「おもてなし」という言葉が世界で注目を集めてから10年。今や日本発の重要なビジネスコンセプトとして世界中で認知されつつあります。特にホテルや航空業界では、日本のおもてなしを学ぶための研修や留学が増加傾向にあり、その価値は年々高まっています。

マーケティングの観点からも「おもてなし」の精神・価値観は業種を問わずビジネスの場において極めて重要です。

しかし、「おもてなし」の本質を正しく理解し、効果的に実践できている企業は多くありません。単なる接客サービスと混同されがちな「おもてなし」には、実は1000年以上の歴史に裏打ちされた深い思想と哲学が存在しているのです。

新規顧客獲得、リピーター創出にもつながる「おもてなし」の真の正体とはなんなのか、またどのようにおもてなしを体現すればよいのかを紐解きます。

世界が注目!日本の「おもてなし」を学び、応用する

「おもてなし」という言葉が注目されてから約10年。今では、ホテルや航空業界を中心に、おもてなしの精神と作法を日本に学びにくる留学や研修が増えています。2022年にはインドネシアの大学で、おもてなしを一年かけて学ぶ授業が開講しました。

相手を心から思いやり、気持ちを尊重し、最高の体験を提供する「おもてなし」の精神・価値観は、マーケティングの観点からも、極めて重要です。

たとえば、「アパレル店で、以前買った洋服にふさわしいコーディネートを提案してくれる」「旅行代理店で、気になっていること・不満に思っていることに対し親身に対応してくれる」「レストランで、好みやニーズを察してメニューを変更してくれる」……。もしあなたがこのような体験をしたとしたら、いかがでしょうか?

「おもてなし」をすることで、顧客ロイヤルティが向上し、新規顧客の獲得やリピーターの創出につながることが大いに期待できます。それだけでなく、口コミの促進や競合との差別化など、ブランド価値を総合的に高めることができるのです。

日本で生まれた「おもてなし」、そのルーツとは

そんな「おもてなし」は、日本独自の文化に深く根ざしています。ここでかんたんにその歴史を見ていきましょう。

おもてなしという単語は、「もてなし」の丁寧な呼び方です。「もてなし」という言葉の歴史は古く、1,000年以上も遡ることができます。古典文学の『源氏物語』や『枕草子』にも使われています。この頃は平安時代。ちょうど中国大陸の模倣を経て、日本独自の文化が強調されるようになった時代です。

当時の「もてなし」は、「儀式を取り計らう」「世話をする」「女性を妻として迎える」「評判にする」「権力者の意に沿うようにする」といった意味を持っていました。意味はさまざまですが、「重要なものと接する」というニュアンスはあったようです。

時代が下り、室町時代になると、将軍達が「会所」と言われる場所で、歌合や闘茶、月見、宴会を定期開催するようになります。いわば上流階級のサロンです。この会所のインテリアデザインやアテンドを仕切っていたのは、同朋衆と呼ばれる、歴史に名高い目利きたちでした。彼らが非常に重要視していたのが、「もてなし」です。将軍や貴族達が満足するイベントにするには、どのような心構えで客と接し、どう会場を準備すべきか―。「もてなし」という言葉の意味や方向性は、芸能の大家たちによって深められていったのです。

今、「おもてなし 由来」などとインターネットで検索すると、茶道の大家、千利休に行き着きます。利休が茶の湯において最も大切なことであるとした『利休七則』などが、現代に通じる、おもてなしの原点となっていると言われています。

現代語訳を添えて『利休七則』をいくつか抜粋します。

・茶は服のよきように点て:お茶は飲む人にとってちょうどよい加減になるように
・降らずとも傘の用意:雨の気配がしなくても傘は用意する
・相客に心せよ:同席したお客様に気を配りなさい

どれも、とても単純なものに見えますね。これを聞いた利休の弟子も同じように感じ、「それくらい知っていますよ」と漏らしました。しかし利休は、「もしそれができているのなら、私があなたの弟子になりましょう」と返したそうです。頭ではわかっていても、一人ひとりに合わせたふるまいをひとつ一つ丁寧に実践することは、実に難しいことなのです。

ここまでで、「おもてなし」という言葉が、日本が歴史をかけて築いてきた、非常に文化的な言葉であることがお分かりいただけたと思います。

サービスとおもてなしの違い。顧客を感動させるために

「おもてなし」と対比されたり、混同される言葉に「サービス」があります。サービスは、おもてなしとはどう違うのでしょうか?

サービスの語源はラテン語の”servus”で、これは「奴隷」とか「あくせく働く」という意味です。この言葉から派生して、英語の”servant(召使い)”や”service(奉仕)”という言葉が生まれました。

つまり、サービスは元から【主人-使用人】という関係性を秘めた言葉というわけです。今なら、【経営者-従業員】と捉えた方がわかりやすいかもしれません。上からの具体的な要求に対して応じることが、サービスというわけです。

「おもてなし」が上流階級の社交や芸事に発展してきた言葉だとすると、「サービス」はもっとビジネスライクな、労働の意味合いが強いと言えるでしょう。必ずしも「無料」や「プレゼント」を意味するわけではないのです。事実、海外では受けたサービスに対して金銭を支払う、チップ文化が強く根付いている国も多くあります。

おもてなしに似た言葉に、「ホスピタリティ」があります。これはゲストを歓待する精神に基づいています。海外におもてなしのような概念が無いわけではありません。ただ、より思想的・文化的な価値観として、「おもてなし」が世界で注目されるに至ったのです。

おもてなしのポイントとは

おもてなしは、狭い社交界で発展した歴史を持つだけに、「察すること」や「さりげなさ」もひとつのポイントとなります。ここまでするかと驚きを与えたり、分かってるなあと感嘆させることが重要です。

しかし、グローバル化によって多様な価値観が行き交うようになった現代、おもてなしには危うさも秘めています。相手はいったいどんな人なのか、その解像度が低いと、まったく的外れな気配りでかえって相手の気を損ねてしまう可能性もあるのです。

きちんと相手を理解したうえで、相手に喜んでもらえるような心配りをすること。それこそが、おもてなしの最も大事なポイントです。

人を問わず、おもてなしは誰が受けてもうれしいものです。ビジネスにおいては、きちんと相手を理解したうえでおもてなしの心をもち、お客様に接することが非常に大事であるといえるでしょう。

まとめ

★おもてなしのカギは、一人ひとりに合わせた対応にあり
「何をされたらうれしいか」「何を求めているか」は、人によって異なるもの。相手の立場に立って考え、ひとりひとりに合わせた対応が必要である。

★ビジネスにおけるおもてなしの重要性
顧客満足度が向上することで、新規顧客の獲得や、リピーターの創出に大きく貢献する。またクチコミなども期待できることから、企業ブランディングにもつながる。ビジネスにおいてはおもてなしの実現が大きな効果をもたらすといえる。

次回は、この「おもてなし」をWeb上で再現するにはどうすればよいか、そのポイントについて解説します。

<監修>
ティーリアムジャパン株式会社
マーケティング シニアマーケティングディレクター
安部 知雄



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