今回は、11月5日~7日に開催された日本マイクロソフト主催のイベント「Microsoft Tech Summit 2018」における、ハイブリッドクラウド研究会メンバーによるブレイクアウトセッションの様子をお伝えしたいと思います。

盛況を博した基調講演

既に複数のメディアからTech Summitの基調講演に関するレポートをご覧いただけるかと思いますが、ここでは一参加者の視点でイベントの雰囲気などお伝えしていきます。

3日間に渡って開催されるTech Summitでは例年、初日の午前中に基調講演が実施されるのですが、今回は変則的に13時半から行われました。筆者が到着したときにはメイン会場は既に満席。立ち見も可だったのですが、サテライト会場から参加することにしました。

講演は米国本社のサティア・ナデラ氏をはじめ、セキュリティ分野のCVP(Corporate Vice President)やMicrosoft 365のゼネラルマネージャーなどが登壇し、日本国内における事例が多数紹介されました。参加された方は、「クラウドファースト」のマインドが企業に浸透し始めてきたことを実感できたのではないかと思います。

会場となったザ・プリンスパークタワー東京では、「コの字型」のフロアにAからNまでの部屋が並び、各部屋でブレイクアウトセッションやハンズオンが実施された

気になるハイブリッドクラウド研究会のセッションは?

筆者が所属するハイブリッドクラウド研究会のセッションは、研究会メンバー3名が登壇。冒頭は、研究会の発起人である主管企業の日本ビジネスシステムズ 胡田昌彦氏が研究会の意義、これまでの活動の歩みを紹介すると共に、「クラウドは単なるリソース置き場ではなく、ビジネス価値を創り出すものであるということをより多くの企業に知ってほしい」と熱い想いを語りました。

続いて、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ 米津直樹氏がクラウドの市場動向に関して具体的な統計データを元に解説しました。

グローバルでは、パブリッククラウドからオンプレミスに回帰するユーザーも4割程度存在するといった結果も出ているという

米津氏によると、「クラウド成熟度は大きく5つのステージとなっており、国内ユーザー企業の64.1%がステージ3までに留まっている状態」とのこと。また、IT人材の65%がユーザー企業のIT部門に属している一方で、日本では28%に留まっている点も特徴的だと言います。

クラウド成熟度は大きく5つのステージで考えることができ、日本企業の半数以上はステージ3までに留まっている

さらなるステージにドライブするために、研究会では海外の事例など「アーリーアダプター」と呼ばれる企業の知見をまとめ、日本企業のハイブリッドクラウドの在り方を模索していることが紹介されました。

無償公開されたハイブリッドクラウドガイドライン

再びバトンを渡された胡田氏は、ここで「ハイブリッドクラウドガイドライン」の無償公開をアナウンス。100ページにも上るガイドラインを読み解くためのヒントを示しました。

そのなかで同氏は、ガイドラインにおける”核”というべき「スタイル」についても言及し、「スタイルが意味するのは、クラウド導入の在り方として優劣があるわけでなく、組織によって最適解が異なるということ」だと説明。自身の企業がどのスタイルに当てはまるのかを考え、現在の立ち位置を確認したり、棚卸ししたりする上でも大いに活用できると強調しました。

公開時点で定義されているスタイルは7つに分類されており、考慮ポイントとしてのシステムアーキテクチャは「レガシーシステム」と「クラウドネイティブシステム」に分割される

検証環境の紹介/勉強会の告知も

続いて、「ハイブリッドなクラウド基盤を利用したシステムに紐づくユースケース」としては、以下の3点が挙げられました。

  • エッジAI
  • データ主権とデータグラビティ
  • 医療機関Webサイト

ハイブリッドなクラウド基盤を利用したシステムに紐づく3つのユースケース

セッションでは、実際にこうしたユースケースを体感できる検証環境を紹介。研究会の有志企業によって提供される同検証環境は、ガイドラインでクラウドネイティブに分類されるスタイルとなっています。自組織とクラウドをシームレスに繋ぐ環境を手軽に利用できることが最大のメリットです。導入にあたって”ハードル”になりがちなハードウェア調達などが不要なので、気軽にハイブリッドクラウドを試せます。

検証環境は、AzureとAzure Stack、そして両者を繋ぐ専用線(ExpressRoute)で構成。セッション時には、貸し出しの運用スキームが未確定だったが、後日、研究会幹事会において運用スキームが確定した

このハイブリッドクラウドガイドラインの公開に合わせ、11月27日には研究会として初となる勉強会を開催することもアナウンスされました。

今回のセッションでは伝えきれなかった内容や、研究会メンバー企業によるハイブリッドクラウド導入、運用における経験談やガイドラインの内容を深堀するような勉強会になる予定です。

クラウド導入の課題はどこにある?

