本連載では、先進的な働き方やオフィスデザインを取り入れている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうような内容を紹介していく。「これからのオフィスはどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。
連載の第1回となる今回は、2022年10月に開業を迎えたばかりの「九段会館テラス(旧九段会館)」(東京都 千代田区)をご紹介しよう。
九段下駅を出て皇居の方へ歩き出すと、すぐにひときわ古風な建物が目に入る。1932年に昭和天皇の即位の礼を記念して建てられたこの旧九段会館は、当時は軍人會舘と呼ばれていた。在郷軍人会の本部が設置されたほか、軍の予備役の宿泊施設などとして使われていたようだ。
1957年に日本遺族会に無償払い下げされ九段会館へと名称を変えると、古風な外見はそのままに結婚式場や宿泊施設、貸し会議室として提供された。ホールではサザンオールスターズをはじめ数々のアーティストがコンサートを開催し、併設のレストランが開いたビアガーデンも人気だったそうだ。
その後、2011年3月に発生した東日本大震災に伴ってホールの天井が崩落したことをきっかけに、同施設は土地と共に国に返還され廃業を迎えた。
東急不動産と鹿島建設が出資するノーヴェグランデは、旧九段会館について2018年3月に国との間で合意書を締結し、一部を保存しながら建て替えを進める「(仮称)九段南一丁目プロジェクト」を進めていた。同プロジェクトが、今回九段会館テラスとして新たに日の目を見ることとなった。北の丸公園に面した「テラス」と、旧九段会館を再度「照らす」という意味をその名称に込めている。
旧九段会館の躯体は一部を保存しながら、部分的には復元し、一部は新築として近代的な空間も広がる。近代的なIoT(Internet of Things:モノのインターネット)機器や医療サービス施設、職域食堂などを取り入れることで、単なるオフィスビルとしての使い方だけでなく、レトロモダンな雰囲気と機能的なオフィスを両立している。
今回のプロジェクトを主導した東急不動産の担当者に話を聞くと、「古い建物の保存は明確な答えが無い中ではあるが、今回は色味も含めてこだわり抜いた。一度全ての建物を破壊してから復元するという選択肢もある中で、あくまでも私たちは躯体を残しながらの動的保存(事務所などを日常利用しながら保存すること)に取り組んだ」と振り返っていた。
その他、保存部分と新築部分をシームレスに接続する点にもこだわったようだ。共用部やエントランス、エレベーターをクラシカルなデザインとすることで、入居企業のオフィスワーカーに「自分は旧九段会館で働いているんだ」と感じて欲しかったのだとしている。
ここからは、同施設に入居するオフィス向けに提供される設備や施設の数々を紹介したい。
屋上庭園
旧九段会館が保存されている部分の屋上は、入居企業のオフィスワーカー向けにウェルネスガーデンとして開放している。気分のリフレッシュだけでなく、チームでのディスカッションやちょっとした打ち合わせなどにも使える。
ペダルを備えた椅子など、自然と体が動いてしまうようなオリジナルの健康家具を配置し、運動不足の解消にも配慮してるのだという。コンセントも設置しており、PC端末を持ち込んでの作業も可能だ。
また、一般の来館者向けにカフェを併設した「ルーフトップガーデン」も整備している。
ルーフトップラウンジ
ルーフトップラウンジは入居企業が自由に使える施設で、貸し切り予約をすることも可能だ。小さなシンクを設置しており、洗い物が可能なため飲食を伴うパーティにも対応する。
クラシックオフィス
保存部分の一部は20から80坪ほどの小規模でクラシカルなオフィスフロアとして開放し、旧九段会館の古風な雰囲気を感じながら作業できる。天井部はあえて配管をむき出しにしたとのことで、開放感も感じる空間だ。クラッシックオフィスのテナント専用のラウンジもあり、コーヒーメーカーや自動販売機も設置している。
,A@クラシックラウンジ|
ビジネスエアポート九段下
ビジネスエアポートは東急不動産が手掛ける会員制シェアオフィス。九段会館テラスの1階と地下1階にビジネスエアポート九段下を備えているが、地下1階にはMONOSUS社食研が運営する職域食堂「九段食堂 KUDAN SHOKUDO for the Public Good」を併設し、昼時には入居テナントのオフィスワーカーおよび近隣住民に開放される。
食堂ではSDGsを意識できる食事の提供に取り組んでおり、食材は全国の農家から直送されるオーガニックなものを中心に提供されている。摂取したカロリーや塩分などを可視化し、健康状態に合わせたメニュー選びを支援する。
クリニックモール
入居企業の健康経営の支援を目的として、地下1階には内科、皮膚科、歯科、耳鼻科、薬局などが並ぶクリニックモールを設けている。通院時間をなかなか確保できないオフィスワーカー向けに、疾病の早期発見や治療の継続を促すという。
ここに入居する内科クリニックはオリジナルのスマホアプリを開発しており、入居企業のワーカーがこのアプリを利用することで、自身の血圧や体重などを登録して日々の健康管理やクリニックへの健康相談に役立てられるとのことだ。
礼拝堂
入居するオフィスワーカー向けに、さまざまな信仰に対応して利用できる礼拝堂も備える。中には手足を清めるための水道や方角を示す目印があり、部屋は男女別に分けられている。