新型コロナウイルス感染症の到来は、オフィスの在り方を再定義する大きなきっかけとなった。
オフィスをなくし完全リモートワークに移行する会社や、あえてオフィス環境に投資しハイブリッドワークを実現する会社など、取り組みは十人十色だ。「出社する場所としてのオフィス」の時代は終わり、世界中の企業はオフィスに新たな付加価値を見出そうとしている。
本連載では、先進的な働き方・オフィス構築を行っている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうその内容を紹介していく。「これからのオフィスどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。
第6回となる今回は、解いて憶える記憶アプリ「Monoxer」を提供しているモノグサのオフィスを紹介する。モノグサの代表取締役CTOを務める畔柳圭佑氏に話を聞いた。
オフィスの至る所に「ボードゲーム」があふれる空間
モノグサは、2021年11月に本社を移転した。元々の本社は飯田橋に居を構えていたが、新オフィスも住友不動産飯田橋駅前ビルの7階でスタートさせることとなったという。その経緯について、畔柳氏は次のように語る。
「今回、社員の増員に伴いオフィスを移転しました。といっても、将来の増員を見越して大きなオフィスに移転したので、このオフィスに来たばかりの時はまだガラガラでした。元のオフィスがあった飯田橋という地はさまざまな方が来ていただきやすい場所だと感じていたので、移転先としても飯田橋の付近で探していました。候補地の中から、たくさんの社員が集まれるこちらの住友不動産飯田橋駅前ビルを選ばせていただきました」(畔柳氏)
今回のオフィスの移転に際しては、「職種によらず情報が入手できる環境」「直接仕事で関わらない人との交流を持てるような環境を」という会社としてのこだわりもあり、ワンフロアかつフロア内も移動しやすいような造りを心掛けたという。
モノグサには、プロダクト開発やビジネス(営業系)、HR、コーポレートなどさまざまな部署があるが、部署によって出社率はバラバラで、人が増えるにつれて他の部署が何をしているのかわからなくなってしまう。懸念があった。
そこで、2つ前のオフィス(半蔵門)から実施していた仕掛けが役立っている。オフィス内にボードゲームを設置し、部署を横断してコミュニケーションが取れるようにし、毎週金曜日にはおやつを食べながら職種を超えて自由に交流する任意参加のイベントを開催している。
またボードゲームに関しては、特別な思い入れがあるそうで、採用活動の際の最終面接ではオフィス内のボードゲーム用の卓でゲームが行われたり、会議室の名前にそれぞれボードゲームの名前が付けられていたりなど、さまざまな場面で登場するそうだ。
オフィスの移転は「会社そのものの方向性を決める」
会議室に関しては、前のオフィスから大きく変わったことの一つで、4部屋だった会議室が12部屋に増えただけでなく、電話ボックスタイプの会議室が新設されるなど、社員にとって使用しやすい環境になっている。
「会議室にはそれぞれ『Avalon』や『Catan』といったボードゲームの名前が付けられています。アルファベット順にAからIまで会議室が並んでいるのですが、この名前は、部屋に使用されているゲームのプレイ人数と会議室に入れる人数がリンクするように名付けられています」(畔柳氏)
それにしても、なぜモノグサはこれだけボードゲームにこだわりを持っているのだろうか。確かに筆者もボードゲームは大好きだが、大人になってからやる機会は少ない。
「会社にいるさまざまな人とコミュニケーションを取るのにボードゲームが最適だと弊社では考えています。決められた時間で、同じ目標を目指して会話をすることで、仲良くなれるだけでなく、その人の考え方や人となりを知ることができるからです。コロナ禍で飲み会やランチなど、今まで気軽に行えていたコミュニケーションイベントができなくなってしまったことも踏まえて、このような環境を用意しています」(畔柳氏)
そう畔柳氏に言われて、ふと高校生時代によく部活の仲間と人狼ゲーム(村人サイドと人狼サイドに分かれて戦うテーブルトークRPG)をやっていたことを思い出した。普段はクールなキャラなのに嘘が付けなくてすぐに顔や態度に出てしまうメンバーや、反対に普段のおっとりとした性格を微塵も感じさせない様子で核心をついてくるメンバーなど、日常生活のイメージとはまた違った一面が垣間見えるのがボードゲームの魅力なのかもしれない。
また、ボードゲーム以外にも目を惹かれる存在がある。それが「卓球台」と「ぶら下がり健康器具」だ。
このように「直接仕事で関わらない人との交流を持てるような環境を」という目標達成のために社員の交流の機会を多く作っている様子がうかがえる。
最後に畔柳氏に今後の展望を聞いた。
「このオフィスを移転する際に、どんなオフィスにするかを決めるのに一番苦労しました。オフィスを移転することはただの場所の契約ではなく、会社そのものの方向性を決めるという大事な決断の時だからです。会社の規模が今後大きくなっていくにつれて変化することもあると思いますが、『オフィスが存在している』意味はずっと変わらないと思っているので、この気持ちを大切にしていきたいです」(畔柳氏)