10月27日・28日の2日間、東京・中野サンプラザで「秋のヘッドフォン祭 2018」が開催されました (主催はフジヤエービック)。すべてを試聴するには2日間あっても足りないほどですが、特に気に入った新製品を4つピックアップしてお届けします。

デノン「AH-C820W」

完全ワイヤレス花盛りという状況のBluetoothイヤホンですが、通信用の部品やバッテリーを限られたスペースに収めなければならないなど制約が多く、「音」を最重視するユーザにとって納得できない部分があるのも事実です。それをどうにかできないか……。デノンの回答が、この「AH-C820W」です。ヘッドフォン祭初日にプレス向け説明会が実施されたので、詳しい話を聞いてきました。

  • デノンのネックバンド型ワイヤレスイヤホン「AH-C820W」

最大の特長は、同社イヤホン最上位モデル「AH-C820」にも採用されているデノンの特許技術「ダブル・エアーコンプレッション・ドライバー」。2基の11.5mmダイナミックドライバーを対向配置することで、2倍の振動板面積を確保できることがポイントです。

ダイナミックドライバーを2基積む構造としては、デュアルプッシュプルと呼ばれる方式もありますが、「プッシュプル方式は駆動力が増すものの、振動板面積も押し出される空気も2倍とはなりません」(デノン開発担当者) とのこと。写真を見ると1枚が傾いていますが、中高域をきれいに再生するための工夫だそうです。

2基のドライバそれぞれに±のケーブルをつなぐ「デュアル・ダイレクトケーブル」もユニークな設計。「スピーカーでいえばバイワイヤリング接続に近い」(デノン開発担当者) という構造により、純度の高い音を狙っています。線材にはOFCを、シースにはしなやかで耐久性に優れるメッシュ被覆を採用しているため、音質と取り回しのよさを両立します。

  • 特許技術の「ダブルエアーコンプレッションドライバー」により、名実ともに振動板面積を倍増させ、押し出す空気の量も増やしています

  • ネックバンド先端の凹みにはマグネットがあり、ハウジングを固定させることができます

コーデックにはSBC、AACのほか、aptX、aptX LL (Low Latency) をサポートします。USB DAC機能を内蔵しており、付属の1.3m USBケーブルをつなげば、PCで再生した音をフルデジタルで再生できます。入力は最大48kHz/16bitとCDクオリティですが、PCと気軽にワイヤード接続できるのは大きなメリットです。 aptX対応のDAPで試聴したところ、低域の自然な量感に驚きました。それも強調した音ではなく、音源が本来持つ低域情報を実直に描写しているよう。ドライバのレスポンスのよさか、一音一音の粒立ちがよく輪郭の描写も緻密でぼやけません。中高域もつややかで素直に伸び、サウンドステージは広々した印象です。音の傾向は有線版のAH-C820とよく似ており、「Bluetoothでよくぞここまで!」という水準に到達しています。完全ワイヤレスは便利ですが、電波が安定し落とすことがないネックバンド型もいいものだな、と改めて評価した次第です。

FOCAL「ELEGIA」を真空管アンプで聴いてみた

FOCAL (フォーカル) といえば、家庭用からプロスタジオ用、車載用までスピーカー関連製品を広く手がけるフランスのオーディオメーカー。そのうち家庭用スピーカーとHi-Fiヘッドホンをここ日本で取り扱うのがラックスマンです。ヘッドホンではフラグシップモデルの「UTOPIA」とスタンダードモデルの「ELEAR」、その間に位置する「CLEAR」の3機種を展開しています。

  • FOCALの密閉型ヘッドホン「ELEGIA」の奥に見えるのは……真空管?

今回のヘッドフォン祭でお披露目された新製品が「ELEGIA (エレジア)」。現在展開されている3機種はいずれも開放型ヘッドホンですが、このELEGIAはFOCALのハイエンドラインナップとしては初の密閉型です。FOCALのサウンドを外へ持ち出せるようにとの考えのもと、40mm径の"M"字型アルミニウム-マグネシウム・ドーム振動板など、開放型モデルの機構を引き継ぎつつ密閉型にアレンジ。インピーダンスを低めの35Ωに設定しポータブルプレイヤーとの組み合わせでベストパフォーマンスを発揮できるようチューニングを施したそうです。

  • 40mm径の"M"字型アルミニウム-マグネシウム・ドーム振動板など、ELEGIAの基本的な構造は開放型3モデルと同等だそうです

試聴用にDAPを取り出そうとしたとき、目に入ったのが真空管。折しもラックスマンは2007年に人気を集めたコンパクトな真空管オーディオを「Neo Classico II」(真空管プリメインアンプ「SQ-N150」と、USB-DAC内蔵CDプレーヤー「D-N150」) として復活させましたが、11月の発売に先立ちヘッドホンリスニング用として展示していたのです。スピーカーでの試聴は体験済ですが、ヘッドホンは初めて、しかもFOCALの新製品。期待に胸が高鳴ります。

  • A4サイズの真空管プリメインアンプ「SQ-N150」

そのサウンドですが、レスポンスが鋭く明瞭。全体的にはフラット傾向でありつつも低域が引き締まっているためか、ELEARなどの開放型モデルと比較するとグルーブ感が増している印象です。真空管アンプというと、とかく暖かみのある音などと形容されがちですが、Neo Classico IIとELEGIAの組み合わせに限っては、ハイレゾ音源も解像感高く繊細に鳴らします。

