iPhone情報整理術を書いていたときに初めてDropboxを個人のためのファイル置き場というだけでなく、情報を共有したり、そもそも「My Documents」(MacならDesktop?)に当たるフォルダをネット上に置いてしまうという使い方をし始めて、とても気分が解放されたんです。今回はそんなDropbox仕事術について、その魅力をお伝えしたいと思います。

佐々木 私は以前、Windowsユーザーだったときには、ジャストシステムのインターネットディスクというものを使っていました。複数のコンピュータを使い回す環境では、どのパソコンを使っていても、すぐに作業中のデータを編集できるかどうかということは、無視できない問題ですね。

そうですね。DropboxとSugarSyncのどちらがいいのか? とよく聞かれるのですが、僕には「1つのフォルダがシンクロされている」というDropboxの考え方がとても性に合っています。

佐々木 私自身も、Dropboxの考え方のほうが好きですが、実は両方使っています。なぜかというと、「パソコンにぜんぜん詳しくない人」のデータを整理してあげるというニーズには、SugarSyncはとても合っているんです。誤解しないでほしいのですが、パソコンに詳しくない人がSugarSyncを使っているということではありません。SugarSyncを使うと、他人のたとえば「Desktop」の内容を私がいじれるようにも設定できます。「My Dropboxに入れてください」といっても、「それってどこにあるんですか?」という人のデータは、「デスクトップ」や「My Documetnts」を遠隔で整理してあげることができます。

SugarSyncであれば、他人のデスクトップも遠隔操作できます

なるほど、SugarSyncだったら遠隔管理にも使えるんですね。ところで先日Evernoteのアンケートをまとめていたときに気づいたのですが、意外なことに、日本のユーザーは、DropboxをEvernoteと比較することが多いんです。「ファイルはDropbox、アイディアはEvernote」という風になんでもいれるという共通点がイメージとして似通っているのでしょうね。

佐々木 EvernoteとDropboxが現在のところ、日本ではクラウドの代表サービスのように受け止められているということですね。何でも入れておけるクラウドの仕事場としてのDropboxのすごさを、まとめるとどうなるでしょうか?

勇気を出してDropboxを50GBの有料プランにしてから、その本当のすごさが見えてきた気がします。

まず1番目に、「My Docuement」やMacの「Desktop」といったフォルダをすべてDropboxに入れてしまうことでファイルが「場所」から解放され、「あのパソコンにファイルがある」という概念そのものが消えてしまいました。開けば、いつでもファイルが手に入るという安心感を手に入れることで、大きな時間節約につながったんです。

Dropboxのコース別価格

佐々木 データを「場所」の制約から解放されたということですね。2番目には?

2番目には、これまで同期機能がなかったようなアプリケーションの設定ファイルをクラウドにいれることで擬似的な同期ができるようになったのも大きいです。いま野心を燃やしているのが、Dropboxを100GBにしてiTunesの音楽もすべてクラウドに入れるという試みです

佐々木 それは面白そうですね。私が思う3番目は、同期速度が圧倒的に速いことです。大容量のデータをオンライン上にあげるとなると、ちょっと引っかかるのが、「最初の同期をとることになるパソコン」のことなのです。これまでの経験だと、大容量のデータを同期するのに、速度が遅いと1日以上かかっていました。これは、仕事で急いでいるときなどには、気のもめることですが、Dropboxでは同期をとるのに待たされるという印象が、ほとんどありません。

最後にもっとたくさんの人に使ってほしいのが、Publicフォルダによるファイル共有と、フォルダをまるごと共有するという機能ですね。メールの添付ファイルで大きなファイルを送るよりも、Dropboxに入れてからリンクをメールで送るだけの方が手軽です。それから、複数の人で執筆をするために関係するファイル、画像、文章などを全部一つのDropbox共有フォルダにいれているのですが、これもファイルの置き場が「どこ」にあるとは言い切れない感じで、全員にとって使いやすくなっている気がします。

佐々木 「どこにあるとは言い切れない」というのは、慣れないと不安に思うかもしれませが、これこそがクラウドの最大のメリットですね。Dropboxにすべてを預けてしまって、この感覚にまず慣れることが大事ですね。

そうですね。Dropboxを使っていると、ファイルはちゃんと手元にあるのに、なんだか羽がついてどこにでも自分の行く先々に先回りしているように思えてきます。

対談後記(佐々木正悟)

最初私は、Dropboxのメリットは複数台のPCで同一データを共有することと信じていました。もちろんこれも重要な機能なのですが、ファイル共有をぐっと手軽にする、という点こそが見逃せません。これは、堀さんと共同で仕事をするようになって、急に実感できるようになった大きなメリットです。「ファイル」という実態のないものは、「会社のデスクトップ」などに閉じ込めらる必要はないのだと、痛切に感じるようになりました。今後急速に、ワークスタイルは「クラウド」へと向かって展開していく気がしてなりません。

佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト

「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。

ブログ「ライフハックス心理学」を主催

堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者

1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」(日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2(技術評論社、共著)がある。「ブログ Lifehacking.jp 」を主催