新型コロナウイルス感染症の到来は、オフィスの在り方を再定義する大きなきっかけとなった。 オフィスをなくし完全リモートワークに移行する会社や、あえてオフィス環境に投資しハイブリッドワークを実現する会社など、取り組みは十人十色だ。「出社する場所としてのオフィス」の時代は終わり、世界中の企業はオフィスに新たな付加価値を見出そうとしている。
本連載では、先進的な働き方・オフィス構築を行っている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうその内容を紹介していく。「これからのオフィスどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。 第3回となる今回は、酒類、清涼飲料メーカーであるサントリーのオフィスを紹介する。
事業会社を商店に見立て「会社=商店街」を盛り上げる
サントリーが現在の本社オフィスである田町オフィスに移転したのは、2021年2月1日だ。元々、食品事業は京橋オフィス、営業部隊は赤坂オフィスと分かれていたが、それを「首都圏集合拠点再編プロジェクト」として、今回取り上げる田町オフィスと東京・台場の「サントリーワールドヘッドクオーターズ」の2拠点へと再編した。
「新型コロナウイルスが流行する前からオフィスを移転する計画は度々上がっていました。理由としては、ホールディングス体制に変わり、各事業の成長を目指すフェーズに差し掛かっていると感じていたからです。酒類事業と清涼飲料事業や、酒類事業の中でもビール事業とスピリッツ事業など、事業の垣根を越えてコミュニケーションを図り、アイデアを掛け合わせることで新たなシナジーが生まれることを促すためには、事業機能を集約した新しいオフィスが必要不可欠だと感じていました」(鈴木氏)
そんな想いでスタートした首都圏集合拠点再編プロジェクトは、大きなテーマとして、「One SUNTORY=One Family(大家族的な一体感)」を掲げている。その中で、リニューアルされたお台場オフィス(サントリーワールドヘッドクオーターズ)は帰属意識を感じられ、創業精神に立ち戻ることができる「頼りになる実家のような場所」がコンセプトになっている。
その一方で、田町オフィスは、各事業部が切磋琢磨しながら新たな価値を生み出す「商店街のような場所」がコンセプトになっており、オフィスの各所に「商店街感」を感じることができる仕組みが盛りだくさんだった。
「現在、弊社では、ビールやワイン、スピリッツなどの飲料類だけでなく、清涼飲料や健康食品・サプリメントなども含めたくさんの事業を展開しています。その一つ一つの事業やブランドを『商店』として捉え、そのたくさんの商店(事業会社)が協力してSUNTORYという商店街全体を盛り上げていくことを目標としています」(鈴木氏)
応接室の名前は「なっちゃん」「プレモル」 、会社愛あふれる11階
田町オフィスは、36階建ての田町ステーションタワーNの4から11階に居を構える。4階と5階はブルーを基調とする「水」のフロア、6階と7階はブラウンを基調とする「大地」のフロア、8階と9階はグリーンを基調とする「木々」のフロア、そして執務フロアとしては最上階にあたる10階はライトブルーを基調とした「天空」のフロアとなっている。
「このフロアのイメージは自然の流れを表現しています。下層部から水、大地、木々、天空……と階層イメージと実際の自然がリンクするように設計されています。これは弊社の『水と生きる』という企業理念を表現しています」(鈴木氏) 執務フロアが4階から10階であることは前述したが、1番上の11階には応接室や会議室が存在している。今回、筆者が鈴木氏からお話を聞かせていただいたのもこのフロアだ。
11階のエントランスを進むとまず目を引くのは、スーパーやドラッグストアにあるような大きな飲み物の冷蔵庫だ。この冷蔵庫は来客用で、その中には、サントリーが販売している飲料が数多く陳列されており、お茶やお水をはじめ、紅茶、ジュース、ノンアルコール飲料などさまざまな種類の飲み物を選ぶことができる。オフィスを訪れた取引企業や商談相手に対するサントリーならではの気遣いを感じる。
また、自社の飲み物を楽しむことができるのは客人だけではない。社員に対してはオフィス4階と6階に「社長のおごり自販機」が設置されている。「社長のおごり自販機」とは、2人の社員が同時に自販機に社員証をタッチすると飲み物が無料になるという特別な自販機だ。
普段は、課やグループのメンバー同士で誘い合って休憩を兼ねて訪れるほか、自販機の近くにいる他の事業会社の社員同士で使用することもあるそうで、社員たちがコミュニケーションを取る一環になっているようだ。 また、11階フロアを歩いていると、至る所で会社愛を感じることができる。
例えば、応接室にはそれぞれ「なっちゃん」や「プレミアムモルツ」「伊右衛門」といったサントリーが誇る商品の名前が付けられている。この代表商品の名前が応接室はそれぞれ「商店」を表しており、廊下は商店が立ち並ぶ目抜き通りのような風体となっている。
また、廊下の壁には、サントリーが過去から現在にかけて発売した数々の代表商品とその販売開始年が書かれている。
「ここは商品に関する昔話をしたり、自分と同い年の商品を探したり、社員の会話のきっかけになっている場所です。コミュニケーションを取れるだけでなく弊社の歴史を感じることもできます」(鈴木氏)