多様なチャネルから情報を導き出すプラットフォーム

そのような状況を踏まえたエスパルスのプラットフォームを支えるデータ基盤は、顧客データベースと販売管理システムを統合し、APIでCRMシステム、マーケティング分析システムなどとの連携を可能とするERP型。

プラットフォームはAPIにより、認証基盤を統一することでビジネスに即応でき、スマホアプリも用意している。まずは、第1弾として清水エスパルスのホームスタジアムであるアイスタにおいてスマホアプリから座席にいながら飲食類を注文し、キャッシュレスでの決済を可能としている。これにより、事前に注文できるため混雑した列に長時間並ぶ必要がなく、利便性の向上が図れるという。

左伴氏は「ものを買うたびに列に並び、お金を取り出して支払い、お釣りをもらうという一連の時間は必要ではなく、スタジアムに来場した本来の目的が違うものになってしまいます。列に並ぶために、前半のアディショナルタイム中に席を立つ観客が存在するということは、ブランドの失墜にもつながるのです。プラットフォームを活用することで、目的に合った時間を引き算していかなければなりません」と、語気を強める。

また、岡田氏は「米国など海外の事例では、売り上げが拡大することが証明されています」と続ける。

オープンイノベーションプログラムの効果

これら、一連の取り組みが実を結ぶ契機となったのが昨年に実施したIBM SPORTSとのオープンイノベーションプログラム「SHIMIZU S-PULSE INNOVATION Lab.」の影響が大きいという。

これは「スタジアムでの観戦体験(新しい顧客体験)」「ファンとのエンゲージメント(ファン層拡大)」「パートナーシップ(地元活性化)」「サポーター360」「ワイルドカード」の5つの領域を一般公募し、エスパルスの顧客データの一部や実証の場としてスタジアムなどの空間を提供し、ビジネスを推進する具体的なアイデアを形にするというものだ。

日本IBMはアクセラレータプログラムとデジタルテクノロジーを提供し、エスパルスではスポンサーの“ビジネスアクティベーションの場”として位置づけており、今年も継続する意向を示している。

左伴氏は「企業がスポンサーをしつつ、エスパルスの肖像権などを活用しながら、連携を通じて新しいサービスを生み出し、収益を確保できるサイクルがイノベーションプログラムのポイントです」と、説く。

そして、同氏は「将来的には企業同士が県内外、国内外とつながるビジネスを想定しています。エスパルスが縁でパートナーになった企業同士がエスパルスと関係ないものを作ることも可能なのです。これが実現すれば自然とエスパルスのプレゼンスも向上し、パートナーの企業とも良好な関係でビジネスが展開できるのではないかと考えています。そのため、今後はITを活用した法人のマッチングビジネスに取り組みます。また、プラットフォームはキーワードを入力すれば、人間では気付き得ない情報を導き出してくれるものにしたいですね」と、期待を抱いている。

  • 左伴氏

    左伴氏

一方、岡田氏は「今後はAIなど暗黙知やパターン学習を活用できればと考えています。そのためにはデータの蓄積・加工・分析・活用できる基盤の構築を、さらに推し進めていきます。わたし自身も“IT屋”として高い熱量を持ちながらプロジェクトに取り組んでいます」と述べている。

このような取り組みは、Jリーグが掲げる「ホームタウン活動」との親和性が非常に高いものと言えるだろう。同活動は本拠地占有権や興行権の意味合いの強い「フランチャイズ」とは異なり「Jクラブと地域社会が一体で実現する、スポーツが生活に溶け込み、人々が心身の健康と生活の楽しみを享受することができる町」と定義している。

地域に根ざしたクラブだからこそ訴求点が多く、両社ではその“価値”を共有しており、そのほかのJクラブも基本に立ち返り、クラブにとっての訴求点を今一度洗い出す必要性があるのかもしれない。今後もエスパルスなりの独創的な観点で、人々に“喜ばれる”ビジネスに期待したいところだ。