新年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う「PCテクノロジートレンド」をお届けする。本稿ではDRAMとFlashについて、主にメインメモリ向けのDDRやグラフィックス向けのGDDR、そしてSSDに使われるNAND Flashの最新動向を紹介したい。
(1/1掲載) PCテクノロジートレンド 2020 - プロセス編 (1/2掲載) PCテクノロジートレンド 2020 - CPU編 (1/3掲載) PCテクノロジートレンド 2020 - GPU編 (本稿) PCテクノロジートレンド 2020 - DRAMとFlash編 (1/5掲載) PCテクノロジートレンド 2020 - チップセット編 |
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◆DRAM
DRAMとFlashについては昨年の記事同様、TechInsightsのTechnology Roadmapをベースにご紹介したい。まずはMain MemoryであるDDR SDRAMについて。ご存じの様に現在はDDR4全盛であり、既にDDR4-3200がNative(つまりOC無し)に利用できるDIMMが流通している状況である。Speedに関してはJEDECのJESD79-4BのChapter 10(Speed Bin)で定義されている最高速がDDR4-3200で、これを超えるものは全て独自のOverclock Memoryという扱いになる。それもあってMemoryベンダーも定格はDDR4-3200止まりで、その先はDDR5でカバー、の方向になっている。
そのDDR5であるが、現時点でもまだJEDECのJC-42で使用策定作業中のままである(目標は2019年12月に策定完了だったので、若干遅れている)。昨年もちょっと紹介したが、既にSK HynixやSamsungはDDR5のサンプルチップの出荷を開始している。ただこれは極端な話、仕様策定のために必要なテストに使う事を目的としたチップで、その意味ではまだ量産クオリティには遠い。現状の見通しでは2020年中に標準化作業が終わりそうではあるが、製品レベルでの動作検証がこの後に続くわけで、その意味で2020年中の量産化は無い(か、あってもごく一部)であろう。マーケットとして立ち上がるのは2021年で、価格面でDDR4とクロスするのは2021年末~2022年中旬辺りになりそうである。
ちなみにDDR5であるが、技術的にクリティカルな部分はほぼ固まっており、
データレート:3.2Gbps~6.4Gbps
チップ容量:8Gbit~64Gbit
バンク構成:4BG×2/4Bank、8BG×2/4Bank
電圧:Vdd/Vddq/Vppが1.1/1.1/1.8V
Internal Vref:新たにVrefcaとVrefcsが追加
Prefetch:16n
といったところだ。細かい話で言えば、例えばOn Die ECC(128bit+8bit SEC)のサポートとか、CRCがRead/Write両方につくとか、CA/CSのTrainingが追加されたとか、なんか昔のXDR2を彷彿するような、かなり高度なバスプロトコルに進化した。DDR5の規格策定当初は、こうした高度なバスプロトコルはDRAMチップのコスト上昇に繋がるとメモリメーカーが難色を示していたが、ここまでやらないともう安定して動作しないというところまで来たようだ。
ということでPhoto41がProducts Roadmapである。一番先行しているのはやはりSamsungで、既に1z nm世代の量産に入っており、これをMicronとSK Hynixが追従する形だ。DDR4-3200をOCなしで可能にするのはこの1z nm世代の様で、なので今年中旬からは定格DDR4-3200の製品が潤沢にあふれる事になりそうだ。ただ現状は値段が下落しているDRAMであるが、2020年中に再び上昇の気配を見せており、潤沢ではあるが価格はやや上がりそうではある。この1z nm世代がそのまま第1世代のDDR5メモリにも使われることになるだろう。
次がGDDRで、こちらは既にGDDR6がNVIDIA/AMDの製品に採用されて出荷されつつある。現状Micron/SK Hynixは14Gbpsが最高で、Samsungのみ15.5Gbps品を出荷している状況だが、恐らく2020年中にどのメーカーも16Gbps品をリリースすると思われる。ちなみにGDDR6のSpecification(JESD250B)には最高速度そのものは規定されておらず、なので別に16Gbpsが上限と言う訳ではない(事実Samsungは2018年のISSCCで18GbpsのGDDR6を発表している)が、量産レベルでこれを超えるためにはプロセスを1z nm以降に切り替える必要がありそうだ。ただ1z nmについてはむしろ各社GDDR7に期待しているらしい(GDDR5Xの失敗を踏まえてか、GDDR6Xは見送りになりそうな雰囲気だ)。そのGDDR7は、既にTechnical Groupが結成されて、現在はWorking Groupの結成に向けての準備作業を進めている最中である。そして気が早いIPベンダーの中には、早くもGDDR7のVerification IPの提供をアナウンスしているところまである。もっとも現状まだタイムラインは不明なままで、どんなに早くても2022年以降になりそうだ。
同様にHBM3の検討も開始されているが、こちらもGDDR7と同じく、2022年以降であろう。
ところでPhoto42がDRAMのTechnology Roadmapであるが、1z nmまではArF液浸+マルチパターニングで済ませていたのが、1αはついにEUVを導入する事になっている。Samsungはおそらくいち早くこれに対応できる(単にEUVのステッパーを導入しているというだけでなく、EUVを利用してのラインの作り方のノウハウの蓄積がある)だろうが、MicronやSK Hynixはまだちょっと大変そうだ。このあたりで、またSamsungと2位以下のグループの格差ができるのかもしれない。
◆Flash
QLC NANDがごく当たり前に発売されるようになっており、各社100層近い3D Stackの製品を提供しつつある、というのが2020年元旦の状況である。では今年はどうなるのか? という話だが、ロードマップ(Photo43)的に言えば、今年中に150層に近いところまでは到達しそうだ。ただ200層にたどり着くのは2021年以降となるようで、その意味では大容量化はちょっと足踏み状態になる。2019年8月のFlash Memory SummitではFLC(Five Level Cell)の発表があったり、また12月のIEDMではKIOXIA(旧東芝メモリ)が記憶セルを半円形状にすることで記憶密度を2倍近くまで高めるTwin BiCS FLASHを発表したりしたものの、どちらの技術も2020年中に商品化につなげるのはかなり厳しいと筆者は判断している。
もっとも現状でもM.2 NVME SSDで1TB品とか2TB品が普通に販売されている状況なので、容量競争に関しては一段落した感はある。むしろ容量の過剰分をアクセス速度向上とか書き込み寿命増加などに振り分ける形で性能差別化を図る製品が増えてくるのではないかと筆者は予測している。