小売業界において、店舗レイアウトは売り上げを大きく左右する重要な要素だ。単に商品をディスプレイするのではなく、顧客の目を引く魅力的なレイアウトで売れ筋商品や関連商品を組み合わせ、購買意欲を高める。チェーンストアのように多くの店舗数を抱える企業では、本社から模範レイアウトが展開され、それに従い店舗側が売り場をつくるが、本社側の意向を反映したレベルの高いレイアウトを維持していくのは難しい。店長が随時チェックしたり、本社のエリアマネージャーが店舗を巡回してチェックするケースも多いが、時間と手間がかかり運用には課題も多い。

ビジネススーツやカジュアルウェアなどを全国281店舗(2014年10月末現在)展開しているタカキューでは、全店舗にiPadを導入し、本社と店舗の情報共有ツールとして活用するなど、店舗業務の効率化に効果をあげている。

タカキュー新橋店の入口ディスプレイ

iPad導入でスマートなワークスタイルを構築

タカキュー新橋店 店次長 野瀬久臣氏

「店舗のレイアウトづくりにiPadは欠かせない」と語るのは、タカキュー新橋店 店次長の野瀬久臣氏だ。

「本社から配信される見本をiPadで確認しながら、店舗でレイアウトを作成・変更しています。レイアウトが完成すると、iPadのカメラ機能で写真を撮って本社に送付しますが、売り場にいながらすべての作業がiPad1台で完結するのでとても便利です」(野瀬氏)

手元のiPadから閲覧しているのは、P2Net(ピーツーネット:ネットパイロティング株式会社提供)というチェーンストア向けのグループウェアサービスだ。これまでも同社は、業務用PCでP2Netを利用して、月に1度、本社側のレイアウト展開部署から全店舗へ見本のレイアウトを配信してきた。しかし、業務用PCはバックヤードに設置されているため、いちいち店舗裏まで情報を見に行く手間があったという。

「裏のPCでP2Netを開き、レイアウトを記憶して売り場に戻って作業をするか、プリントアウトした紙を売り場持ち込んでディスプレイをつくっていましたが、効率的とは言えませんでした」(野瀬氏)

タカキュー 経営企画部 部長 矢巻眞氏

そこで、ネットパイロティングに依頼してP2NetをiOSからも閲覧できるようにした。iPad導入を指揮した経営企画部 部長の矢巻眞氏は「いまでは売り場レイアウトは、全店iPadから確認するスタイルに変更しています。導入後の反響は、予想以上でした。手軽に売り場のレイアウトを確認・送付できるようになったので、エリアマネージャーが積極的にP2Netを活用し始めたのです」と語る。

「週次で担当エリアのレイアウト画像を集約し、優秀店舗をピックアップしてリスト化しています。エリアマネージャーもiPadを持ち歩いていますので、外出先や移動時間でもP2Netでレイアウトを確認可能です。『良いレイアウトなので真似して欲しい』という店舗があれば簡単なコメントと一緒に管轄する全店舗へ配信しています」(矢巻氏)

店舗側でも、売り場にいながらタイムリーに他店のディスプレイ画像を閲覧できるようになり、店舗同士で成功例を共有している。スタッフ側でも優秀店になりたいというモチベーションをもとに売り場を作成する意識が出てきている。

「以前はデジカメで売り場の写真を撮り、バックヤードの業務PCに接続してデータを本社へ送付していたので店舗側の作業も手間でしたが、今は、iPadから簡単に対応可能です。他店のレイアウトは刺激になりますね」(野瀬氏)

優秀なレイアウトには、王冠マークやコメントをつけて全店舗に共有している

オーダースーツもiPadのアプリからその場で注文可能に

そもそもの導入のきっかけは、「売り場からスタッフが離れる時間をできるだけ短くしたかったから」と矢巻氏は振り返る。

「店舗スタッフの本来の業務は、お客さまに応対することです。バックヤードのPCへ情報確認に行くことで、接客時間が減ってしまうのは問題でした。そこで、売り場にいながらiPadで必要な情報を閲覧できる仕組みを構築し顧客満足度向上を目指しました」(矢巻氏)

スーツの形や製法をいくつかのパターンの中から選び、好みの製品に仕立てるセミオーダースーツの注文時にも、顧客が希望する布地の在庫確認のため、いちいちバックヤードまで確認に行く必要があった。接客中に売り場を離れなければならないので、商談が途切れ、顧客を待たせてしまっていた。

「こちらも、PCで使用していた注文システムをWebアプリにしてiPadで対応できるようつくり込みました」(矢巻氏)

以前は紙の注文票を店内で作成し、後からバックヤードのPCでオーダー内容を入力していた。これをアプリ化して、iPadの画面で顧客と一緒に形や製法をプルダウンで選択し注文完了する仕組みにつくり替えた。

布地の材質や手触りなどを確認しながら、希望の布地を決めていく。布地が決まったら、布地に記載されているコード番号をiPadに打ち込み、在庫の確認と布地を確保する(左)、ボタンの形やポケットの種類など、プルダウンで選択しスーツのオーダーを完成させていく(右)

「売り場とバックヤードを行ったり来たりせずに、売り場でお客様と一緒にiPadの画面から在庫を確認し、その場でオーダー入力できるので、注文ミスの心配もなくなりました。以前からご利用されているお客様からは、『すごく便利になったね』と喜んでもらっています」(野瀬氏)

タイムリーな動画配信がiPadで実現

店舗へ直行直帰で勤務する社員に対し、本社の意向をスタッフ1人1人にまで落とし込むのはなかなか難しい。タカキューでも、経営層のメッセージなど動画で展開したい情報は、DVDを作成して全店舗に配付していた。

タカキュー 経営企画部 坂上雄一氏

「撮影・編集したDVDを300枚作成してメール便で送っていましたが、本部側の負担が非常に重く、時間もかかっていました。グループウェアでの展開も試したのですが、わざわざ業務用PCまで動画を見に行かねばならない方法は、忙しい現場スタッフの業務スタイルには合いません」と現場勤務で店長経験もある経営企画部 坂上雄一氏は語る。

そこで、大容量のデータ添付も可能なソフトバンクテレコムのPrimeDriveを導入して、本社と店舗間をiPadで情報展開できるようにした。PrimeDriveは、動画データをドラックアンドドロップでアップロードすれば簡単に全店舗に展開可能だ。タイムリーな情報展開が実現し、今まで配信できていなかった教育動画なども配信できるようになった。

「よい成績を収めた店舗は、何を取組んだことにより数字が取れたかを動画にしてPrimeDriveで展開しています。以前は、店長会議の壇上で発表されたものを店長たちがメモを取り、店舗に戻って口頭でスタッフに伝えていました。しかし、今では店舗スタッフにも動画で共有できるようになりました。iPadから動画が見られるようになれば、店舗側で、好きな時に好きな場所で気軽に動画で学ぶことができます。革新的だと思いました」(坂上氏)

高級スーツ布地の説明動画。ちょっとした隙間時間に、iPadから動画を確認できる手軽さがよいという

iPad導入で業務スタイル改革に成功した同社では、今後も現場の業務効率化を計画中だ。

「現場でニーズが高いのは、在庫検索です。セミオーダースーツ以外の既製品についても、在庫検索したいという要望が上がっています。今は、売れ筋や在庫などPCでしか確認できないため、これもWebアプリにして、iPadから確認できるよう検討中です」(矢巻氏)