なお、SQ-N150ではヘッドホンリスニング用になにか特別なことをしているか聞いてみると、L-509Xなど他のプリメインアンプと同様、出力をヘッドホン端子に切り替えているだけとのこと。ラックスマンの流儀として、ヘッドホン用の回路は設けず、スピーカー出力時と同様に真空管を経由した音を出しているのだそうです。ヘッドホンアンプ専用機もいいですが、機会があれば真空管アンプのヘッドホン出力を試してみては。

すこぶる元気な中華ブランド(1) Shangling

ヘッドホン・イヤホンのイベントで回を追うたびに存在感を増しているのが中国メーカーの製品。日本企業へのOEMとして実績豊富なメーカーが自社ブランドを設立するケースもあれば、新規のベンチャー企業がいきなり海外展開を始めるケースもあります。特にOEMの経験があるメーカーは品質的に問題ないどころか、技術的にも最先端という場合がありますから、安くて高品質・高性能な中華デバイスは珍しくありません。むしろ、膨大な数がある中華デバイスの中からいち早く良品を見つけ出そうとする目利きのユーザが増えています。

SHANLING (シャンリン) は今年で創立30年を迎える中国・深センのオーディオメーカーで、豊富なOEM/ODM供給実績を持ちます。日本では今春発売された腕時計サイズの小型DAP「M0」がヒット中で、筆者も愛用しています。microSDカード上の音源を再生しヘッドホン出力する通常のDAPとしての機能はもちろん、Bluetoothでヘッドホンやイヤホンに飛ばすことができ、反対にスマートフォンで再生した音をBluetoothで入力する機能も備えます。しかも、入出力とも高音質コーデック「LDAC」と「aptX」に対応という充実ぶり。価格は15,000円前後とお手頃で、コストパフォーマンスは圧倒的です。

  • SHANLING初のイヤホン「ME100」

そのSHANLINGが初めて開発したイヤホンが、国内代理店の伊藤屋国際ブースに展示されていました。「ME100」と命名されたその製品は、ダブルマグネット・ダブルキャビティ構造に複合素材 (PU+PEEK) の振動板を用いた10mm径のダイナミックドライバーを搭載。ハウジングには高強度アルミニウム合金を採用し内部共振の低減を狙います。イヤホンケーブルは8芯高純度無酸素銅 (OFC) でMMCX端子を採用と、リケーブルを意識した設計です。これに高級感漂うレザーケースが付属して「販売価格は20,000円以下に抑えたい」(伊藤屋国際の担当者) とのことですから、このグレードのイヤホンとしては割安感があります。

早速試聴してみましたが、立ち上がり・立ち下りが迅速で、不自然な膨らみやモタつきがありません。音の輪郭は明瞭で、スネアのアタックも自然に収束します。ボーカルの帯域も描写が自然で解像感が高く、肉声に近いテクスチャを感じさせます。ブランド初のイヤホン製品とは思えない (OEMの経験があるかどうかは未確認) 完成度です。年末にかけて「M0」ともども中華デバイスにおける台風の目になること、間違いないでしょう。

  • 某スマートウォッチに少し似ている「M0」で試聴しました

  • 高級感漂う付属のレザーケースには、M0を格納できるスペースも確保されています

すこぶる元気な中華ブランド(2) Fiio

Fiio (フィーオ) は、日本では10年近く前から販売されているブランドなだけに、いま敢えて中華デバイスとして取り上げることに若干の違和感もありますが、最近の攻勢は目を見張るばかりです。そんなFiioの新製品「M9」が国内代理店・エミライのブースで展示中と聞き、試聴してきました。

  • Bluetooth/Wi-Fi対応のDAP「M9」

M9は6月に発売された「M7」にワイヤレス機能を加えた、コンパクトなDAPです。BluetoothのオーディオコーデックはSBC、AACのほかaptXとaptX HD、LDACをサポート。さらにHUAWEI (ファーウェイ) が推進している新しいハイレゾ級コーデック「HWA」(現在のところ市販の対応イヤホン/ヘッドホンはありません)にも対応という充実ぶりです。Wi-Fiもサポートしているので、DLNAを利用したネットワークプレイヤーとしても利用できます。

ハードウェアスペックもかなりのもので、基板を高密度な8層にすることで信号伝送を効率化 (M7は6層)、DACチップは旭化成エレクトロニクスの「AK4490EN」をデュアル構成で積み、さらにDSD再生用にFPGAも搭載しています。TI製オペアンプを採用するなどアナログ回路にも抜かりはありません。USB DACとしても利用でき、PCMは384kHz/32bit、DSDは5.6MHzまで再生できます。

同じくFiioのBA×3とDD×1というハイブリッドドライバ構成イヤホン「FH5」で試聴しましたが、まずS/Nの高さに驚きました。濃厚というよりはあっさりめ、モニター的というよりはリスニング的なテイストですが、解像度を感じさせつつも聴き疲れしないサウンドキャラクターには好感が持てます。ブースではmicroSDの音源で試聴しましたが、ネットワーク再生も試してみたいところです。

驚くべきはそのプライシングで、「実売価格は34,800円前後」(エミライ担当者)とのこと。USB DACとしてもネットワークプレイヤーとしても使えることを考慮すると、かなり魅力的ではないでしょうか。ブースにはバッテリー内蔵せず、USBバスパワー動作としたUSB DAC/ヘッドホンアンプ「K3」も展示されていて、こちらは「1万円台前半」とのこと。人気製品となること確実でしょう。

  • 3.5mm/シングルエンドと2.5mm/バランスという2系統の端子を備えています

  • USB-DAC/ヘッドホンアンプ「K3」。バランス出力にも対応しています