第1章 Windows 8.1登場/なぜService Packではないのか - 完成度を高めたWindows 8.1は移行先になり得るか
Windows 8は従来のデスクトップ環境から脱却を試みたOSだったが、その斬新と言える新しいUIは市場的に受け入れられたとは言いがたい。だが筆者は、Windows 8は過去のWindows OSに引けを取るOSとは考えておらず、モダンUIにおける一貫性のなさを除けば、優れたOSだと評価している。アプリケーションの起動方法として、スタートメニューに変わる何らかの方法を手に入れれば、Windows 7以前と同じ、いやそれ以上のデスクトップ環境が手に入るからだ。
Microsoftは、既存のデスクトップ環境を欲するユーザーニーズと、iOSやAndroidが席巻しているタブレット市場に改めて参入しようとモダンUIを採用している。しかし、その斬新さが仇となり、一般市場は受け入れられたとは言いがたい結果となった。この印象を払拭するため、Windows 8 Service Pack 1ではなく、Windows 8.1としてシステム内部や機能面を刷新し、新しいOSとしてアピールしたのだろう。
では、Windows 8.1はService Packを加えた程度の存在なのか、と言う疑問が読者の中からも湧き出てくるはずだ。答えは否である。バグやセキュリティホールの修正にとどまらず、Windows 8でユーザーが不満に感じた箇所を改善し、ユーザビリティの向上を実現したOSだからだ。例えばWindows 8.1では、スタートボタンが復活している。
もっともスタート画面で各アプリケーションのショートカットファイルをタイルとして提示し、新たに設けたアプリビューで各ショートカットファイルを管理すると言うスタイルはWindows 8と同じ。後ほど改めて述べるが、ユーザーが求めていたのは"スタートボタンではなく、スタートメニュー"なのだ(図006)。
また、「タスクバーとナビゲーションのプロパティ」ダイアログでは、チャームバーやアプリスイッチャーに関する動作の有無や、サインイン時にデスクトップを表示させる設定項目などを新たに用意。正に"かゆいところに手が届く"ような改善が各所に施されている。Windows 8が当初からこのレベルに達していれば、ここまで酷評されなかったはずだ(図007)。
このようにWindows 8はデスクトップ環境を重視するユーザーを考慮した改善が加わり、完成度が高まったような印象を強く受ける。Windows 3.0からWindows 3.1へ、Windows 2000からWindows XPへとバージョンアップしたと述べれば、その感覚は伝わりやすいはずだ。
それでも現在Windows XPを利用しているユーザーはWindows 8.1を移行先として選択するかは疑問である。日本マイクロソフトはWindows XPからの移行先としてWindows 8 ProおよびOffice 365のライセンスを同時購入した際の費用を20パーセントオフにするキャンペーンを実施している。だが、Windows OSに触れるのが目的ではなく、あくまでも業務アプリケーションの利用を主目的とするビジネスユーザーにとって、モダンUIを理解する余裕はないからだ。
個人的には、非タッチ環境でも必要なアプリケーションのタイルをクリックするだけで起動するUIは、コンピューター初心者の方が受け入れやすいと思うが、1995年から続いたスタートメニューの存在がそれだけ大きいと言うことなのだろう。ただし、法人ユーザーの移行先としてWindows 7を選択するのは得策とは言いがたい。
ご存じのとおりWindows XPは、2014年4月8日に延長サポートが終了し、更新プログラムなどが提供されなくなる。同じようにWindows 7のサポートライフサイクルは執筆時点で、2020年1月14日に終了する予定だ。つまり、法人が2014年度の予算でコンピューターをリプレースする際は、6年以内に再度OSの選定やリプレースを予定しなければならないのである。
一方でWindows 8.1のサポートライフサイクルは、Windows 8の2年後に各種サポートを終えると、Windowsコマーシャル担当シニアディレクターのErwin Visser(アーウィン・フィッセル)氏が「Windows for your Business」の記事で述べている。
つまり、Windows 8のサポートライフサイクルは開始日が2012年10月30日、メインストリームサポート終了日が2018年1月9日、延長サポート終了日が2023年1月10日であることを踏まえると、Windows 8.1はメインストリームサポート終了日は2020年、延長サポート終了日が2025年まで利用可能となるのだ。簡単にコンピューターをリプレースできない企業の目に、Windows 7よりも5年先となるWindows 8.1は、魅力的な選択肢に移るのではないだろうか。加えて日本国内では、Windows 8.1リリースに伴いWindows 7パッケージ版の出荷を終了する。
筆者の目に現在のMicrosoftは、Windows 8.1で巻き返しを図ると言うよりも、現状を改善し、Surfaceシリーズなどを伴って新たな橋頭保の構築に奮起しているように映る。本来、同社は2002年にリリースしたWindows XP Tablet PC Editionのように、以前からタブレットへアプローチしてきたが、結果はiOS/Androidが席巻する有様だ。このことを鑑みて同社CEO(最高経営責任者)であるSteven Ballmer(スティーブン・バルマー)氏や日本マイクロソフト代表取締役社長の樋口泰行氏は、「我々はチャレンジャーである」と言う言葉を発しているのだろう(図008~009)。
Windows 8.1で確かな拠点を築くことができれば、橋の向こうで勝利を謳歌しているライバルたちへ、再び新たな一撃を加えることができるはずだ。その一方で橋頭保の構築に失敗すると既に退路はなく、同社のコンシューマー市場における撤退の可能性も拭えない。同社が掲げる「デバイス&サービスカンパニー」は、コンシューマーから法人まで幅広い分野を顧客として抱え込まなければならないだろう。Windows 8.1をリリースする同社は今、分水嶺に立っているのである(図010~012)。
図010: 日本国内で販売される「Windows 8.1」パッケージ版。32/64ビット用DVD-ROMを同梱し、参考価格は13,800円 |
図011: 「Windows 8.1 Pro」パッケージ版。同じく32/64ビット用DVD-ROMを同梱し、参考価格は25,800円。なお、Windows 7パッケージ版の販売は終了となる |
それでは次章からWindows 8.1の新機能や利用方法など、あらゆる角度から新しいOSについて述べていく。Windows 8からWindows 8.1へアップグレードする予定の方や、Windows XPからの移行先としてWindows 8.1を検討している方はお付き合いいただきたい。