では、新しいCRM推進チームはどのようなマーケティングに挑んだのか。吉澤氏は「新しいチームを象徴するような取り組みが必要ではないかと考えた」と述べ、新しいマーケティング手法の導入、データベースの高度化、データマーケティング人材の育成、社内への発信といった変革に着手したという。

「最終的には社内のユーティリティ組織になることを目指した」(吉澤氏)

当時、新しいCRM推進チームが導入した新しいマーケティング手法が、顧客の様々な変化=イベントに応じて商品のレコメンドやメッセージの発信を行うイベント・ベースト・マーケティング(EBM)というマーケティング手法だ。既にマーケティングオートメーションの手法として多くの企業が取り入れているが、みずほ銀行が導入したのは今から10年ほど前のことになる。

「10年前、EBMを導入している銀行はみずほ銀行以外にはなかった。欧米のマーケティングではスタンダードだったが、日本ではまだ導入が進んでいなかった」(吉澤氏)

みずほ銀行が10年前に導入したイベント・ベースト・マーケティング(EBM)

みずほ銀行がEBMを導入した背景には、同行特有の収益構造があるのだという。一般的には顧客のうち2割のロイヤルカスタマーが8割の収益を生み出すと言われているが、同行では1割の顧客が9割の収益を生み出すという収益構造になっており、残り9割の顧客から得られる収益をどのように高めていくかが大きなテーマだったのだという。しかし一方で、商品やサービスを一方的に売り込むことは、収益の拡大はおろか顧客とのエンゲージメントを壊してしまうことにもなりかねない。吉澤氏は銀行と顧客との関係について次のように説明する。

「銀行が自分たちの都合で商品を勧めても、お客さまはお取引をしてくれるわけがない。お客さまは興味があるときには積極的に(銀行に)関わってくれるが、それ以外のときに来られても迷惑だということ。銀行は迷惑なことをしてお客さま満足度を下げるようなことはあってはならない。お客さまニーズを的確に把握して、適切なタイミングでマーケティングをしなければ、支持される銀行にはなれない」(吉澤氏)

こうした新しいマーケティング手法を導入するにあたっては、みずほ銀行のような事業会社の場合、専門的なノウハウを持つコンサルティング会社などに一任するケースも多い。しかし吉澤氏は、ターゲティング、タイミング、コミュニケーションなど、“いつ、だれに、どのタイミングで、どのように伝えるか”というEBMに必要なシナリオの構成を自分たち自身で一貫して取り組んでいくという姿勢が重要だと説明する。

「特に意識したのは、お客さまの意思決定段階と私たちの持っているチャネルの役割と、そしてそこから生まれるコミュニケーションを理解したこと。これを整理することによってEBMのシナリオをより深く考えることができるようになった」と吉澤氏。

お客さまのことも、みずほ銀行のことも、自分たちが一番よく理解している。だからこそ、自分たちが考え、自分たちの力で試行錯誤することで有益なノウハウを蓄積することができるのだ。

EBMに必要なシナリオの構成を自分たち自身で一貫して取り組んだ