2005年に「PlayStation 2」用アクションアドベンチャーゲームとして発売された『God of War』。それ以降、「PlayStation 3」や「プレイステーション・ポータブル」版の続編・派生作品を経て、「PlayStation 4」(以下、PS4)用ソフトとして発売された『ゴッド・オブ・ウォー』は、ナンバリング作品『GOD OF WAR III』から8年ぶりの完全新作となります。

過去シリーズのことをご存知ない方向けに簡単に紹介させていただきますと、このシリーズは神にも匹敵する力を持つ戦士クレイトス(プレイヤー)が、派手な演出で迫り来る怪物を相手に暴れまくるアクションアドベンチャーゲーム。そのプレイ感を一言でまとめるなら「爽快に暴力」。そのプレイ感と演出が評価されて、長く続くシリーズになった作品です。

シリーズのファンは当然、「爽快に暴力」という期待を持って本作のディスクをPS4にセットしたはずです。でも、プレイした私の脳裏に浮かんだのは、意外にもある邦画のタイトルでした。


『そして父になる』

  • 息子に、弓の使い方を教えるクレイトス。過去作のクレイトスのことを知っている人にとっては、違和感すら覚えるシーン

ほぼ交流のなかった息子と二人で 、妻を火葬するところから始まるストーリー

本作のストーリーは、亡くなった妻の家に向かい、一人息子のアトレウスの協力を得て妻の亡骸を火葬するところから始まります。妻に任せきりで、常に距離を置いて接してきた息子。そんな彼と過ごす初めての時間が彼の母親の火葬ですから、交わす言葉も少なくなりがち。

  • 家の中に安置してあった妻の亡骸を抱き、家の外へと運び出すクレイトス

  • 息子の目の前で、妻の遺体に火を点ける父親

息子は見たところ、まだ10歳程度。日本なら、小学校高学年といったところです。彼は自分(クレイトス)とは異なり、闘い、生き延びるためのスキルや知識を持っていない。クレイトスは力がすべてであり、強さこそが自分の価値だったと思っているような人間。そんな彼だけに、どう息子に接していいのかがわからないのです。でも、母親を失った彼に、生き延びるための術を伝えなければならない。にも関わらず、息子は言うことを聞かない。ちょうど、反抗期の息子に対して、どう接していいのかわからない父親のような葛藤を味わいます。

復讐のため、怒りに身を任せて殺戮の限りを尽くしてきた過去作とは、ドラマの方向性が大きく異なっているのです。

  • 息子の武器は非力な弓。しかも、戦闘経験は皆無

初代の発売から13年。ゲームも、我々も、色々なものが変わりました

過去作との違いは、ドラマだけではありません。

このゲームのシステムは、目的地に向けて移動していく中、敵とのバトルとパズル要素をクリアしていくというもの。

バトルは、飛来する飛び道具は盾でガードしながら敵の動きを見て隙を待ち、手持ちの斧を投げたり、息子に指示を出して弓を射ってもらい、チャンスを作る……という、アクションゲームとして攻略法を模索していくタイプ。過去作のように、簡単操作でド派手なアクションを楽しむ……という感じではなくなりました。

  • 闇雲に攻撃していたのでは、最初の中ボスすら倒せないほど、「ちゃんと」攻略しなければならない

また、少し考えればすぐに解ける程度の難易度ではありますが、パズル的な要素も盛り込まれました。たとえば、クレイトスがチェーンを引っ張ると開く扉があるとします。でも、チェーンから手を離すと再び扉が閉まってしまう。そこで、チェーンを引いて扉が開いている状態で、扉上部にある紋章を目掛けて斧を投げます。クレイトスの斧には冷凍効果があり、チェーンから手を離しても扉が閉まらなくなるため、その間に歩いてしまえばいいのです。

  • 〇ボタンを押せという表示の前でチェーンを引くと、扉が開く

  • 扉が開いているうちに、扉の上部にある紋章に向けて斧を投げ、扉を凍らせる

このように、新作『ゴッド・オブ・ウォー』は、過去作と比べてゲーム性やストーリーの温度感がやや変わっています。

でも、考えてみてください。私たちも、歳を取ります。学生や社会人になったばかりで、帰宅後に『God of War』を遊んでいたようなプレイヤーも、それから13年。結婚して子供が生まれた人もいれば、同年代の友人が結婚し、人の親となっていく様子を眺める機会も多くなったのではないでしょうか。

過去シリーズを遊んだ人にとっては、老いの影響で圧倒的な「強さ」が薄れつつあるクレイトスを嘆いている人もいるでしょうけれども、ゲーム内では過去作のことはあまり語られません。最初から「妻を失ったばかりで、息子を連れて旅に出た父親」という設定で遊んでも、何の違和感もありません。

  • 過去作をプレイしていなくても、「息子がいる屈強な勇者の物語」と解釈すれば、特に違和感なく遊べる

PS4版『ゴッド・オブ・ウォー』には、ナンバリングの数字も、サブタイトル名も付いていません。一般的に続編もののゲームは過去作のファンに向けてアピールするものですが、本作はあえて、新規ファンにもプレイしてもらいたいというメッセージが込められているように感じます。