電源効率の向上
ここまでに検討した各アプリケーション分野では、電源にいくつかの共通する特性(共通する課題)があることが明らかです。
- 小型
- 電力効率
- 広い入力電圧範囲
- 熱的に困難な厳しい環境における信頼性の高い動作
これらの産業設計では基板のスペースが限られているため、ヒートシンクなどの手法による電力消費の管理は実用的ではありません。これらの設計では筐体を密閉して埃や異物の侵入を防いでいるため、ファンによる気流の強制も現実的な選択肢とはいえません。そのため、実際に重要なのは電源の効率ということになります。
これらの産業設計に関わる入力および出力電圧を考慮すると、ステップダウン(バック)電圧レギュレータが必要になります。もっとも一般的なステップダウンアーキテクチャは、非同期整流バックコンバータにローサイド整流ダイオードを外付けした構成です。これらのデバイスは高電圧向けの設計がかなり容易です。24V入力と5V出力の設計では、バックコンバータは約20%のデューティサイクルで動作し、外付け整流ダイオードは残り80%の時間を導通します(これは電力消費の大部分を占めます)。電力消費を大幅に抑えるには、整流ダイオードの代わりに同期整流器(ローサイドMOSFETなど)を使用します。
4A負荷と電圧降下が約0.64Vのショットキー整流ダイオードを使用する例を考えましょう。80%のデューティサイクルでは、導通損失はおよそ次のとおりです。
(0.64V)×(4A)×(0.80)=2W
そこで、ダイオードの代わりに同期整流器の役割を果たすローサイドMOSFETを使用します。これで0.64Vの電圧降下は、MOSFETトランジスタのオン抵抗RDS(ON)の両端の電圧降下に置き換わります。MOSFETのRDS(ON)はわずか11mΩです。そのため、電圧降下は次のとおりです。
(11mΩ)×(4A)=44mV
電力損失は次のようになります。
(0.044V)×(4A)×(0.80)=141mW
したがって、この例では、MOSFETの電力損失は全負荷時にショットキーの電力損失の約1/14です。この例は、同期整流方式に伴う電力効率上の利点を示しています。
ここで最高入力電圧の取り扱いに関する注意点として、次の点を指摘する必要があります。工場アプリケーションでは24Vが定格のレールであるとしても、現在利用可能な28V、36V、42V、または60Vの入力パワーマネージメントソリューションの中から選択するのが賢明です。
実は、長いケーブルやPCBトレースから生じる可能性があるすべてのサージシナリオが既知であるか、モデル化可能でない限り、最高動作範囲が42Vまたは60Vのデバイスが最善の選択肢と考えられます。28Vでは24Vに近すぎて確実なマージンを確保することができず、36Vでは24Vレールでセンサやエンコーダとともに動作する際に危険です(この手法ではサージ保護を実装している場合でも機器が過剰な電圧にさらされる恐れがあります)。
集積化パワーモジュールはサイズと電力効率のニーズに適合
集積化パワーモジュールは、必要なパワーマネージメントのサポートを提供すると同時に、多数のディスクリート部品を不要にし、電源ソリューション全体を小型化することができます。
例えば、MaximのHimalaya uSLIC DC-DCパワーモジュールは、広入力のHimalaya同期整流バックコンバータ(FET、補償回路、その他の機能を内蔵)と出力インダクタを内蔵しています。このモジュールは、ディスクリート手法と比べて電源ソリューションを最大1/2.25に小型化します。このパワーモジュールファミリは、2.9~60Vの入力電圧をサポートしており、したがって民生機器などの低電圧アプリケーションからさらに高電圧の産業アプリケーションにまで対応することができます。
まとめ
小型化は現在、多くの産業設計で最重要な課題となっています。それに伴い、電源の小型化と高効率化が強く求められています。集積化パワーモジュールは、産業アプリケーションの入力電圧、熱消費、およびサイズの要件を満たすためのソリューションを提供し、より優れた動作効率を工場、車両、ビルなどにもたらします。
著者プロフィール
Anthony "Thong" HuynhMaxim Integrated
インダストリアルパワー事業部門テクニカルスタッフ主要メンバー