長年、マーケティングの指針とされてきた「カスタマージャーニー」が形骸化しつつある。AIによる自動化が進み、顧客の購買行動が瞬時に完結する現代において、企業は顧客とどう向き合い、関係を築いていくべきなのだろうか? デジタルマーケティングのプロフェッショナルである電通デジタルの大船 良氏と、リアルタイムCDPで世界をリードするTealium Japanのジョン・ルイス氏が、AI時代のマーケティングの本質を語りあった。
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(左)ティーリアムジャパン株式会社 プリンシパル・プログラムマネージャー ジョン・ルイス氏
(右)株式会社電通デジタル データ&エンゲージメント部門 エンゲージメントデザイン事業部 マネージャー 大船 良氏
AIが導くリアルタイムマーケティングの時代
─近年のデジタルマーケティングにおける大きなトレンドを、どのように捉えていますか?
大船氏:2000年から約10年間に「データドリブン」なマーケティングの重要性が言われはじめ、CRMやCDP(※1)、MA(※2)といったツールが次々と登場しました。同時に、スマホアプリやSNSなど、顧客とのタッチポイントも爆発的に増え、現在はそれらを横断してパーソナライズを強化していく、マルチチャネルの動きが加速しています。そして今、議論の中心にあるメガトレンドは、間違いなく「AI」です。
(※2) MA(Marketing Automation):マーケティング活動を自動化・効率化する仕組み
─マーケティングの最前線では、AIはどのように活用されているのでしょうか?
大船氏:コンテンツ制作からカスタマーサポートまで、AIは非常に幅広く活用されていますが、とくにセグメンテーションで威力を発揮しています。人間が手で分析するよりも、はるかに細やかな顧客分類が可能だからです。
データにもとづいて、誰に、何を、どのようにコミュニケーションするか。このマーケティングの根幹において、TealiumのCDPは、「誰に」アプローチし、「どのように」チャネルを出し分けるか、という領域にあると認識していますが、合っていますか?
ルイス氏:おっしゃる通りです。私たちTealiumは、CDPとAIや機械学習モデルを繋いだ、リアルタイムなOne to Oneマーケティングをご提案しています。
重要なポイントは、これまでの「ルールにもとづく施策」には限界が見え始めているということです。お客様は必ずしも、企業の定めたルール通りには行動してくれません。そこでAIの出番です。機械学習モデルによる迅速な分析は、「この人は20分後に何をするか」といった未来の行動を高い精度で予測できるレベルにまで達しています。兆候をリアルタイムで検知し、先回りして最適なアクションを打つ。これが、最新のAIがもたらしている大きな変化です。
大船氏:いわゆるCDPとしてTealiumのソリューションをとらえると、その本質的な価値を見誤りそうですね。TealiumのCDPは、「目の前で起きている行動」に対してリアルタイムでアクションする、言わば「フロー型」のアプローチが得意です。
現代はスマホの普及によって、AIDMA(※3)の購買プロセスが、わずか数秒で完結してしまうようになりました。人間が気長にデータを分析していては、多くの機会損失が発生してしまうわけです。もちろん、季節ごとの施策などは熟考する必要がありますが、デジタル上でも「今、来店している」リアルタイムのタッチポイントをおろそかにしてはいけません。
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株式会社電通デジタル データ&エンゲージメント部門 エンゲージメントデザイン事業部 マネージャー 大船 良氏
カスタマージャーニーは「絶対的な地図」ではなくなった
─スピーディなAI予測が重要になる中で、これまでマーケティングの指針とされてきた「カスタマージャーニー」の価値はどのように変化していると思いますか?
大船氏:カスタマージャーニーという概念が生まれてから、数十年が過ぎています。当時はマスな広告中心の社会でしたが、今や時代は変わりました。高い価値があるかと問われれば、ぼくは「ノー」と答えます。
企業が自社でカスタマージャーニーを作る場合、「きっとこういう行動をしてくれるはずだ」「だから、こういう施策を組み立てよう」と、企業側の都合や願望が強く反映されているケースが多いのが現状です。
ルイス氏:非常に同感です。もちろん、住宅や自動車のように、お客様が時間をかけてじっくり検討する商材においては、そのプロセスを理解するためのカスタマージャーニーは重要だと思います。しかし、ウィンドウショッピングのように「これ、いいな。買おう」と、瞬間的に購買が決まる行動も無数にあります。
企業はカスタマージャーニーを、「マイルストーン」程度にとらえるべきではないでしょうか? とくに日本企業は、真面目に、緻密に、設計しすぎる傾向があると感じます。しかし、そのカスタマージャーニーに沿って旅をしてくれるお客様ばかりではありません。設計に時間をかけるよりも、それを一つの目安としつつ、「道筋から外れたお客様を、どうすれば自然に引き戻せるか」という視点を持つことの方が、よほど重要なはずです。
大船氏:おっしゃる通りですね。カスタマージャーニーは計画として絶対視するものではなく、「我々のマーケティング活動はどのあたりに問題があるだろうか」といったことを把握する「ヘルスチェック」のような使い方が良いのかもしれません。結局、仮説の域を出ないものです。どこが正しくてどこが間違っているのかを議論してばかりでは、施策実行までの時間をロスしてしまうだけです。
─計画ありきの考え方を転換するとなると、マーケティングに対する発想そのものを変える必要がありそうですね。
ルイス氏:日本には伝統的な、素晴らしい「ものづくり文化」があります。その思想がマーケティングの世界にも持ち込まれ、製造プロセスのように緻密な計画を立ててしまう風潮が少なからずあるのではないでしょうか。しかし、これからのマーケティングに必要なのは「接客」なのだと、発想を転換していただきたいと思います。
たとえば、アパレルショップのカリスマ店員を想像してみてください。来店されたお客様にいっさい視線を向けず、過去の購買データ頼りにメールを送るだけ、なんてことは絶対にしませんよね。お客様の仕草や目線、手に取る商品、すべてを見て、その人の熱量を察していく。「お困りごとはありませんか?」と声をかけ、目線を合わせる。こうした思想がTealiumの製品には込められており、それをデジタルの世界で実現できるのが、私たちの考えるMoment Driven Marketingの真骨頂です。
大船氏:今のお話に付け加えるならば、たとえカリスマ店員でも、一人では接客できる人数に限界があるということです。しかし、デジタルの力をうまく使えば、たとえ100人のお客様が同時にECサイトを訪れていても、100通りの趣味嗜好や関心にもとづいた接客が可能になります。人力の限界をテクノロジーで超えることができるのです。
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ティーリアムジャパン株式会社 プリンシパル・プログラムマネージャー ジョン・ルイス氏
AI導入を阻む心理的ハードルをどう越えるか
─改めて、日本市場におけるリアルタイムマーケティングの課題はどこにあると感じますか?
