• SAS Institute エグゼクティブ・バイスプレジデント COO兼CTO オリバー・シャーベンバーガー氏

SAS Institute Japanは6月11日、年次イベント「SAS FORUM JAPAN 2019」を開催した。今年のテーマは「デジタル変革に魂を!~Analytics in Action~」。ここ数年、デジタルトランスフォーメーションはIT業界のトレンドとなっているが、デジタルトランスフォーメーションによって効果を得ている企業はまだ少ないかもしれない。

基調講演は、SAS Institute エグゼクティブ・バイスプレジデント COO兼CTOのオリバー・シャーベンバーガー氏が行った。同氏は、イベントのテーマに基づき、デジタルトランスフォーメーションをバズワードに終わらせることなく、実践および成功に導くためのポイントを説明した。

変わりゆくデータ、技術

シャーベンバーガー氏は、企業がデジタルトランスフォーメーションを推進する背景として、ネットワークが世界中の隅々までいきわたるようになったことで、さまざまなモノがつながるようになり、データのあり方が変わってきたと説明した。

過去と比べて、センサーデータ、ストリーミングデータ、非構造データなどが増えており、それに伴い、さまざまな意思決定も生まれるようになったという。

さらに、シャーベンバーガー氏はデータに加えて、技術のあり方も変わってきたと指摘した。UberやAirbnbに代表されるように、技術は所有の時代から利用の時代になってきており、シェアリングエコノミーが台頭してきている。

「シェアリングエコノミーでは、多くのデータが生成して交換される。それによって、企業の生産力や顧客満足度の向上がもたらされる」とシャーベンバーガー氏。

こうしたデータドリブンな社会において、SASはAIをリアルなものにして、企業に活用してもらいたいという。

AIをリアルなものにするために

シャーベンバーガー氏は「過去のAIは手作りのルールベースのシステムであり、複雑でダイナミックな事象をとらえるのは不得意だった。しかし、ここ10年で、データドリブンなアプローチによって言語理解が進んだ。アルゴリズムがデータからパターンを発見することが可能になった。そして、データから、価値、情報、パターン、行動を生成できる。これはオートメーションの世界であり、その結果、データとアナリティクスは新たなフェーズに押し上げられた」と、AIを取り巻く環境の変遷について説明した。

こうした変化をビジネスの視点から見ると、「どんな課題を解決したいのか」「データと課題はどのような関係か」「データドリブンなオートメーションがどのように役に立つのか」「どんなメリットが得られるのか」ということが重要になる。

SASはデータ・ドリブンなギャップを解決していくという。データ・ドリブンなギャップとは、データ自体の内容、データと価値のギャップ、スキルのギャップを意味する。

人材が不足しているからこそ、誰もが使えるアナリティクスを

一方、企業のAI導入は初期段階だという。導入が進まない背景には、人材・サポート・インフラ・予算の不足に加え、エンド・ツー・エンドのソリューションの欠如などがあるという。「企業はAIに対する正しいアプローチを必要としている」とシャーベンバーガー氏は訴えた。

シャーベンバーガー氏は、ハーバードレビューの記事を引き合いに出し、AIプロジェクトを開始する際の推奨事項を示した。

まずは「小さく始めること」だ。加えて、自社の業種に特化して、1つ~3つのプロジェクトに絞ったほうがいいという。そのほか、「6カ月から12カ月で成果が見込まれること」「メンバーがプロジェクトに同意していること」「プロジェクトチームが小規模であること」「メンバーが周知伝達できるプラットフォームがあること」などもすぐれたAIプロジェクトの特徴となる。

さらに、シャーベンバーガー氏はデータフロー、データ処理、意思決定を自動化することが必要だと説明した。適切に実装された自動化はデータの民主化に強力な推進力となり、誰もがどこでも使えるアナリティクスが実現するという。

「誰もが使えるアナリティクス」を実現するには

シャーベンバーガー氏は、アナリティクスエコノミーにおいてはリソースへのアクセスが必要不可欠だが、スキルピラミッドの上の層からではこれを成し遂げられないと述べた。

SASは「誰もが使えるアナリティクス」を実現するために、まず、ビジュアルベース、APIを備えたアナリティクスツールを提供している。次に、さまざまなレベル自動化を提供する。「自動化のレベルを選べることが重要。われわれは、これをインテリジェント・オートメーションと呼んでいる」とシャーベンバーガー氏。

加えて、シャーベンバーガー氏は、「データドリブンに必要なものは、質と量においてアプリケーションに適切なデータである」と、改めてデータの重要性を訴えた。

必要なデータを見極めるには、「AIはどのような価値を出してくれるのか、それにはどのようなデータが必要か」といったギャップ分析を行う必要がある。具体的には、そのデータは「正しいのか」「完全なのか」といったことを検討することになる。

さらに、シャーベンバーガー氏は「AIにはバイアスがない。しかし、モデルやデータにはバイアスが入る可能性がある」と、データの重要性を訴えた。