷はCPUにあわせて第3四半期末~第4四半期ということになるかと思う。