大船氏:「One to Oneマーケティングにはリアルタイム性が重要だ」ということは、デジタルマーケティングの概念が普及してから、あらゆる場面で言われてきました。しかし、それを実現するAIソリューションの導入は進んでいません。
ルイス氏:世界に誇るべき「おもてなし」の文化がある日本で、なぜ、なかなか根付かないのか、私たちも不思議に感じています。
大船氏:風土的なものはすごく感じます。カスタマージャーニーをじっくり作りたいことと同様に、「人間が考えたい」という文化が根底にある気がします。しかし、そもそも人間って、存在そのものが不合理でしょう。人間の考えは信用できて、AIの算出する結果は不安、というのは違うと思っています。この点、海外ではもっと合理的に考えていそうですね。
ルイス氏:欧米では割り切ってAI活用が進められています。おそらく日本では「AIがどうやってそのスコアを出したのか?」が見えないと不安になるという感覚、つまりAIのブラックボックス化に対する強烈な不安がまだ根強くあると感じています。
Tealiumの場合、AIの内部ロジックを後から解析して説明するというよりも、そもそも収集データを「人が理解できる粒度の属性」として整理し、そのまま特徴量データとしてAIに渡せる設計になっていることが特徴です。つまり、ブラックボックスを後から覗き込むのではなく、「最初から箱の中身が見える状態でAIに渡す」という思想なんです。こうした設計思想があるからこそ、AI活用に慎重な日本企業の方々にも安心して一歩目を踏み出していただける—その支えになりたいと思っています。
大船氏:「日本文化に馴染むマーケティング」が実現できるのは良いですね。つくることが好きな国民性ですから、AIに関しても「モデルそのものをつくる」という部分にフォーカスすれば、こだわりの中で、すごいものが生まれるかもしれません。
スピードと深さを兼ね備えたマーケティング基盤へ
─デジタルマーケティングの戦略全体を見渡す立場にある大船さんから、Tealiumに質問したいことはありますか?
大船氏:うーん、そうですね……今後の機能アップデートなど聞いても良いですか?
ルイス氏:ありがとうございます。さきほどTealiumのCDPは、フロー型のアプローチが得意(ストック型は不得意)、とおっしゃっていましたが……
大船氏:えっ、まさか……
ルイス氏:Tealiumはこれまでリアルタイム性を追求してきました。しかし、それだけでは片手落ちであることも事実です。マーケティング施策には、今すぐではなく、落ち着いたタイミングで実行すべきものもあります。
そこで私たちは今年、そのギャップを埋めるための新たな機能「CloudStream」をリリースしました。AWSやSnowflakeといった外部のクラウドデータウェアハウスとシームレスに連携し、そこで蓄積・分析されたセグメントに対して、一斉にアプローチをかけることができるようになります。これによりTealiumは、リアルタイムの「フロー型」と、熟考型の「ストック型」、両方に対応できる、全方位のプラットフォームへと進化します。
大船氏:それは非常に良いですね。これまではリアルタイム性を強調してお話ししてきましたが、施策をプランニングする上では、もちろん両方必要です。端的に言えば、即座に対応しないと顧客の不満やストレスに繋がるようなことは、リアルタイムでやるべきです。一方で、新たな気づきを与えるようなことは、じっくり考えてコミュニケーションすべきです。その両方に対応できるというのは、マーケターにとって強力な武器になります。
ルイス氏:まさに今おっしゃっていただいたような、何がリアルタイムに適し、何がそうでないのか、より戦略的な視点がマーケターには求められていくことでしょう。その点において、豊富な事例と知見をお持ちの電通デジタルさんをパートナーとして、お客様のビジネスの成功を支援していけることを、たいへん心強く思っています。本日はありがとうございました。
大船氏:こちらこそ、ワクワクする話をありがとうございました。
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