第42回第43回と2回続けて、まつもとゆきひろ氏が英語で行ったプレゼンテーションを題材に、英語らしくするにはどうすればいいのかを解説してきました。前回は、トピックの取捨選択、再考するところまで話をしましたが、いかがだったでしょうか。自分の主張(thesis)をサポートしてくれるトピックを選択する作業は、自分の言いたいことをわかってもらうためにはとても重要です。英語でプレゼンテーションする機会があるときには、見直す時間をぜひもちたいものです。そしてトピックが決まったら、全体を構成して、実際にどのように英語を話すかを考えます。今回は構成、つまり"outlining"について話をしましょう。

そもそも、Outliningとは何でしょうか。Outliningとはトピック(main ideas)とサポート内容を効果的に構成してナンバリング(番号付け)して書き出すことです。一般に、

I. Main idea 1

A. Support 1

  1. Example or detail 1
  2. Example or detail 2

B. Support 2

  1. Example or detail 1
  2. Example or detail 2

II. Main idea 2

A. Support 1

  1. Example or detail 1
  2. Example or detail 2

B. Support 2

  1. Example or detail 1
  2. Example or detail 2

のように番号付けを行います。このように並べてみると、改めて自分の主張やサポートの足りないところなどがはっきりしてきます。また、Main ideasを支えるsupportsやdetailsはバランスしているのが良いとされるので、少ないところ、多すぎるところを調整するのにも便利です。ただ、実際にはきれいにバランスしたプレゼンテーションを行っているスピーカは少ないので、指標程度に考えるといいでしょう。このような、解説はインターネットで"speech outline"などのキーワードで検索すると多数のサイトが見つかりますが、その中でも、"Speech Outline Examples: How to Outline Your Speech Topics"や"Structuring an Informative Speech"はわかりやすくまとまっているので参考になるでしょう。

では、outliningの中身をどう並べていくかですが、いくつかの手法に分類されています。上記のWebサイトに解説があるように、topical、chronological、spatial、persuasive、problem-solving、cause-effectなどがあります。本連載第40回および第41回で取り上げたNeal Gafter氏のプレゼンテーションはproblem-solving型で、第42回および第43回で取り上げたまつもと氏のプレゼンテーションはtopical型になっています。また、第2回および第4回で取り上げたSteve Jobs氏のスピーチはchronological型でした。

ためしに、本連載の前回記事で見直したトピックを元に、topical型でoutliningを行ってみましょう。トピックを並べるときには重要なものから、あるいは特に主張したいものから順番に並べるのがセオリーなので、Ruby 1.9の特徴としてよく取り上げられている実装のパフォーマンス改善とUnicodeサポートの話を初めのほうにもってきます。そして全体をできるだけバランスさせると、以下のような構成例が考えられます。

I. New Implementation

A. Introduction of YARV

  1. Who created it?
  2. History

B. Performance Improvement

  1. Chart or Data
  2. Memory Diet

II. New Features

A. M17N Unicode

  1. Character Based Processing
  2. Character Encoding Support
  3. Incompatibilities

B. Lamda

  1. Detail
  2. Example

C. Enumerator

  1. Chain of Enumerator
  2. External Iterator

D. Method Invocation by .

  1. Detail
  2. Example

III. Specification Changes

A. Multiple Splats

  1. Detail
  2. Example

B. Mandatory Arguments After Optional Arguments

  1. Detail
  2. Example

C. Block Parameter

  1. Local Variables
  2. Block Scoped
  3. Incompatibility

D. Strings

  1. Non Enumerable
  2. Example
  3. Incompatibility

内容という点で異論はあるかもしれませんが、 本記事で仮に設定したthesis「進化したRuby 1.9でプログラミングが楽になる」をreinforceするmain ideasを3つとそのサポートをできるだけバランスするように構成した例です。

もしもoutliningの段階でトピックやサポートの取捨選択に悩んだら、"Is it good or bad for my thesis?" "Does it effective for my thesis?"と自分に問いかけてみるといいでしょう。英語の回答は基本的に"good or bad"と"yes or no"しかないので、明らかに"good"で"yes"と答えられるものを取り上げるようにするといいでしょう。

Outliningができましたので、あとはintroductionとconclusionです。 上記で紹介している"Speech Outline Examples: How to Outline Your Speech Topics"のtopicalのリンクをクリックすると、 Introductionでは

A. Grab the attention
B. Reveal the specific purpose statement
C. State your credibility
D. Make a tie to the audience
E. Preview of main points

を行うと説明されています。 テクニカルなプレゼンテーションの場合、Dはあまり必要ないのですが、リスナーの関心を引くためのAやアウトラインを述べるE は必ず行うといいでしょう。ちなみに、 Neal Gafter氏はプレゼンテーションの冒頭で引用を行っていますし、プレゼンテーションの目的とアウトラインにも触れています。

このWebページにはconclusionで話すべき内容についても説明がありますが、ここにあるとおり、conclusionではmain ideasやthesisを繰り返して、リスナーの記憶に残るようにするのがよいとされています。また、印象を強くするために、有名な誰かが言った言葉を引用するのも1つの手法です。

以上で、英語らしい構成ができるようになりました。あとは実際に英語でどのように説明するかですが、あまり正しい英語にこだわらなくても大丈夫です。相手がネイティブスピーカの場合は多少まずい英語でも、構成さえしっかりできていればわかってもらえます。英語の試験を受けているわけではなく、主張を伝えるということを忘れないでください。