auから「HTC EVO WiMAX ISW11HT」が発表され、話題になっている。これは米国では「HTC EVO 4G」の名称でSprint-Nextelから2010年春に発売された製品で、同社のCDMAベースの3Gネットワークに加え、提携先であるClearwireのWiMAXネットワーク「Clear」を利用できる点が特徴となる。

HTC EVO WiMAX ISW11HT

3月にCTIA WirelessでHTC EVO 4Gが発表された際には「(WiMAXを利用できる)初の4G世代のスマートフォン」という触れ込みで紹介が行われており、製品名の「4G」はそれに由来する。WiMAXが4Gかは意見の分かれるところだが、現時点でWiMAX対応のスマートフォンは同製品が唯一ともいえる存在で、発売開始後1年が経過してもその地位は揺るぎない(なお、2011年1月に廉価版の「HTC EVO Shift 4G」が米国で発売されている)。日本版のHTC EVO WiMAX ISW11HTも、KDDI子会社であるUQコミュニケーションズが提供する「UQ WiMAX」に対応し、同ネットワークのエリア内でWiMAXサービスが利用できる。回線を別の事業者から一括購入して自社ユーザーに提供するというスタイルは、Sprintとauで共通だ。

本稿ではWiMAX接続やテザリングなどのHTC EVO WiMAX ISW11HT独特のユニークな機能に焦点をあて、ヘビーユーザーの視点から端末を紹介していく。

HTC EVO WiMAXとは?

HTC EVO WiMAX ISW11HT(以下、HTC EVO WiMAX )をスペック的にみれば、4.3インチの480×800ピクセルのTFT液晶タッチパネルに、1GHz駆動のQualcomm QSD8650(Snapdragon)、搭載メモリは512MB、OSのバージョンはAndroid 2.2といった内容になっている。1年前の登場時点では完全にハイエンド端末のカテゴリに入っていたHTC EVO WiMAXだが、現時点ではLGからデュアルコアのTegra 2を搭載したOptimus 2Xが発売されているなど、さすがに後発組にはハイエンド端末の地位を譲らざるを得ない。だが1GHz駆動のSnapdragonはパフォーマンス的にみれば、いまだシングルコアプロセッサとしては最上位に位置しており、その動作速度はHTC EVO WiMAXでのスムーズな動画再生や画面切り替えなどで垣間見ることができる。また4.3インチという画面サイズは現行のスマートフォンでも最も大きいもので、これは動画再生やタッチパネルの操作性で大きなメリットとなる。

そしてHTC EVO WiMAX最大の特徴となるのがAndroid 2.2の搭載と「テザリング(Tethering)」への対応だ。Android 2.2効果でアプリの動作やWeb描画の速度が大幅に向上しているほか、WiMAXと3Gのデュアルモードでのテザリングがサポートされる。モバイル機器におけるテザリングとは、3Gなどの回線を中継してPCや他のモバイル機器などにインターネット接続を供給する機能のことだ。

Wi-FiテザリングとWiMAX機能がHTC EVO WiMAX最大の特徴

テザリングの設定項目。複雑なパスワードを設定しておこう。なお、この設定アプリをホーム画面上に配置することで設定画面に素早くアクセスできる

これにより、1つの回線を複数の端末で共有したり、本来であれば3Gなどの接続機能を持たないPCなどのデバイスを、テザリング対応端末を使うことでどこでもインターネットに接続させることが可能になる。一種のモデムやルータのようなものだが、HTC EVO WiMAXでは3G回線だけでなくWiMAXにも対応しており、より高速な回線を複数端末で共有することが可能になっている。

また現時点でWiMAXのエリアは非常に限定されているが、例えばWiMAXの通じにくい都市郊外や地下、ビル内などでも3G回線を使って継続的にデータ通信を続けることができる。そのため、「3Gのみ」あるいは「WiMAX」のみのデータ通信端末よりも適材適所で使い分けられるぶんだけメリットとなる。テザリングによる通信の中継は「USB接続モード」のほか、Wi-Fiアクセスポイントとして機能させる、いわゆる「Wi-Fiホットスポットモード」の2種類がある。Wi-Fiホットスポットモードは「よりバッテリの電力を消費する」「無線なので周囲の環境の影響を受ける」といった問題はあるものの、接続にケーブルが必要ないので手軽なうえ、2台以上の端末で回線を共有させるにはWi-Fiホットスポットモードしか選択肢がない(最大8台まで共有可能)。

