AWSを活用して、牛の管理を効率化するクラウド型ソリューションを提供するファームノート。現在、自社開発のセンサーを牛に取り付けてデータを分析するIoTサービスのリリースを予定している。今回、代表取締役の小林晋也氏に同社が手がけるIoTソリューションについて話を聞いた。

ファームノート 代表取締役 小林晋也氏

日本の生乳生産を背負う北海道から牛の管理にアプローチ

ファームノートは、酪農・畜産分野にフォーカスを絞り、牛の管理を効率化するシステムとしてAWSを活用したクラウド型ソリューション「Farmnote」を提供している。

「『世界の農業の頭脳になろう』という戦略の下、世界中で最も農生産データを集める企業になり、人工知能も使ってユーザーが困っている時に最適な知識を提供できるような、"農業のGoogle"のような存在を目指しています」と、小林氏は同社の目標としている姿を語る。

ファームノートは北海道帯広市に本社を構える。同市は小林氏自身の出身地でもあるが、日本の農業を支えている地域でもあるという。「都道府県の中で最も農生産高が高いのが北海道です。北海道の農生産高は1兆円規模ですが、そのうち半分に当たる5000億が畜産です」と小林氏。農業という日本の基幹産業において、北海道はビジネスチャンスが多い地域と言える。

また、畜産業においては、国内に存在する400万頭の牛の多くが北海道で飼育されており、生乳の51%が北海道で生産されているという。「Farmnote」のユーザーの50%は北海道の酪農家が占めているとのことだ。

「SIの企業も経営しているのですが、そちらに酪農家の方から問い合わせをもらったのがFarmnoteの始まりです。需要がある分野なのに、必要とされているソリューションが存在しないと感じ、事業計画を書いたところ、現場の皆さんに支持されました。"これは相当困っている"と考え、開発に乗り出したのです」と小林氏。

スマートフォンで現場の管理を行うことで牧場経営を見える化

小林氏は、牧場経営のポイントを次のように教えてくれた。

「健康な牛の数を増やせば増やすほど、生乳の生産量は伸びます。健康な牛というのがポイントです。そのため、牛舎を清潔にしてストレスをなくしたり、病気の牛にすばやく対処したりする必要があります。また、牛乳は分娩した後に出るので、発情して排卵のタイミングに合わせて人工授精をしなければなりません。搾乳する日数が長くなるほど乳量は減ってくるので、分娩の間隔を短くしなければ生産量が上がらないという事情もあります」

牛を正しく管理して牛の利益を向上させれば、生産量という形で人の利益も向上することになる。しかし従来、そうした牛の体調管理や生産量管理は、手書きのノートなどの非常にアナログな方法で行われてきた。世界的に使われている管理ツールは存在するが、コマンド入力が必要であるなどユーザーの負担が大きかった。そこで、「次世代のノート」として開発されたのが「Farmnote」だったわけだ。

Farmnoteでは、牛舎での作業中にもスマートフォンから手軽にデータ入力が行える。発情の様子が見えた時は「発情」というボタンをタップし、牛の管理番号を入力すれば登録完了となる。人工授精を行ったかどうか、体調変化の様子があるか、これまでの病歴はどうで、どのような治療をしたのかなど、多彩なデータを入力しておき、飼育中に何か変化があれば入力や確認をその場で行える。餌の量や肉質なども登録でき、乳牛に加えて肉牛の管理にも対応する。

もちろん、データを登録・確認するだけではない。登録したデータから発情が確認される予定の牛を分析して、朝のうちにアラートで通知してくれる。さらに、個体の生産性分析、季節ごとの病気の発生数、指定期間内の生産量や出荷頭数といった実績の評価も行える。将来的に牛の量が増えるかどうかのシミュレーションにも対応しており、「Farmnote」はまさに牧場経営の「見える化」を実現してくれるツールというわけだ。

「ユーザーの方には『牧場の健康状態を見られるようにしましょう』と言うのですが、ノートをデジタルに置き換えるのではなく、生産性のどこに問題があるのかをわかりやすくすることがFarmnoteの目的です」と小林氏は語る。

日本の酪農家は技術が高く、データを効率よく管理できれば、的確な判断を行えることが多いそうだ。そのデータ管理の部分を請け負う形で「Farmnote」はスタートしている。