新型コロナウイルス感染症の到来は、オフィスの在り方を再定義する大きなきっかけとなった。
オフィスをなくし完全リモートワークに移行する会社や、あえてオフィス環境に投資しハイブリッドワークを実現する会社など、取り組みは十人十色だ。「出社する場所としてのオフィス」の時代は終わり、世界中の企業はオフィスに新たな付加価値を見出そうとしている。
本連載では、先進的な働き方・オフィス構築を行っている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうその内容を紹介していく。「これからのオフィスどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。
第7回となる今回は、住宅設備機器・建材業界の最大手の企業であるLIXILのオフィスを紹介する。
在宅勤務メインだからこそ「意味のある出社」を生み出す
LIXILは、東京都江東区のWINGビルから、東京都品川区の住友不動産大崎ガーデンタワーへ本社を移転し、2022年11月14日から業務を開始した。
今回の移転は、個人が集中して執務にあたる場所ではなく、そこで働く人々をつなぎコミュニケーションが生まれる場所としてオフィスを再定義し、より小規模で、従業員同士のコラボレーションを促進する空間の実現を目的に行われたという。
「弊社は基本的に在宅勤務をベースとした働き方を推奨しており、本社に在籍している従業員の出社率は約8%となっています。そのため、部署にもよりますが、出社は週に1、2回のみという人もいますし、完全にリモートワークをしている従業員もいます。このような働き方改革に伴い、オフィスのあり方も必然的に変化し、オフィスは決まった時間に出社し一人で静かに執務にあたる場所ではなく、コミュニケーションとコラボレーションを行う場にしたいという想いがありました」(林氏)
この想いを表現するように、新オフィスには固定席でもくもくと作業を行うような席は設置されておらず、他の部署のメンバーと共創したり、アイデア出しのようなクリエイティブな作業を行ったり、といった役割がオフィスのメインとなっている。
また今回、移転先として選ばれた大崎という土地も「コミュニケーションとコラボレーション」というキーワードが深く関係しているようだ。
「弊社は、日本各地はもちろんのこと、グローバルにも展開しております。そのため、移転の際には、多くのメンバーが本社に来やすい場所の選出を心掛けました。その中で、大崎でしたら羽田空港が近いので海外からのお客さまも来ていただきやすいですし、品川駅にも近いため日本国内のメンバーも集結しやすく、コミュニケーションとコラボレーションの生まれる環境を生み出せる土地となりえると考え、この大崎という場所を本社に選びました」(林氏)
実際に、新型コロナウイルスの規制が緩和された現在、日本各地をはじめ、海外からの人も集まり始めており、スーツケースを持っている人をフロアで見掛けることも増えてきているそうだ。
こだわりは「ワンフロアに本社機能を集約」133mの廊下にかけた想い
移転プロジェクトでは、総務部を中心に24名のコアメンバーを選出し、デザイン部門やコミュニケーション部門といった9つの部会と共に22年4月から正式に始動した。従業員にアンケート調査を行い、どのようなオフィスにしたいかという意見を募ったという。
そんな従業員一人ひとりの想いが込められた新オフィスだが、一歩入ると、一般のオフィスではなかなか見ることのできない、長いまっすぐな1本の廊下があることに驚かされる。このストレートラインは133mもの長さがあり、この廊下を歩くだけでさまざまな人と出会うことができる仕組みになっているという。
「オフィス移転に際して、このまっすぐな133mのストレートラインを死守することは、経営陣からもリクエストされていたこだわりのポイントです。元々はフロアによって所属している部署が異なり、なかなか他部署とのコミュニケーションが生まれにくいという環境にあり、移転するなら『ワンフロアに本社機能を集約したい』という想いを持っていました。そしてワンフロアにするなら、フロア内で往来やコミュニケーションが生まれ、そこかしこで共創が生まれる場所にしたい。そんな想いからこの長い1本の廊下を残すことにしました」(仲野氏)
そして、このこだわりのワンフロアという設計には、長い廊下以外にも往来が生まれる仕掛けが施されている。
それがこの「オレンジさん」だ。
「オレンジさんをご覧いただくと『WALKING PATH』という文言が書いてあるのがお分かりになると思います。この言葉の通り、オレンジさんはオフィスの歩行ルートを示しています。マップの通りにオフィスを1周すると400メートルになっており、従業員の健康増進とコミュニケーション創出をオレンジさんに支えてもらっています」(林氏)
せっかくなので、筆者もオレンジさんに先導してもらいながらフロアを一周させていただくことにしよう。
何が起きるか分からないからこそ「柔軟性」を持ったオフィスに
133mの廊下をオレンジさんに従って進むと、最初の曲がり角の先にはたくさんの会議室が並んでいるのが見える。
この会議室にはそれぞれ「DANRAN」「OMOTENASHI」「NIGIWAI」といった用途に合った名前が付けられている。
「『OMOTENASHI』は来客用の会議室、『DANRAN』はチームメンバーなどで使う会議室、『NIGIWAI』はイベントなど多くの人が集まれる用の大きな会議室、といったようにサイズや用途によってその名前を冠す仕組みになっています」(仲野氏)
また、会議室の前にはちょっとした執務や雑談などができる待合スペースも設置されており、使いたい用途に合わせてスペースを選ぶことができるのも魅力的だ。加えて、この待合スペースからは東京タワーやレインボーブリッジなどの景色を一望することができるようで、一緒に過ごす仲間とクリエイティブな想像ができること請け合いだ。
また会議室エリア内には、LIXILが主催で行うオンラインセミナーや動画配信で使用するスタジオも完備されているなど、従業員が働きやすい仕組みが盛りだくさんだ。
最後に林氏に今後のオフィスの在り方についての意見を聞いた。
「新型コロナウイルスの流行で、改めて心に刻まなくてはいけないと思ったのは『オフィスのトレンドは変わっていく』ということです。今回のコロナ禍のようにいつ疫病が流行するかも分かりませんし、いつか大きな自然災害に遭うかもしれません。その度に慌ててオフィスの在り方を考えているのでは、従業員にとっても、会社全体にとっても、大きな不具合が生じてしまいます。そのため、弊社では、PC周りの機材などについてガチっと動かせないものは極力使用しない方向でオフィスをデザインしました。今後は柔軟性を持った、多くの従業員が安心して来たいと思えるオフィス作りに日々挑戦していきたいと思っています」(林氏)