ASML躍進の秘密は、革新的な新技術を業界に先駆けて投入してきた実績にありそうだが、その露光技術を全て内部で開発しているのか、というと、意外なことに同社は製品をモジュール化し、その大半を外部から調達することでまかなっている。同社によると、装置の90%(金額ベース)の部材は、外部から調達しているという。この調達について、同社は「バリューソーシング」というコンセプトを掲げている。このバリューソーシングとは何なのだろうか。

バリューソーシングとは、オープンな思想に支えられた同社の調達戦略である。日本では、親会社が株を持つ子会社・傘下企業を多数抱え込み、このグループ内で開発を行い、ノウハウの囲い込みを行う例も目立つ。いわばクローズドな調達・開発戦略である。ASMLのバリューソーシングはこの考え方とは正反対の方針を採る。調達先は関係企業に制限せず広く一般企業に求めている。また当該調達先企業のASMLへの依存度をむしろ25%以下に留めてほしい、というガイドラインを設けている。そして、開発した製品は、他社にも販売してかまわないというのが一般的な契約ルールだという。こうしたオープンな方針により、ASMLはベストな製品を調達でき、調達先企業も繁栄し、より良い製品開発のフィードバックがかかる、という考えだ。

同社のバリューソーシングについて、ASML上席副社長 サプライチェーン・マネジメント担当のHenk P.N. Scheepers氏に話を聞いた。

-- 日系企業では企業グループを作り、株をシェアし、ノウハウを外部に出さないように囲い込む例が見られますが、ASMLのやり方とは違いますね。

我々の目的は、既存のサプライチェーンだけでなく、世界の中でポテンシャルサプライチェーンを見つけることにあります。そして、それらサプライチェーンと秘密保持契約を結んだ上でロードマップを共有し、技術を共有します。だからこそ非常にオープンなコミュニケーションが可能です。我々は株を持ち合うことを必要としていません。なぜなら株を持ってしまうと、自分たちの会社を守るために限定が生じてしまいます。なので、私たちは株を持ち合わないのです。おそらくここが、日本のビジネスモデルとの大きな違いではないかと思います。

-- より良い技術を見つけるためにはオープンな調達は良い方法だと思うのですが、一度、世界に他に存在しない唯一の技術を見つけたときに、その後、その技術を自社で使い続けるために、オープンな調達のままでそのリソースを維持できるのでしょうか?

イエスとノーの両方です。私たちは確かに優れた技術を持ちたいと思っています。このため、集中して協力関係を築きます。両社が協力することで、お互いが学び、より良い製品が作り出せます。そうするとサプライヤは、その製品を他社にも販売します。するとサプライヤは収益を得て、より強くなり、よりコストダウンができます。結果、より柔軟になるのです。その結果、さらなる技術開発に両社が投資できるようになります。このようなサイクルによってサプライヤが生き残れるのであれば、我々は(他社に販売しても)かまわないと思っています。我々の戦略としては、サプライヤは25%以上ASMLに依存してはならないという基本方針があります。サプライヤには是非私たち以外の顧客を持って欲しい。これによってサプライヤが競争力を維持し、よりフレキシブルでありうるからです。6年前には、我々のトップ25社のサプライヤのうち、15社が50%以上ASMLに依存していました。現在は50%以上依存している会社はほんの数社しかありません。依存度が減ったのは、我々との取引が減ったからではなく、他の顧客を獲得したからです。

ASML上席副社長 サプライチェーン・マネジメント担当のHenk P.N. Scheepers氏

話からは、オープンな調達スキームに対する強い意志が感じられた。囲い込みの方法を悪い、と考えると言うよりは、オープンな調達スキームである「Value Sourcing」が、同社の競争力を産み出す基盤なのだ、という戦略的な信念であるように感じられた。同社は6億5千万ユーロ分をオランダ国内から調達しているが、8億ユーロ分をEU域内から調達し、さらに3億5千万ユーロ分を米国などEU域外から調達している。このように世界中から幅広く調達を行っている。最も、リソグラフィー装置にとって最高の難易度とノウハウを必要とする光学レンズユニットを提供するCarl Zeiss SMTとは、もう少し独占的な関係にある。