ソニーは2017年度の経営数値目標として、グループ連結でROE(自己資本利益率)を10%以上、連結営業利益で5000億円以上を掲げている。この数字は「達成を狙える基盤が築けた」(プレスリリースより)という自信とともに、投資家からも評価を受け、5月の経営方針説明会から8%弱、株価も上昇している。

一方で、いわゆる「強いソニー」が戻ってきたという評価は得られていないとの指摘もある。業績見通しでは金融部門が1700億円の営業利益と3割強を占め、ソニーの祖業である"エレキ"に該当するAV機器のホームエンタテインメント&サウンドが580億円、スマートフォン「Xperia」のモバイル・コミュニケーションはわずか50億円という見通しで、合わせても1割強の数字にしかならない。

2017年度経営方針説明会の資料より、ソニーグループの業績見通し

利益率だけではない。代表執行役 社長 兼 CEOの平井 一夫氏が「ユーザーの皆様に感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社であり続ける」をミッションに掲げるように、ソニーとして新たな価値をもたらすデジタル製品を久しく世に出せていない現実がある。

ゲーム機「PlayStation 4」が投資回収期間に入り、2017年度にゲーム部門は1700億円の営業利益を稼ぐが、礎となった初代PlayStationがリリースされたのは1994年と23年も昔になる。その間、薄型ノートPCなどで支持された「VAIO」や前述のXperiaなど、ソニーファンにこそ響く製品は登場しているものの、いわゆる「AppleのiPhone」のような製品は出ていないと言える。

2年目に突入した新ジャンル製品「wena wrist」

イノベーションが起きなかった理由が、縦割り組織や事なかれ主義などに代表される大企業病そのものかどうかには議論の余地があるだろう。ただ、平井氏らが2014年4月にスタートしたSeed Acceleration Program(SAP)は、現状のソニーが満足のいく組織ではないと感じたからこそ、始めたものであることは確かだろう。

SAPは既存事業領域、いわゆるモバイル部門やAV部門、金融部門以外の「種(Seed)」となる新規事業を創出するためにスタートした。

これまでに全9回の募集、およそ600チームの応募があり、12件が事業化にこぎつけた。そのうちの1つが「wena project」だ。「長年培ってきた文化や伝統を大切にしながら、最新のテクノロジーを駆使して、デバイスを違和感のなく身に着ける世界を作る」をコンセプトに、第一弾としてスマートウォッチを生み出した。

Seed Acceleration Programの概略図

wena wristは、バンド部分にさまざまなモジュールを凝縮させた

Apple Watchに代表されるスマートウォッチはディスプレイを搭載し、ゴツい盤面の中にBluetoothや各種センサーを組み込む。一方の「wena wrist」は逆転の発想でバンド部分にすべてのデジタル部品を集約した。「アナログを大切にしつつ、スマートウォッチの利便性を兼ね備えたもの」という、発案者の同社 新規事業創出部 wena事業室 統括課長 對馬 哲平氏のこだわりだ。

バンド部分のみでおサイフケータイ機能とスマートフォンの通知機能、活動量計機能を実現しており、当初は時計部分を含めて「時計」として2016年4月に出荷を開始した。1年強が経ったこの7月には、製品ジャンルが認知され始めたとしてバンド部分単品の販売をスタートする。

同時に、これまでステンレスバンドのみのラインナップだったが、新たに革製品の「wena wrist leather」を12月下旬より発売する。wena wrist leatherでは新開発のFeliCaモジュールを組み込み、電子マネー「楽天 Edy」のチャージと支払いが可能になる。

wena wrist leather

楽天Edyに限定されるが、電子マネーを利用できる

電磁誘導によって電子マネーを利用できることから充電の必要はなく、生活防水の加工によって水濡れの心配もない。活動量計や通知機能こそないものの、スマホ要らずでプラスチックカードを出す必要もない電子マネーを利用できるファッショナブルな革バンドは一定の需要があるだろう。