セッションの後半は、インターネットイニシアティブ 四倉章平氏がファシリテーターとして登壇し、クラウド導入の課題をテーマに3者の経験を交えたパネルディスカッションを実施。今回登壇した3名は、いずれも顧客とダイレクトにコミュニケーションできるポジションにいます。ここでは、業務のなかで、彼らが肌で感じてきた顧客の”温度感”をどのようにガイドラインに反映させたかが2つのテーマに沿って語られました。

以下に、その内容について簡単にまとめておきます。

●クラウドの障壁:日本と海外の違い
胡田氏は、今年9月に米国オーランドで開催された「Microsoft Ignite」に参加し、さまざまな技術者とディスカッションした経験から、「海外ではエンドユーザー自身が積極的に情報収集し、実際に活用している企業が大半であり、エンドユーザー自身が主体的に活動している点が日本企業とは対照的だと感じた」と言います。

さらに、「日本ではなぜクラウドファーストなのかを理解せず、SIerに意見を求めるものの、目的が不明確なためにエンドユーザーのニーズがくみ取れずにいる状態に陥っているのではないか」とも推測します。

一方、米津氏は「クラウドサービスを提供している某企業では、センシティブなデータはオンプレミス、クラウドにはデータ置かない、といった一貫性のあるポリシーで運用している。しかし、日本ではポリシーやビジョンが明確でないため、クラウド導入のステージを進められていないのでは」との見解を示しました。

●クラウド導入:エンドユーザーの悩み
四倉氏は、同イベントの別セッションで登壇したセブン銀行の事例をピックアップし、「ステージによってはコストがかかるが、クラウドが持つ圧倒的なスピード感で迅速なPDCAサイクルを回しており、何よりトップから一般の社員全てがビジネス課題を共有できている。いかにクラウドがビジネス価値を生み出すか、というマインドが重要」だと賞賛。

これを受け、胡田氏は「クラウドをうまく使える事例などが広まっていけば、さらにコミュニケーションが増えるのでは」と期待を寄せ、「エンドユーザーが迅速かつ安価にクラウドを利用するためにも、ガイドラインを活用してもらいたいと思っている」(米津氏)とガイドラインに込めた想いが語られました。

「研究会を通して強く感じたのは、さまざまな企業の技術者が意見をぶつけ合い、組織のなかだけでなく外部の技術者を巻き込んでドライブしていくのが重要だということです」――そう語る四倉氏の実感のこもった言葉が印象的でした。

* * *

三氏は最後に、「研究会はクラウド活用の意見交換だけでなく、自身の立場や垣根を越えお互いのミッションを再定義できる場となっている。これからもコミュニティを活用していきたいし、ぜひ皆さんの力で盛り上げてほしい」と会場に呼びかけ、セッションを締めくくりました。限られた時間ではありましたが、ハイブリッドクラウド研究会が取り組む活動の一端がお伝えできたのではないかと思います。

次回は、11月27日に開催される第1回勉強会の様子をお伝えする予定です。

著者紹介

株式会社ネットワールド
Microsoft ソリューション プリセールスエンジニア
津久井 智浩(つくい ともひろ)

ソリューションディストリビューターであるネットワールドの一員として、お客様に付加価値を提供するというミッションの下、Microsoft製品を中心にオンプレミスからクラウドまで幅広く提案~導入を担当。
趣味はバイク。昼散歩が日課。最近は自分よりもカミさんの働き方改革を何とかしたいと苦悩し、マインクラフトを通して子供と一緒にプログラミングを学びたいと願う40代。3児(2女、1男)の父。