ソニー 新規事業創出部 wena事業室 統括課長 對馬 哲平氏

對馬氏は学生時代からwena wristのアイデアを温めており、「ソニーだから」「ソニーらしさ」を考えた結果の製品ではないと語る。こう話すと怒られると苦笑いしつつも「それが逆に、ソニーらしさだという声をいただいたこともある」(對馬氏)と言うように、創業者の一人、井深 大氏が起草した設立趣意書に書かれている「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」に沿った製品とも言える。

発売から1年強がたち、「事業化初年度は、それなりにいい数字を残せたと思う」と對馬氏は語り、それ故に第2弾となるレザーバンドの発売にこぎつけた。對馬氏がこうした製品を開発する理由は、これまでのデジタル製品とは異なる、ウェアラブルデバイスがゆえの課題を解決したい思いだ。

「(本社最寄り駅の)品川で歩く人が全員Apple Watchを身に着ける世界は考えられない。Appleやサムスンに負けたくないという気持ちは持ちつつ、まだまだ同じ土俵には立てないと認識している。ただ、自分が抱いている想いは、『腕時計らしいスマートウォッチ』には限界があるということ。

自分が好きだった腕時計を身に着けつつ、スマートウォッチにできる。消費者が求めるものは『一様』ではなく『選択肢』。欲しいと思うものはみんな違うと思うので、今はまだ理想の10~20%しか実現できていないが、少しずつ『好きでいてくれるファン』を増やしていきたい」(對馬氏)

身に着けるものはスマホなどと異なり、ファッション性など人それぞれの価値観に左右されやすいとして、「時計部分の選択肢があるスマートウォッチ」という受け皿を目指す

對馬氏の体験から見えたSAPのメリット

記者説明会後に對馬氏は、SAPのメリットとしてベンチャーと大企業の「いいとこ取り」を挙げた。1兆円規模を超える企業は、一つの事業部単体で最低でも100億円規模の売上が求められ、事業立ち上げ時から多大なコストを投下して「人」と「モノ」の固定費が結果としてかさみ、赤字になるか売上高が目標に達しなければすぐに事業をたたんでしまう。

一方でベンチャー企業は垂直立ち上げにこそ向かないものの、ビジョナリーのもとにVCなどが多額の資金を投下し、数千万、数億円規模からでも市場を開拓していく。SAPはこうしたビジョンを大切にしてスモールスタートできるだけでなく、「First Flight」というテストマーケティング 兼 クラウドファンディングサイトによって実験的に事業を立ち上げられる。まさに現代版「自由闊達な理想工場」の実現を目指していることだ。

對馬氏は、これに加えて「大企業には『専門家』が多く在籍している。例えばwena wristに組み込むFeliCaチップのアンテナを生産できる技術者は数十人しかいないが、彼らの多くは大企業にいる。また、パートナーシップを組むにしても、wena wristはシチズンの協力を得ているが、ベンチャー企業であれば与信などの問題もあってそうたやすく一緒に事業化できるものでもなかっただろう」と自身の体験を交えて語る。

wena wrist leatherにあわせて新規のFeliCaモジュールを開発。大企業ならではのメリットだろう