データを分析して顧客のインサイトを知り、適切なマーケティング施策を実行する。言葉で言うことは簡単で、それを支援するマーケティングソリューションも世の中で数多く登場しているが、それを実効性がある形で実践していくことは、決して簡単ではない。データ分析を活用したデジタル・トランスフォーメーションは、方法論の導入だけでなく組織の変革やメンバーの意識改革をも求められ、マーケティングチームが一体となって取り組まなければ、結果は生まれないのである。

では、業界をリードするトップ企業はどのようにしてこのデジタル・トランスフォーメーションを実現し、そしてこれからどのようなマーケティングを目指しているのか。このほど、『IT Search+ powered by マイナビニュース』が主催したマーケティングセミナー『みずほ銀行・NTTデータが解説! データ分析実践セミナー ~現場の仮説検証を支えるセルフサービスBIとは~』において、みずほ銀行ビジネス開発推進部データベースマーケティングチームの参事役である吉澤陽子氏が解説した。

セミナーにはマーケティング従事者約120名が参加した

「自分たちは何を目指すのか」を明確にする

みずほフィナンシャルグループは、銀行、信託銀行、証券会社などを抱える日本最大級の金融グループだ。中核となるみずほ銀行は、個人口座2400万、マイレージクラブ会員1180万人を顧客に抱え、吉澤氏は店舗、ATM、コールセンター、ウェブサイト、ソーシャルアカウント、スマートフォンアプリなど対面、非対面を問わずあらゆる顧客接点におけるデータベースマーケティングを担っている。吉澤氏は「(みずほ銀行は)データの活用が組織として根付いていると言われているが、実際には課題だらけ。これまでの歴史を振り返っても、成功したことよりも失敗したことのほうが遥かに多い」と語り、現在みずほ銀行を支えるデータベースマーケティングが試行錯誤の産物であることを示した。

みずほ銀行におけるマーケティングとは、口座を保有する顧客とのエンゲージメントを構築するCRMの推進が大きな役割を果たす。しかもそれは特定の商品やサービスにこだわらず、全社横断的なマーケティングの推進だ。吉澤氏が所属するデータベースマーケティングチームも、前身は2004年に発足したCRM推進チームという組織で、顧客ニーズの把握と適切な商品提案により顧客満足度の向上と保有資産の最大化を目指してきたという。ただ吉澤氏は、「発足当初はCRM推進チームが十分に機能しなかった」と振り返る。

「最初のCRM推進チームは金融商品を所管する部門に作られ、“お客さまのためのマーケティング”をするのではなく担当する金融商品をお客さまに勧めるためのマーケティングが第一の目的で、優先順位が入れ替わってしまった。そこで2006年にはチームを再構築するためにメンバーを総入れ替えした。ただ、メンバーとミッションは変わったが、他の部署から見ると組織的には何も変わらず名前も同じ。CRM推進チームとしての存在価値を社内で明らかにするために、チームの業務運営についての定義をワードで11ページもの分量で明確にした」(吉澤氏)

CRM推進チームが掲げた業務運営の定義(画像中央)

吉澤氏が目指す全社横断的なマーケティング組織を生み出すためには、まずは大きな組織の中で社内の理解を得られなければならない。そのために吉澤氏をはじめとするメンバーは「自分たちは何を目指すのか」を明確にし、社内に理解を求めたのだ。「このときに明確にした理念が、今のデータベースマーケティングチームにも息づいている」(吉澤氏)