新型コロナウイルス感染症の到来は、オフィスの在り方を再定義する大きなきっかけとなった。

オフィスをなくし完全リモートワークに移行する会社や、あえてオフィス環境に投資しハイブリッドワークを実現する会社など、取り組みは十人十色だ。「出社する場所としてのオフィス」の時代は終わり、世界中の企業はオフィスに新たな付加価値を見出そうとしている。

本連載では、先進的な働き方・オフィス構築を行っている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうその内容を紹介していく。「これからのオフィスどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。

第5回となる今回は、金融系のクラウドサービスを提供しているマネーフォワードのオフィスを紹介する。

  • 左から、マネーフォワード BXデザイン部デザイナーの寺村卓朗氏、同社VPoC(Vice President of Culture)の金井恵子氏

2種類の座席で多様性のある働き方を実現

マネーフォワードは、2023年3月に本社を大幅に刷新した。これまで居を構えていた「msb Tamachi 田町ステーションタワー」の21階に加えて、20階にも新フロアをオープンした。

この新フロアの特徴は「チームの共創が捗る執務エリア」「作業スタイルに合わせて選べる座席」「交流が生まれるスペース」挙げられ、多様性を尊重しつつ出社することが楽しくなるような仕掛けがたくさん散りばめられている。

まずは、オフィスエリアから紹介していこう。

フロアのマップを見てみると、チームで座れる「Team Area」、仕事に集中できる「Personal Area(Focus)」……というように、目的によって使うエリアが分けられていることが分かる。

  • マネーフォワードの新オフィスのフロアマップ

「オフィスエリアの座席は、チームメンバーとの共創が捗る『Team Area』と、個人の作業が捗る『Personal Area』が設けられています。また『Team Area』と『Personal Area』においても2タイプの座席を用意しており、用途やその日の気分によって使い分けることができます」(金井氏)

  • 新エリアを紹介する金井氏

「Team Area」に用意されている座席は、チームで向かい合って一緒に座れる座席となっている通常の「Team Area」と、メンバー同士でわいわい話しながらプロジェクトを進めたいチームにおすすめな「Team Area(Interact)」の2つだ。

一方で「Personal Area」には、個人で作業を進めたい人向けの周囲に気を配りながらオンライン会議もできる「Personal Area」、一人でしっかり集中したい時に使用することを原則としたオンライン会議や雑談ができない「Personal Area(Focus)」が設置されている。

  • 座席の使い分けのイメージ

「手作りの柱」「社員が運営するカフェ」 工夫に富んだ仕掛けが盛りだくさん

では、続いて新フロア拡張の最大の目玉ともいえる「Connect Area」を紹介しよう。

「Connect Area」は、さまざまなバックグラウンドを持つマネーフォワードの社員たちが新たに知り合えたり、仲を深めたり、思い出を作ったりできる場所として設置されたスペースだ。

  • 社員の絆を深めてくれるスペース「Connect Area」

「出社したくなるオフィスを生み出そうと、さまざまな意見を集める中で『出社しても知っている人がいなかったら意味がない』と言葉を聞き、本当にその通りだなと思いました。そのためプロジェクトの当初から、『新フロアはメンバーが交流できる場所にしたい』という強い想いがありました」(金井氏)

この「Connect Area」内には副業としてカフェを運営している社員がコーヒーを振る舞うバーカウンターがあったり、お弁当を持ち寄って会話に花を咲かせられるようなスペースがあったり、とまさに社員の交流の場として機能しているようだ。

  • 筆者もコーヒーを振る舞っていただいた

しかし、マネーフォワードの「社員の交流」にかける熱量はそれだけにとどまらない。

「弊社の人数規模だと、場所だけを用意して『自由に交流してね』では、部署も名前も知らない、はじめましての人とつながるのは難しいです。そのため、『Connect Area』というハードと、そこで開催するイベントというソフト、両方からアプローチできたらいいなと考えました」(金井氏)

マネーフォワードは今後、この「Connect Area」という場所を活用して、たくさんの社内交流イベントを開催していく予定だという。またイベントがないタイミングでも、平日の18時以降であれば、アルコールも含めたドリンクが飲めるので、それを囲んで集まることもできる。

実は、この新フロアを開設する行程においても「社員の交流」が生まれる仕掛けが施されていたのだという。

「このフロアにある柱は全て社員の手で塗られたものです。そのためよく見ると少し色にムラがあったり、落書きを残していたり……と手作りならではの温かみを感じることができる仕掛けになっています。また、オフィスに入ってすぐ目に入るマネーフォワードのロゴマークも有志の社員の手形で作られたものになっています。自分たちが会社を作っていくんだ、という帰属意識を生むとともに社員同士の交流が生まれる企画になったのではないかなと自負しています」(金井氏)

  • 有志の社員の方々が塗った柱。少し色ムラもあるが温かさが感じられる

加えてオフィスの入り口には社員同士で撮った写真を飾ったり、みんなで話したいテーマを寄せ書きしたりするボードが設置されており、ここでも社員の交流が生まれるようになっている。

  • 社員の皆さんが飾っている写真や話したいテーマ

コロナ禍で人とのコミュニケーションが希薄になった現代において、次に求められるのはこんな社員が自分らしい働き方をたくさんの仲間とともに実現させていくオフィスなのかもしれない。