スペック的な紹介が終わったところで、実際にベンチマークや各種テストを通してその実力を確認していくことにしよう。

HTC EVO WiMAXの性能をチェックする

Androidのパフォーマンスを計測するのは難しい。まず汎用的なベンチマーク手法が確立していないのと、そのデータを基に「このアプリなら問題なく動かせる」といったことを判断しにくい。一定時間(15分)であれば有料アプリの返却が可能というAndroid Marketの特徴を利用して、実際に試してみるのが現在のところベターな方法といえるかもしれない。

これ以外では、「Quadrant」というベンチマークアプリを起動してみるのがいいかもしれない。Android向けのベンチマークとしては比較的以前から存在しているものであり、性能のおおよその目安にはなる。

QuadrantはAndroid Marketからダウンロードが可能だ。CPU、メモリ、I/O、2Dグラフィックス、3Dグラフィックスの5つのチェック項目があり、それぞれのスコアの合計をグラフ化して表示する。ただベンチマークとしては挙動があまり安定しない傾向があるようで、取得したタイミングで1~2割程度スコアが変化してしまう。また2回目以降のベンチマークの起動はスコアが上昇しやすい傾向があるため、複数回トライして平均スコアを取得するといいだろう。

Quadrant Standardの動作画面。このような形で各種CPUテストやグラフィックテストを通過して総合パフォーマンスを測定する。なお公式のAndroid Marketでは配布されていないが、より細かいテスト項目の確認可能な有料版がある

今回軽くテストしてみたところ、HTC EVO WiMAXはなかなかスコアが収束せずにおおよそ900~1000程度の範囲でばらけている。参考値として紹介されている「EVO 2.2+」のスコアより1割ほど低い値となっているが、Nexus Oneなどほかの端末でQuadrantを試しても同様に1割ほど低い値しか出ないため、これがほぼ実際のスコアだと考えて問題ないだろう。またGPU性能を中心に計測したいのであれば、「Neo Core」というアプリがあるので試してみてほしい。

Quadrantのテスト結果。プリセットの参考値にテスト結果が追いついていないが、あくまで目安としてほしい

前述の通りHTC EVO WiMAXはスペックだけでいえば、デュアルコアTegra 2を搭載したLGのOptimus 2XやSamsungが夏頃にリリースするとみられるGalaxy S II(クロック周波数が1.2GHzまで引き上げられる予定)などと比べると、さすがにハイエンドの座はこれら新端末に譲ることになる。とはいえ、ベンチマークでみられるほど上位端末での性能差は感じられず、全体に動作はスムーズだ。あくまで動作の重いアプリを動かすときの参考値程度に考えておけばいいだろう。

また1点、パフォーマンスに関して簡単に記述しておく。Android 2.2以降を搭載した端末では、Flash Player 10.1以降をインストール可能になっている。これにより、Webブラウザ上でFlashコンテンツの再生が可能になる。もちろんFlashプラグインを使った動画コンテンツの再生も可能だが、パフォーマンスについてはあまり期待しないほうがいい。Flash動画は全体にコマ落ちが見られるほか、ニコニコ動画などコメント付きサイトの場合はコマ送り状態になってしまう。コメントを消せば多少は改善するが、Webブラウザ上のFlashでの再生はあまりお勧めできない。YouTubeなど、可能な限り専用プレイヤーの利用を推奨したい。

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筆者の私見だが、おそらくHTC EVO WiMAXを買おうと考える「プロフェッショナル層」のユーザーは、HTCならではの使い勝手(HTC Sense)および端末ならではのユニークなセールスポイントである「WiMAX」「テザリング」の2つの部分に重点を置いているのではないだろうか。前述の通り、HTC EVO WiMAXがWiMAX対応のスマートフォンの唯一ともいえる存在であることは発売開始後1年が経過してもその地位は揺るぎない。後編では、そのWiMAXのパフォーマンスとテザリング端末としてのHTC EVO WiMAXにフォーカスしたい。