米どころといえばやっぱり新潟。なかでも、魚沼産コシヒカリは有名だ。しかし、近年は北海道や九州から続々と新銘柄が世に送り出され、今や「ブランド米戦国時代」とでもいうべき様相を呈している。

なぜこのような事態になっているのだろうか。米の国内需要減が叫ばれて久しいうえ、安い外国産の米が流入してきている。さらに、TPPの大筋合意による米の輸入拡大など米農家にとっての不安要素は尽きない。

そこで、ブランディングによって外国産のものと差別化するという考えが生まれる。高い値段でも売れるくらい高品質な米を提供することで、農家の所得アップにつながるからだ。そのほか、高いものでは10万円もする「高級炊飯器」が各家電メーカーから発売され、「おいしいご飯」需要が開拓されたのも忘れてはならない。米の需要減と矛盾するようにも思われそうだが、食に関する感度が高い層は銘柄による食味のちがいを楽しむため、ブランド米へたどり着く。

本記事では、このような背景のもと訪れた"戦国時代"に挑む新銘柄を追う。

ブランド米乱立の時代、「西の米どころ」香川はどうする?

「うどん県」のイメージが強烈な香川県だが、県内作付延べ面積のトップは稲。「コシヒカリ」や「ヒノヒカリ」といった有名な銘柄のほかに、香川県独自の「おいでまい」という銘柄を栽培している。おいでまいは2013年にデビューしたばかりで、日本穀物検定協会が実施する「平成25年産米の食味ランキング」で最高評価の「特A」を獲得。四国の米で特Aを獲得したのはおいでまいが初となる。

「おいでまい」は讃岐弁で「いらっしゃい」の意味。おいしいご飯を香川へ食べに来てほしいという願いを込めて付けられた。写真左は東京都港区にあるアンテナショップ「香川・愛媛 せとうち旬彩館」にて撮影。うどんコーナー(写真右)の充実ぶりと比べると少々さみしい気もするが……

讃岐の国は古事記で「飯依比古」(いいよりひこ)とされているくらい、古くから米づくりと密接にかかわっている地。江戸時代の大坂では、米取引場の標準となる「建物米」に讃岐の米が選ばれるなど評判も高かったのだ。そんな歴史を持つ香川だが、今はうどんの印象が圧倒的で、米のイメージは薄い。

なぜ、香川の米はかつての名声を失ってしまったのか。

理由のひとつとして温暖化が挙げられる。香川県内の水田は平野部に多く、温暖化が進むにつれて気温が上がり、稲の栽培が難しくなっていった。県内の水稲栽培面積は奨励品種でもあるヒノヒカリが40%(2015年産)。温暖化によって、このヒノヒカリも白く濁った粒が出やすくなり、見た目の良し悪しを評価する一等米比率が下がってしまった。味は良くても、見た目が悪いと価格が上がりにくい。そこで、香川県の気候に最適化され、温暖化に負けないような品種を作ろうという気運が高まったのである。

日本穀物検定協会審査員の評価コメントは残念ながら非公開だが、おいでまいには「甘みと旨みのバランスが良い」「食べ飽きない」「やわらかいが食感が良い」といった感想が寄せられるとのこと(写真:「おいでまい」委員会提供)

2002年から県農業試験場で新品種の開発をスタート。「あわみのり」と「ほほえみ」から生まれたのが香川県のオリジナル銘柄「おいでまい」だ。2012年に県の奨励品種に採用、2013年から本格栽培し、四国の米として初めて「特A」の評価を受けたのは先ほど説明したとおり。栽培しやすく、粒ぞろいも良く、食感と味のバランスがとれている。栽培者にも消費者にもうれしい米だ。品質を保つため、現在は一定の審査を通過した生産者のみが栽培している。

デビューした2013年と翌2014年には2年連続で特A評価を受けたものの、気温低下、日照時間不足など気候不順による影響で2015年には残念ながら「A」評価となってしまった。とはいっても、おいでまい特A獲得後は生産者はもちろん、販売店や県内の消費者からも期待の声が寄せられたという。香川県の「おいでまい」委員会担当者によれば、2016年の栽培面積(目標)は1,600ha。本格栽培を開始した2013年が650haだったことを考えると、2倍以上となる。