--昨年は働きがいのある会社ランキング1位となりましたが、どのようなことに取り組んだのでしょうか?

三村氏:実は働き方改革を一切意識していませんでした。世に言う、残業しない、個人に裁量を任せるなど、働き方改革に似た取り組みは自然にできていました。われわれでは業務の量ではなく、業務の質に目を向けています。

2013年にオフサイトミーティングと呼ぶ合宿を行った際に、2つの目標を設定しました。1つは国別で販売高で2位になること、そしてもう1つはIT業界でもっとも“働きがい”のある企業になる、ということです。この2つの目標を5年間取り組み続けてきました。

結果として、2018年にグローバルで販売高が2位になったほか、IT業界のみならず日本で働きがいのある企業ランキングで1位を獲得することできました。幸い、業績は極めて順調に推移し、年平均の成長率は96%となっています。この背景としては、国内マーケットの需要とコンカーのサービスがマッチングしたこともありますが、働き方を重視した経営を7年間、愚直に続けてきたことが大きいと感じています。

われわれはベンチャーキャピタルとの合弁会社のため、取締役会で仔細な事業状況・戦略・課題を報告しています。社員にも取締役会と同等、あるいはそれよりも細かい情報を開示し、常に大きなビジョンと具体的な戦略、事業上の課題・リスクを共有しています。

これは、社員の視座を高めるために実施していることです。その上で、社員間の権限委譲を促進するオペレーションとしています。明らかに権限委譲が進んでいる部署と、働きがいがある部署は相関性があり、わたしも含め全社で徹底的に権限委譲し、社員が高い視座を持ちつつ、経営者と同じ感覚で会社から任せられ、必要なリソースを与えられ、個人の裁量で業務に取り組んでいます。

人がやりがいを感じる瞬間は、成長を実感したときや業務の先に成長が待っているときです。そのため、失敗や成功を通じて成長を実感してもらうことを行っています。同じ成功・失敗でも、任せられて取り組んだ失敗・成功と言われるがままに取り組んだ失敗・成功では、質が違います。つまり、任せられた状態ならば自分の成長につながる感覚を得られるますが、言われるままであれば同様の感覚を得ることは難しいものだと思います。

  • コンカー  代表取締役社長の三村真宗氏

そのため権限委譲と成長は表裏一体だと考えています。あらゆる状況下において社員の成果を認知する仕組み・制度を設け、成功すれば社員同士で称賛し、失敗しても咎めることはしていません。

これを会社の文化として組み込み、装置化するため数年前から互いを“高めあう文化”の醸成を進めています。高め合うというのは失敗・成功してもフィードバックし合い、感謝し合い、至らない点があれば教え合うようにしています。この取り組みは非常に浸透しています。

社員からわたしに対して、細かいフィードバックもあれば、わたしからも社員にフィードバックしています。どうしても社長から指摘されてしまうと萎縮してしまいがちですが、“高め合う文化”が共通言語になっているため、わたしから社員にフィードバックしても、萎縮することなく、新たな成長機会であると捉えてくれています。

そのため、全社でフィードバック研修や半期ごとにフィードバック実行状況をリサーチするなど、装置化を徹底的に進めています。“働き方”から経営者の目線で“働きがい”に高めなければ日本の状況は好転しないでしょう。

このような取り組みは、身軽な外資系企業だけしかできないと考えられがちですが、むしろ堅いイメージがある金融業界、重工業業界をはじめとした役員の方から話を聞きたいという申し入れや、幹部研修での講演などの依頼もありますね。

--2019年の見通しについて教えてください。

三村氏:すぐにでも“働き方”の話から卒業して、“働きがい”のステージに進むべきだと考えます。これにより、従業員のパフォーマンスが引き出されるため、限られた人的資源の中で時間を操作してパフォーマンスを引き出すのではなく、“働きがい”を通してパフォーマンスを引き出すステージに進んでほしいと心から思います。われわれが7年間取り組んだ経験が少しでも役立つのであれば、クラウドサービス以外でも貢献したいと考えています。

規制緩和の側面では、D2Dを推進するための複数のハードル(カード会社のデータは証憑化できないなど)をなくすために、行政手続きを原則として電子申請に統一する「デジタルファースト法案」が検討されています。これが可決された場合、経費データのD2Dに弾みがつくため、将来的な規制緩和の実現に向けて訴えかけていきます。

ビジネスの観点では、現在は時価総額TOP100の日本企業のうち、41社に採用されています。企業の導入に対する意識も数年前と比べると変化し、2022年には採用企業数を70社まで拡大します。採用企業がコンカーをプラットフォームとし、間接業務が徹底的にデジタル化されれば、日本の企業、社会は大きく変化すると感じています。

個別の戦略としては、アウトソーシングサービスに注力します。われわれではクラウドサービスを提供していますが、クラウドサービスはシステムのアウトソーシングに置き換えられると思います。経理部門では、入力された経費情報の正誤や不正の有無などのチェックに加え、請求書の入力など、単純労働作業に貴重な人的資源が投入されています。

そこで、企業としては非競争領域である間接業務周辺の業務を請け負うアウトソーシングサービスを推進していくというわけです。今春には新たなサービスの発表も予定し、軌道に乗せていきたいですね。現状でアウトソーシングビジネスは第3四半期だけで日本法人全体の売上高の17%を占めていますが、2022年には40%まで拡大していく計画です。

また、日本法人はSMBのビジネスを非英語圏の国で初めてスタートさせています。クラウド型経費管理サービス「Concur Expence」、請求管理ツール「Concur Invoice」、従業員の出張を管理する「Concur Travel」の3本柱のうち、フランスやドイツはTravelは提供していますが、Invoiceがない場合もあり、フルラインアップで提供しているのは日本法人のみです。

これらの施策は、本社から言われる前に自ら進めています。さらに、今年は消費税の軽減税率制度の開始を予定していますが、コンカーのプラットフォームは8%、10%と混在していてもマルチタックスの管理が可能なため、問題なく対応できる準備は整っています。