新年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う「PCテクノロジートレンド」をお届けする。本稿はGPU編だ。NVIDIAのAmpere、AMDのRDNA 2が盛り上がった昨年。2021年は後継としてNVIDIAのHopper、AMDのRDNA 3が投入されると見られるが、ここでIntelがディスクリートのXe GPUを立ち上げて競争に参加しそうな状況である。

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NVIDIA GPU

2020年はAmpereアーキテクチャを2種類に分ける、という技でデータセンター向けのA100とコンシューマ向けにGeForce RTX 3000シリーズを投入してきたNVIDIA。A100に関しては多分次の世代まで進展はないだろうが、コンシューマ向けはもうちょっと追加製品が出てくる可能性がある。というのは、その前のTuringの世代の場合

  • TU102:Titan RTX、GeForce RTX 2080 Ti
  • TU104:GeForce RTX 2080/2080 Super/2070 Super
  • TU106:GeForce RTX 2070/2060/2060 Super/GeForce GTX 1650
  • TU116:GeForce GTX 1660 Ti/1660 Super/1660/1650
  • TU117:GeForce GTX 1650

と5種類のコアが存在した(*1)。ところがAmpereの場合

  • GA100:NVIDIA A100
  • GA102:GeForce RTX 3080/3090
  • GA104:GeForce RTX 3070/3060Ti

のみである。GA100を別扱いにすると、派生型が2種類しかないのはちょっと少ない気がする。多分このあと、よりCUDA Coreを減らしたGA106とかGA107が出てきても不思議ではないし、出てきそうな気がする。もともと当初からGeForce RTX 3050なんて型番も聞こえてきていたし、3060がTiのみというのも不自然である。恐らくはGA106とかが、GeForce RTX 3050/3060として投入されるのではないかと思う。

はっきり見えないのはGeForce GTX 3000シリーズ、つまりRT Coreを搭載しないAmpereの派生型が出るかどうかである。AMDもDXRTをサポートしたRadeon RX 6000シリーズを投入し、また2020年~2021年に掛けてDXRTをサポートしたゲームが多く投入されたことで、RayTracingの利用には追い風が吹いていると言えば吹いているのだが、まだRayTracingが普通という状況からは程遠いし、ハイエンドゲーミングマシンはともかくとしてメインストリーム向けはまだ非RayTracing環境が主流である。勿論NVIDIAは強力にRayTracingをメインストリームに持ち込もうとしているが、そのAmpereの現状でのローエンドであるGeForce RTX 3060 Tiの参考価格が$399。国内の店頭価格は平均6万円といったところで、さすがにちょっと厳しい。ちなみにGeForce RTX 2060 Superであってもやっと5万を切るあたりであって、下は2万切りのGeForce GTX 1650とか3万前後のGeForce GTX 1660、4万切りのGeForce GTX 1660Tiとはちょっと価格差がある。ここをGeForce GTX 1600シリーズのまま据え置いて、AMDとかIntelに掻っ攫われる位なら自社の製品を...という発想は当然出ると思う。それもあって、2021年にはGA110番台、つまりGeForce GTX 2000番台(?)が追加されても不思議ではないだろう。

  • PCテクノロジートレンド 2021 - GPU編

    Photo01: 初代営業部長のちゅるるさん(♀)。多分歴代一番賢かった。もともとは1998年頃に流れてきた外猫だったが、避妊手術の予後が悪く再縫合することになって、「落ち着くまで部屋の中で」と言われてそのまま家猫化。机の上が「いい場所」になったのは多分ちゅるるさんのせい(これがチャシーに引き継がれ、現在チャシーとまめっちで場所争いが激化中)。2010年11月逝去。
    (編集注:「PCテクノロジートレンド」では例年、記事中に度々"猫"が登場することがあります。これは、著者の助手(?)をつとめる猫たちが仕事を手伝う(?)様子を節目として差し込むことで、複雑な話題を読み解きやすくする効果を狙った演出かもしれません)

さてこれに続くものであるが、NVIDIAがTSMCとSamsungの5nmに生産予約を入れたという話は既に伝わってきており、恐らくはAmpereの時と同じくデータセンター向けがTSMC、コンシューマ向けがSamsungになると思われる。アーキテクチャ名はHopper。これはCobolを開発した、故Grace Murray Hopper海軍准将(*2)に因んだもので、Turingと同じ系列である。ということは、Turingと同じく内部はコンシューマ向けであり、データセンター向けには引き続きAmpereベースのものを5nmに移行させた形になるのか、それともHopperもAmpere同様にモジュール構成になっており、内部を組み替えてデータセンター向けとコンシューマ向けの両方に対応するのか、現状では良く判らない。

恐らくはAmpereの時と同じく、まずはデータセンター向けが2021年前半に投入され、2021年後半にコンシューマ向けが投入されるというスケジュールになりそうだ。タイミング的にはAMDのRDNA 3とほぼ同じ時期であろう。

(*1) GeForce GTX 1650がなんでこんなにあるんだ? と思われそうだが、実際TU106/TU116/TU117の3種類のコアを使った製品が混在しているのだから仕方がない。もっともスペック的には全部同一(896CudaCore)で、4GB/128bitのGDDR6(一部GDDR5の製品もあり)メモリ搭載なので、外から見てるとまず見分けがつかないのだが。
(*2) プログラムのミスを意味する"Bug"という言葉の創始者(?)でもある。ちなみに最初のBugは。リレー式計算機のHarvard Mark IIで、リレーの間に蛾が挟まって動作不良になっていたのを発見したことである。