日産自動車と三菱自動車が共同で、4人乗りEV(電気自動車)の軽自動車を開発、それぞれ「サクラ」(図1)、「eKクロスEV」(図2)と名付けた。そもそも軽EVは、これまでも、あったようでなかった。実はEVは補助金の対象となる製品であるため、軽EVはサイズだけで定義されており、全長3.4m以下、幅1.48m以下、高さ2m以下と定められている。軽EVではガソリン車で見られる排気量660cc以下のクルマという軽自動車の技術的な定義はない。

  • 日産自動車の軽EV「サクラ」

    図1 日産自動車の軽EV「サクラ」

  • 三菱自動車の軽EV「eKクロスEV」

    図2 三菱自動車の軽EV「eKクロスEV」

軽自動車のメリットは何と言っても低価格であること。EVはまだ価格が高いが、幸い補助金制度がある。例えば日産のサクラの正式価格は消費税込みで233万円からだが、軽EVは令和3年度補正・令和4年度当初予算から45万円の政府補助金が出るため、178万円からとなる。軽自動車としてはガソリン車に近い価格に収まる。

またEV車のメリットはガソリン車と比べると、EV車のモーターは始動時のトルクが大きい。今回の軽EVでは195Nm(ニュートン・メートル)と、軽ガソリン車の約2倍もあるため、加速が力強い(図3)。

  • トルクがガソリン車の2倍もあるため加速性能が優れている

    図3 トルクがガソリン車の2倍もあるため加速性能が優れている

問題となるEVの1回の充電で走れる航続距離は、180kmしかないが、日産によると自動車所有者の半数以上が1日当たりの走行距離は30km以下だという(図4)。軽自動車は市内や街中を走る利用シーンが多く、地方での利用者が極めて多い。

  • 1日当たり雄走行距離は30km以下が過半数

    図4 1日当たり雄走行距離は30km以下が過半数

価格は航続距離とのトレードオフだが、バッテリ容量は20kWhで、床一面にセルを敷き詰める方式のバッテリパックを用いた(図5)。こうすると低重心車台プラットフォームで高剛性のボディができる。少しでもバッテリを長持ちさせるため、劣化を防ぐためにエアコンの冷媒を用いた冷却システムでバッテリパックを冷やしている。冷却システムを用いたのは、これまでのバッテリシステムの劣化経験から、劣化を防ぐために導入したという。

  • 床一面にバッテリを敷き詰める方式を採用

    図5 床一面にバッテリを敷き詰める方式を採用

これまで日産はリーフを長年出荷してきて、累計で60万台になり、セルは1台当たり192個~288個を搭載していることから1億個以上のセルを充放電してきたという実績がある。同社が使っている正極にNiMnCo系材料を使うバッテリセルでは2022年5月時点で重大事故ゼロだと、自信を持っている。

プロパイロット搭載

軽自動車なのに、テクノロジーとしては、ADAS(先進ドライバー支援システム)システムである「プロパイロット緊急停止支援システム」と、「プロパイロット パーキング」という、これまでの軽自動車にはない機能を搭載した(図6)。

これまで「デイズ」にもプロパイロットは搭載していたが、上記の2つの機能は今回のサクラが初めてである。「プロパイロット緊急停止支援システム」は、ドライバーが突然失神するような異常を検知すると自動的にブレーキがかかる機能である。また、「プロパイロット パーキング」は、ボタン1つでハンドル操作せずに自動的に駐車する機能である。

  • プロパイロットの運転支援システムを充実させた

    図6 プロパイロットの運転支援システムを充実させた

ADASのプロパイロット機能を実現するためのカメラと、レーダー、そしてコーナー部分に超音波のソナーが設けられている。図1のナンバープレートの下に見える2つの丸い部分がレーダーの送受信機であり、前方隅の黒い細長い三角形部分に目立つことなく埋め込まれた黒い丸の部分がソナーである。

バッテリの劣化を心配するユーザーもいることから、これまで通りの販売に加え、サブスクリプションモデルも導入して支払いやすくするビジネスも展開するという。今夏の発売を予定している。