皆さんは、「コンテンツマーケティング」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか? マーケティング先進国となるアメリカでは5年ほど前から、国内でも一昨年ごろからよく聞かれるようになった新しいWebマーケティング手法です。

このように申し上げると「また、FacebookやTwitterの時みたいな新しい流行り物か」と受け取られるかもしれませんが、コンテンツマーケティングはインターネットが生活インフラ化したことで変容した人々の消費行動に対応した、極めて本質的かつ普遍的な進化「マーケティングのパラダイムシフト」だと言われています。

この連載では、コンテンツマーケティングの概論や、昨今注目されてきた社会的・技術的背景、実際に導入する上でのステップ、社内説得術などを6回に渡ってお伝えしていきます。

コンテンツマーケティング、それは"古くて新しい"マーケティング手法

冒頭にて、「コンテンツマーケティングは新しいWebマーケティング手法」とご紹介しました。しかし、コンテンツマーケティングの考え方自体は、「最近生まれたまったく新しいもの」というわけではありません。むしろ、インターネットやコンピューターが登場する遙か以前から存在していた手法です。

「A Brief History of Content Marketing」出典 : CONTENT MARKETING INSTIUTE

レストランガイドで有名な「ミシュラン (Michelin)」は1900年、フランスのタイヤメーカーが自動車旅に役立つ地図や自動車整備などの情報を掲載した400ページのガイドブック「ミシュランガイド」を初めて無料配布しました(図を参照)。今から100年以上も前のことです。

彼らは、自社製品となるタイヤを売るのではなく、自動車旅行の楽しさやカーライフの便利さを広く伝えることで、自動車業界そのものを活性化し、タイヤ需要の底上げを狙ったと言われています。

その直後となる1904年には、フルーツゼラチンミックス「JELL-O (ジェロ)」を開発した米国企業が、自社製品を使うレシピ本を無料で配布。まったくの無名ブランドが2年後には年間売上高300万米ドルを稼ぐまでに成長したといいます。

商品を売ることよりも、顧客に有益な知識を

100年前から顧客獲得の手段として取り組まれていたコンテンツマーケティング――2つの事例に共通することは、「直接的に商品を売りこむのではなく、顧客にとって有益な知識を提供することで間接的に売上につなげている」ことです。

さまざまな定義やネット関連のカタカナ用語によって複雑怪奇な印象を持たれることもあるコンテンツマーケティングですが、その本質はここに集約されています。「顧客の獲得を目的にコンテンツを制作し、提供することに注力したマーケティング手法」それこそがコンテンツマーケティングなのです。

コンテンツで見込み客に「見つけてもらう」

コンテンツマーケティングに興味のある方であれば、「インバウンドマーケティング」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。米ハブスポット(Hubspot)が提唱したこの用語を理解するために、対義語となる「アウトバウンドマーケティング」からご説明しましょう。

アウトバウンドマーケティングとは、商品を売ることを目的に「訪問販売」や「電話のセールス」「ダイレクトメール」「メールマガジン」などで見込み客にアプローチするプッシュ型のマーケティング手法です。ひと言で表せば「売り込み」と呼ばれる手法で、近年では急速に効果が低くなっていると言われています。訪問販売や電話でのセールスに対し、多くの人が警戒・拒絶するようになっているためです。

一方、インバウンドマーケティングは正反対の考え方となります。消費者に嫌がられるような「売り込み」をせず、見込み客に自ら「見つけてもらう」ことを目標とします。

では、いったいどうやって見込み客に「見つけてもらう」のでしょうか――そう、コンテンツです。「見込み客がどのような情報を必要とし、何を探しているのか」を正しく理解し、その情報を「見つけやすい形」で提供することこそ、インバウンドマーケティングの要諦となります。

そして、顧客の方から寄ってくる(インバウンド)状況を作り出すために有益なコンテンツの発信に注力したインバウンドマーケティングが、コンテンツマーケティングであるとも言えるでしょう。

「見つけてもらい、ニーズを育成し、定着させる」コンテンツマーケティングの5ステップ

前述のように、見込み客に見つけてもらい、そして製品やサービスを購入してもらうため、コンテンツマーケティングには5つのステップを要します。

コンテンツマーケティングの5つのステップ 資料 : 宗像氏著「商品を売るな」

この中でも得に重要なステップは、「Webサイトやブログで情報を提供することでWebサイトへの訪問数を増やす」ことです。

生活者は、モノを購入する前にインターネットを使って自分で情報を収集し、知識を得ることが当たり前になっています。彼らが探している情報を、いかに適切にタイムリーに提供できるか――それが生活者に商品やサービスを購入してもらう動機付けとなるのです。

次回は、アウトバウンドマーケティングが効かなくなった背景や、なぜこれほどまでにコンテンツマーケティングが注目されたのかを社会的要因・技術的要因から紐解いてみたいと思います。

執筆者紹介

イノーバ 代表取締役社長 宗像淳

福島県立 安積高等学校出身、東京大学文学部卒業。その後、富士通にて北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等を経験する。MBAを取得するため、ペンシルバニア大学ウォートン校に留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから楽天へ転職。その後、ネクスパス (現 : トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当する。
2011年6月に株式会社イノーバを設立(公式Webサイトはこちら)。著書に『商品を売るなーコンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みをつくる (日経BP)』がある。

書籍紹介

商品を売るな

著者 : 宗像淳
発行 : 日経BP 2014年12月8日

生活者の購買行動が大きく変化している。プッシュ型広告で商品を売り込んでも、顧客はそれを無視するようになっている。従来のマーケティングはもう効かないのだ。表立って宣伝せず、見込み客に見つけてもらうための古くて新しいマーケティング手法、それがコンテンツマーケティングである。

この手法は、コカ・コーラやP&Gといったマーケティング先進企業だけでなく、中小・スタートアップ企業が積極的に導入している。では、コンテンツマーケティングとはどのような取り組みかなのか? どんな効果があり、費用はいくらか? 運用のコツは? 成功するポイントは? ――本書では、国内・海外企業の事例紹介を交え、コンテンツマーケティングの全貌を分かりやすく解説する。