英OMDIAが主催する「第47回ディスプレイ産業フォーラム」が7月25日~26日にかけて開催された。同社の日本・台湾・韓国・中国のアナリストらが登壇し、2024年上半期のレビューと下期から2025年にかけての予測が披露された。

冒頭、OMDIAのディスプレイ調査担当シニアディレクターのDavid Hsieh(謝勤益)氏が、「2024/2025年ディスプレイ産業および技術の10大トピックス」と題して講演し、注目すべき事柄として次の10項目を挙げた。

  1. 2024年は一言でいうと、デイスプレイ応用商品の買い替えにより「わずかな回復が見られる年」である。2024年上半期は大型パネルの需要が回復し、パネル価格も上昇して、テレビ用に関しては多くのパネルメーカーが黒字転換した。だが消費者の購買意欲は高くなく、下期の需要見通しは弱い。このため年後半にはパネル価格は再び下落に転じ、工場稼働率次第で供給過剰に陥る可能性がある。OMDIAは、今年のFPDの市場成長率を金額ベースで前年比13%、面積ベースで10%成長するとの半年前の予測を今回、それぞれ11%増、7.5%増に下方修正した。
  2. 中国メーカーのディスプレイパネルや装置・部材のシェアは、低コスト・大量生産品については増加傾向だが、技術・ノウハウ・特許依存の高い部材についてはまだ高くない。
  3. テレビの買い替えサイクルは、数量ベースでは6-7年だが、面積(サイズ)ベースでは4-5年で、いずれも2024/2025年が買い替えの年にあたる。
  4. テレビの新たな生産能力増強はもはや無いうえ、旧ラインのリストラが行われている。新たな投資は、タブレット/ノートPC/モバイル向けOLEDと車載およびマイクロLED向けのLTPS(低温poly-Si」/LTPO(低温多結晶酸化物)/Oxide(酸化物) に向けられている。
  5. パネルの需給バランスは2023年から2025年にかけて調整が進んでいる。パネルメーカーは供給過剰にならぬよう調整し、パネルのバイヤーは季節変動に注意を払っている。
  6. パネルメーカーの合併、買収、構造改革が起きており、2025年にサプライチェーンに変化が起きる。
  7. IT(ノートPC、モニター、タブレット)ディスプレイは新たにAIがけん引して、新しい技術の採用で新たな時代を迎え、競争が激しさを増す。
  8. 新たなディプレイ技術(ミニLED、マイクロLED、OLEDoS(OLED on Si)、マイクロOLEDoS)の市場進出にはブランド力が必要である。
  9. スマートフォン(スマホ)用パネル需要でOLEDがLCDを抜いた。中国はLCDが圧倒的に強いがOLEDでも強みを見せている。OLEDはどうやって利益を出すかが問題である。
  10. パネルメーカーそれぞれが各自の新たな戦略を立案している。利益を上げるための生産調整と新技術術開発に注力している。
  • ディスプレイ・サプライチェーン上の装置、部材、デイスプレイパネル、アッセンブリ、最終応用製品の地域・国別市場シェア

    ディスプレイ・サプライチェーン上の装置、部材、デイスプレイパネル、アッセンブリ、最終応用製品の地域・国別市場シェア(中国のシェアを青色で表示) (出所:OMDIA、以下すべて)

  • ディスプレイ各社の2024/2025年およびその先の長期戦略

    ディスプレイ各社の2024/2025年およびその先の長期戦略

またHsieh氏は、シャープが第10世代(G10)の液晶パネルを生産してきた堺工場に関して「7~8月に稼働率が50%未満となり、顧客のSamsung Electronics、HiSense、LGなどに在庫を供給しつつ、9月に生産を停止させる。設備の移管に関しては、今年後半には結論が出るとみているが、インドでの新規投資に対して移管の交渉中である」と述べたほか、LGディスプレイが中国広州に有する第8.5世代(G8.5)液晶工場の売却に関しては「売却額は14億~15億ドルといわれているが、今年上期に結論が出なかった。現在は55/65インチを中心に生産され、稼働率は8~9割ほどで操業している。テレビ用液晶が利益を出せる市況へ変化したので、当初の計画どおり売却すべきか迷っているのだろう」と述べている。

FPD業界は今年後半から来年にかけて穏やかに回復

OMDIAでディスプレイ技術および市場調査担当アナリストを務めるCharles Annis氏は、恒例のデイスプレイ業界天気予報を示して、6か月前と比較して緩やかに改善してきており、来年はさらに改善すると述べた。「2024年上半期、以前の予想よりもパネル価格が上昇したことから年間利益を押し上げる見込みである。しかし、下半期の需要は、以前の期待よりも弱まるだろう」と述べた。

  • ディスプレイ業界の天気予報

    ディスプレイ業界の天気予報

具体的には、OLEDは好調な年を迎えているとし、「ほとんどのパネルメーカーとアプリケーションにとって、依然として利益が出ない状況だが(Samsungのモバイル機器などのいくつかの例外はある)、OLED TVの出荷は非常に悪かった2023年から回復しており、スマホの台数も急増している」と回復が着実に進んでいることを強調する。また、2024年のスマホ向けOLEDパネルの成長率は前年比29%増で、普及率も2023年の43%から2024年には56%にまで上昇する見込みで、こうした好況により、ほとんどのOLED工場で、比較的高い稼働率を維持することができているとする。同氏はOLEDが急速に成長している理由の1つとして、新しいスマホへの多様化とLCDの置き換えが進んでいることを挙げている。

また、COE(Color Filter on Encapsulation)は現在、OLED業界で“最もホット”なトピックの1つであると指摘。COEは、従来の円偏光板と比較して、明るさの向上、消費電力の削減、柔軟性の向上を実現することを可能とするが、反射の増加やダークモードのディスプレイの外観が犠牲になるとされる。OMDIAの試算では、COEのコストは想定されるほど高くなく、円偏光板と同程度であるとしており、COEの採用は、コストよりもアプリケーションによる利点と欠点によって推進される可能性が高いとしている。

なお、同氏は、需要が生産能力よりも速く成長し続けると予測されるとしており、この動きにより、市場動向が徐々に改善されて行き、ディスプレイのような成熟した業界であっても大きな機会が生まれる可能性があると指摘している。

(次回に続く)