キャビネットデザイン
意外にも、キャビネットはスピーカー設計の中で最もコストがかかる部分です。巧みに設計され組み立てられたキャビネットは、ドライバーユニットをしっかりと支え、ドライバー自体の振動に反応しません。ドライバーユニットが取り付けられているキャビネットの前面は、バッフルと呼ばれます。ここに使用される材料は、キャビネットの他の部分に比べると、たいてい少し厚くなっています。できるだけ強固にして、キャビネット自体が音を発しないようにするためです。
ブレースは、特にバスユニット部で多く使用されます。ブレースを使うと、キャビネットのバスユニット部の共振周波数が上昇し、共振のリスクが低減されるという、大きな効果が得られます。チャンバーがさまざまなドライブユニット向けに作られることもよくあります。バスドライバーの背面からの音は位相がずれているため、混合すると、スピーカーの前面からの信号が差し引かれる(減衰する)からです。設計によっては、この背面の音声信号は位相シフトされ、ダクトに繋がれ、そしてポートまたはレターボックス開口部を通して、スピーカー前面から出る信号に加えられます。
一部のハイエンドユニットでは、これらの不要な要素をリスナーから減衰させるために、ドライバーの後ろに反転したホーンの形状を採用しています。バッフルには多くの場合、延長チューブが取り付けられています。チャンバー内に低周波の共振を作り、スピーカーの低音側の効率が向上するように、延長チューブの長さは精密に計算されています。このようにして、見た目からは想像できない低音を出す小型スピーカーが出来上がります。確かに完全な信号処理のアクティブ設計の場合、ドライブユニットの応答は特定の設計に最適化することができます。しかしキャビネットデザインを巧く仕上げるには、かなりの時間と労力、研究が必要であり、何千ドルにも及ぶ費用がかかるのも事実です。
ドライブユニット
中/低周波数用のトランスデューサーとして最も一般的なドライブユニットは、ダイナミックスピーカーです。これは、永久磁石(多くの場合ネオジム)、ボイスコイル、フレームまたはバスケット、スピーカーコーンを利用しています。アンプから発生する電気エネルギーは、ボイスコイルとマグネットの相互作用によって、コーンの動き(偏位)に変換されます。入力信号に比例して、コーンに接触している空気の圧縮(コーンの前方移動)と希薄化(コーンの後方移動)が発生し、音波が生成されます。
ここではさまざまな要素の調整が必要になります。コーンは非常に軽いため、慣性(動きに対する抵抗)を伝えないことが重要で、また、剛体である必要があります(コーンの表面に歪みがあると、生成されるオーディオの音色が変わるため)。歴史的には、特殊加工の紙(非常に軽い)、アルミニウム(硬い)、セラミック材料など、さまざまなコーン材料が使用されてきました。最近では航空宇宙素材も採用され、ゴルフボールの質感のように、空気がスムーズに通過できるようになっているものもあります。また、ボイスコイルは誘導負荷を示します。ボイスコイルは周波数によってインピーダンスが異なるため、アンプの設計には考慮が必要です。
高周波トランスデューサー(ツイーター)は、主に2種類に分類されます。このダイナミック・バリエーションは、低/中周波と同様に構成されていますが、異なる素材を使用しているため、高域のレスポンスが最適化されています。メーカーは、時にはドーム素材に合成ダイヤモンドを使用します。これは非常に剛性が高く、軽量であるため、反りがなく、効率的に空気を送り込むことができます。これらの合成ダイヤモンドは1500度の炉で製造されますが、費用が高くなります。
もう一方のツイーターとしては、リボンタイプがあります。これは、電磁場に浮かんだ超薄型金属ダイアフラム(リボン)を備えています。このダイアフラムは非常に軽いため、ほんのわずかな違いにも反応し、入力された高周波音声信号を非常に繊細に再現します。このタイプはインピーダンスが非常に低いため、アンプとマッチングさせるために変圧器が必要になる場合があるのが欠点です。また高価で、壊れやすいことも弱点です。
ここでもう1つ、静電型スピーカーに触れておきます。これには、2つの導電性グリッドに挟まれた超薄型フラットダイアフラムが使用されています。ダイアフラムが非常に薄く、高い周波数に応答でき、また低音を十分に再現できるだけの表面積があるため、1つのダイアフラムで、すべての周波数を再現することができます。静電型スピーカーでは、非常に忠実な(歪みのない)音声が再現されます。部屋に適切に配置すれば、部屋のレイアウトの影響をほとんど受けない音が再生されます。静電ユニット自体には筐体がないため、室内のデザインに合わせて形状を決められます。磁気を利用したスピーカーと比べて繊細であり、過負荷によって損傷しやすいため、現在はあまり普及していません。
まとめ
高品質オーディオIC、DSP、SoCの普及により、ストリーミングやマルチルーム機能を内蔵したアクティブスピーカーは、家庭用オーディオ分野で一般的になりつつあります。デジタルルームチューニングと革新的なドライバーコントロールによって、小型でも迫力あるサウンドが再生されます。標準的なブックシェルフ型でも驚くほどのサウンドを実現できます。アクティブアーキテクチャーのおかげで、ドライブユニットの選択、保護、デジタル/アナログ領域での機能の設定など、重要な構成要素をコントロールできるようになりました。また、それぞれで回路の最適化が可能であるため、ケーブル接続が減り、見た目も向上しています。
著者プロフィール
Mark Patrick(マーク・パトリック)Mouser Electronics
テクニカル・マーケティング・マネージャ