デルは中堅企業向けビジネス強化に向け、今年の2月から 「ひとり情シス」向け施策の提供を開始した。その狙いと背景を広域営業統括本部 執行役員 統括本部長 清水博氏に聞いた。

同社では今年の2月、中堅企業を担当するゼネラルビジネス営業統括本部を、広域営業統括本部に名称を変更し、中堅企業対応を注力していくことを明確にした。今年は22都市でセミナーを実施し、中堅企業を全国で担当することを鮮明にするため、「広域」という名称に心を込めたという。昨年の2月より人員規模が2倍になり、ビジネスも成長しているという。

同社が「ひとり情シス」にフォーカスし始めたのは、昨年の12月26日から今年の1月20日にかけて、全国の中堅企業(従業員が100~1000人)443社に対して実施した「IT関投資動向調査」がきっかけだという。

  • デルが行った中堅企業向け調査

この調査では、企業の動向(業績、グローバル展開、従業員数)、IT動向(担当者の増減、IT予算の増減、注力しているキーワードなど)、IT関連製品・サービス(保有PC数、サーバ導入数や懸念点、保守運用の状況など)を調査。その結果、IT担当者がいない企業は13%、ひとり情シスは14%と、情報システム部門の人員が一人以下の企業が予想以上に多いことがわかったという。

「ここがすべての基本戦略の中心になりました。調査では、ひとり情シス未満が3割近くいるものの、決してネガティブではなく、予算もあり、ソリューションニーズもあります。こういった方々に向けたソリューションを提供してきたというのがこの1年の活動です」と清水氏は語る。

  • デル 広域営業統括本部 執行役員 統括本部長 清水博氏

具体的には、IT機器においてどれを買っていいのかわからないという課題に応える形で、3月にはクイックウィン ソリューションとして、ノートPC、デスクトップPC、サーバ、ストレージなど売れ筋4製品を年度末特別価格提供。大きな売上があったという。

また、提供モデルでは中堅企業のグローバル志向の高まりを受け、海外でも国内と同レベルのサポート受けられることをアピールしたことも販売に寄与したという。

これを受け、同社では顧客ごとに担当を決め、デルのすべての製品を販売していくインサイドセールス部隊の人員を増強。

そして5月には、約半数の中堅企業が「システム・データを復旧させる自信がない」と答えたアンケート調査結果を踏まえ、より簡易なバックアップソリューションを提供した。

さらに6月には、ラクス、カゴヤ・ジャパン、エックスサーバーと協業モデルを通じた中堅企業向けクラウドサービスの提供を開始。10月には、ひとり情シスのスキルアップを支援するため、ビデオ講座の提供やパソコン、ネットワーク、サーバ、セキュリティ、クラウドなど技術スキル、コミュニケーション、ITガバナンスに関する講座を提供する「ひとり情シス大学」を開始した。

また、12月11日には、過去の発注履歴、製品詳細だけでなく、サポート履歴まで把握できる「お客様カルテ」の提供を開始した。

お客様カルテ提供の背景を清水氏は、「企業の方は、資産管理はできていても、最終の見積りなど、交渉履歴を踏まえた管理まではできていません。お客様カルテでは、こういったもののほかに、トラブルも経緯や故障予知も含めて管理できます。こういったことは、サーバに関してはできている企業はありましたが、クライアントまではなかなかできません。故障の前触れを検知できれば、対応もすばやくできます」と説明する。

  • 広域営業統括本部の1年間の取り組み

同社は「お客様カルテ」の提供にあわせ、「ゆりかごから墓場まで」の支援メニューを体系化。可視化・定額型サポートメニューや、PCサポートアシスト、機器回収サービス、記憶メディア データ消去などが新規に準備された。

  • お客様カルテ

「ひとり情シスの人は、情報がないのと、どうしていいのかわからないというのが課題です。お客様カルテは、中堅企業のPC管理としての総まとめという意味で出しました。2月以降、アンケートや覆面座談会、営業から情報などにより、ひとり情シスの課題が加速度的に集まっています。それを『ゆりかごから墓場まで』として取り込み、提供しました。デルの特徴は、お客様にヒアリングを行って、そのニーズに向けたソリューションを提供している点があります。今年は、それがきちんとできた年になりました。情シスの人員がどんどん減り、残された人はどんどん忙しくなっています。その結果、スキルのない若い人が情シスをやっています。そういうお客様にどういったソリューションを提供していけばよいのかを考え、体系化しています。ITベンダーとしては、一番ひとり情シスにリーチしている会社だと思います」と清水氏は自信を見せる。

  • クライアント管理において、導入から廃棄まで(ゆりかごから墓場まで)サポート

「ゆりかごから墓場まで」のメニューを提供するにあたっては、メニューを細分化して必要なものだけ導入できるようにしたほか、価格の見直しも行ったという。

  • クライアント管理において、導入から廃棄まで(ゆりかごから墓場まで)サポート

「『ゆりかごから墓場まで』は、導入から廃棄までをすべてデルが請負ますというサービスですが、これまでは、比較的高額になるケースが多かったと思います。そのため、お客様は丸ごと請け負ってもらうことに抵抗感があります。今回は、各メニューを細かくし、必要なものだけ導入できるようにしました」(清水氏)

管理業務はクラウドに移行すれば、ある程度軽減されると思うが、この点について清水氏は、「クラウドの移行は業務の一部で、業務システムをクラウドに移行している例は、中堅企業では、まだまだ少ないと思います。また、意外にクラウドは費用がかかるというケースや、クラウドにアップするデータと、自社内におくべきデータの区別がつきにくくなっているケースもみられます。逆に、サーバがクラウドに移行する中で、クライアントのアウトソーシングのニーズが生まれているというケースもあると思います」と回答した。