実は課題が多い車載センサのための電源経路

最新の自動車には、運転を安全で事故のないものにするために、多数のセンサーが搭載されています。中でもイメージセンサーは、先進運転支援システム(ADAS)の重要な一部分であり、ドライバーの死角をなくすことを可能にするのみならず、交通信号の認識や歩行者の検出、さらには駐車支援機能までも提供してくれるようになってきました。車体の外周に沿って周到に配置されたこれらのセンサーはすべて、当然のことながら、駆動するための電力を必要とします。

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    図1. インテリジェントハイウェイ環境

駆動に必要な電力を賄う車載バッテリからこうしたリモートカメラへの電源経路には実は多く課題が存在しています。例えば車載バッテリに接続されるフロントエンドレギュレータは、コールドクランクやアイドリングストップに対応するとともに、「ロードダンプ」作用 (動作中に電源から切断されたDCモータによって生成される電圧)に耐えてASIL B-D安全性仕様を満たす必要があります。

また、同軸ケーブルを介してカメラモジュールに入力される電流および電圧は、さまざまなタイプのフォールトに対するモニタリングと制御が必要です。リモートカメラモジュールは、パワーマネージメントシステムを内蔵し、小型かつ効率的で、優れたコスト効率を備える必要もあります。

このレポートでは、車載バッテリからリモートカメラに至るパワーマネージメント経路について説明し、サイズ、効率、および安全性に関する電源経路の課題を満たすシステムレベルのソリューションとはどのようなものかを考えてみたいと思います。

リモートカメラシステムの電源経路

サラウンドビューカメラシステムの例を考えてみましょう。ここで、バックブーストコンバータは、バッテリに接続し、クワッドプロテクタIC、ACブロッキングコイル(L)のバンク、および4本の同軸ケーブルを介してDC電力をリモートカメラに供給します。クワッドデシリアライザは、ACカップリングコンデンサ(C)のバンクおよび同じ同軸ケーブルを介してマイクロプロセッサをリモートカメラに接続します。

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    図2. サラウンドビューカメラシステム

単一チャネルの電源経路

単一チャネルのパワーマネージメントセクションを、図3に明示します。バックブーストコンバータはバッテリに接続し、プロテクタICは同軸ケーブルに沿って発生するさまざまなフォールト状態から保護します。リモートカメラモジュールでは、2つのデュアルバックコンバータがイメージセンサーおよびシリアライザに給電します。

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    図3. リモートカメラの単一チャネルの詳細

以下の各項にて、電力チェーンの各要素について解説します。

アイドリングストップおよびコールドクランク用のバックブースト

内燃機関の自動車は、停車時にエンジンを停止することによって燃料消費量を最大10%ほど節約することができます。車載バッテリは、通常13.5Vですが、フル充電されたバッテリでは最大16Vになる場合があります。アイドリングストップ技術を採用した自動車は、エンジンのスタート時に大きい電圧低下を経験するため、電源の下限は標準の13.5Vを下回り、多くの場合6Vまたはさらに低くなる可能性があります。

コールドクランクは、内燃式エンジンに課せられる、さらに過酷な条件です。寒冷時、エンジン始動時の車載バッテリ電圧は5Vまたはそれ以下まで低下する可能性があります。

バックブーストコンバータは、その出力の上下への広い入力電圧振幅がある場合にも出力の安定化を維持します。図4は、パワートレイン用のバックブーストの構成とその動作表を示しています。VIN > VOUTの場合、ICはバック(ステップダウン)モードで安定化を行うのに対し、VIN < VOUTの場合はシームレスにブースト(ステップアップ)動作に遷移して、VOUT出力の厳密な安定化が維持されグリッチがないことを確保します。バッテリ電圧範囲全体がスイッチモード、高効率の方式でカバーされます。

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    図4. バックブーストコンバータ

STGおよびSTB保護

自動車で、車体全体に広がるケーブルおよびワイヤに関する最も一般的な問題の例として、ワイヤ自体の損傷と、車体グランドまたは主バッテリ電源への偶発的な接続があります。

グランドへの接続が潜在的に危険である理由は、ワイヤ上のデバイスが生成する大きい電力が車体グランドに流れた場合、過熱の原因となり、保護を内蔵していないデバイスは破損する可能性があるためです。

バッテリ電源ラインへの接続も潜在的に危険で、5Vでのみ動作する電気デバイスが許容限度以上の電圧の発生源に突然接続される可能性があります。これがさらに悪い状況へとつながると、バッテリは数百Aを生成可能なため、デバイスが車載バッテリによって損傷を受けたあと、さらに大量の電力が流れる可能性があります。爆発に至ることも十分に考えられます。

自動車用語では、グランドまたはバッテリへの偶発的な接続は、それぞれ「地絡」(STG:short-to-ground)または「天絡」(STB:short-to-battery)と呼ばれています。

STB保護は出力の過電圧を防ぎます。STG保護は短絡から生じるデバイスのシンク/ソース電流を制限します。

バッテリ電源のフロントエンドで直接STGおよびSTBに対する保護を行うことが重要です。フロントエンドの安全性機能は、すべての下流回路を損傷から保護するために役立ちます。