Bluetoothオーディオの音質は、音源自体の音質とイヤホンやスピーカーなど最終的な音の出口の性能をのぞけば、「コーデック」で決まります。いくつか種類があるなかで、音質に定評あるのがクアルコムの「aptX(アプトエックス)」です。その次世代に位置付けられる「aptX Adaptive(アプトエックス・アダプティブ)」について、メディア向け説明会が開催されました。

スマートフォン向けSoC「Snapdragon」などで知られるチップベンダーのクアルコムは、2014年にオーディオ関連技術に強みを持つ英CSRを買収した結果、オーディオコーデック「aptX」を獲得しました。現在ではBluetoothオーディオで採用例が多いのですが、Bluetoothが普及する前から放送業界でも利用され、日本では長野冬季五輪での採用実績があるそうです。

  • クアルコムのJonny McClintock氏

    CSR以来、aptXの開発に関わり25年というクアルコムのJonny McClintock氏

これまでのaptXには3種類あり、1つ目はスタンダードな「aptX」でCD相当(44.1kHz/16bit)のオーディオ信号を伝送できます。2つ目の「aptX HD」は、48kHz/24bitという情報量を扱える高品質再生が特徴で、いわゆるハイレゾオーディオを強く意識しています。3つ目の「aptX Low Latencey(aptX LL)」は、伝送時の遅延を抑えたことが特徴で、ゲームなどシビアなタイミングを要求するコンテンツ向きです。

今回披露された「aptX Adaptive」は、10年にもおよぶという研究開発期間を経て発表されました。位置付けとしては、前述した3つのコーデックの次世代版であり、そのうちaptXとaptX HDについては後方互換性を保ちつつ、aptX LLについては置き換えるという方向性で開発されているそうです。有線接続と同じように活用できる簡便さと接続の信頼性を保ちつつ、CDおよびハイレゾ級の高音質、ゲーム用コントローラにも耐えられる低遅延をひとつのコーデックで実現することが狙いです。

  • aptX Adaptive

    現行のaptXは、3種類がラインナップされています

aptX Adaptiveは、サンプリングレートが最大48kHz、量子化ビット数(ビット深度)が最大24bitをサポートします。最大の特徴は、再生中にデータレートを上下させる機能(以下、可変データレート)で、279kbpsから420kbpsの範囲で変動させることが可能です。変動幅について発表会終了後に確認したところ、「279kbpsから420kbpsの範囲で小刻みに変動する」(McClintock氏)とのことで、LDACのように段階(330 / 660 / 990kbps)を区切っているわけではないそうです。

この可変データレートは、デバイスで再生されているコンテンツの種類や電波の状態によって決定されます。たとえばaptX HDの場合、データレートは伝送開始から変化しませんが、aptX Adaptiveでは「通信環境によりデータレートを上下させる」(McClintock氏)と、Bluetoothで利用する2.4GHz帯の通信状況を見てデータレートを変動させることで、安定した通信を実現します。

  • aptX Adaptive

    aptX Adaptiveで、Bluetoothオーディオの活用範囲が拡がります

オーディオストリームのヘッダー部分を参照することで、再生するコンテンツが音楽なのか映像に含まれるオーディオストリームなのかを判断し、接続性を安定させる仕組みです。データレートは随時変動し、圧縮率も5:1から10:1の間で変化します。

音質については、McClintock氏が音響工学の講座を持つ英サルフォード大学で30人に200サンプルの音を聴き比べてもらったところ、96kHz/24bitのハイレゾ音源と420kbpsのaptX Adaptiveとの間に有意な差は認められなかったそうです。

レイテンシーは、aptX Adaptive自体(ソフトウェア単体の性能)では2ミリ秒という数値を実現しています。ただし、ハードウェアに実装した場合はOSなどの影響を受けるため、Snapdragonを採用したデバイスでは70ミリ秒以下、Android P(AOSP版)では80~100ミリ秒程度になるとのことです。

aptX Adaptiveを利用するためには、受信側(イヤホンやスピーカー)にQCC5100シリーズなど対応チップセットを搭載している必要があります。オーディオ開発キット(ADK)のバージョン6.3以降でサポートされ、ヘッドセットなど対応製品は2019年中にリリースされる予定です。

  • aptX Adaptive

    ハイレゾ級の音質に低遅延性が加わります

クアルコムがaptX Adaptiveを発表した理由としては、Bluetoothオーディオ用コーデックの大半が音楽鑑賞用であるなか、「低遅延」を打ち出すことにあります。従来もaptX LLというコーデックがラインナップされていましたが、aptX AdaptiveはaptX HDに匹敵する音質とともに、aptX LLに並ぶ低遅延性を実現します。

ゲームで操作のタイミングとキャラクタの動きがあわない、映像ストリーミングで俳優の口もととセリフがずれているといった遅延の解決は、音質が注目されがちだったBluetoothオーディオの大きな課題となっています。今後、Android端末やイヤホン、ヘッドホン、ゲーミングデバイスでの採用が進めば、“Bluetoothの音”を変える可能性を秘めています。今後の展開に期待しましょう。

  • ■aptX系コーデックの比較

  • aptX系コーデックの比較