ロシアのウクライナ侵攻により、現在、ロシアにある外資系各社の自動車工場の閉鎖・停止が相次いでいるほか、車両の輸入も停止するなどといった動きが出ているとの調査結果を市場調査会社の台湾TrendForceが公表した。

外資系企業が恒久的に事業を停止するか市場から撤退することを選択した場合、ロシア政府は事業資産を国有化すると発表しているが、ほとんどの主要ブランドの自動車メーカーがロシアに生産工場を有しており、国際世論と企業損失という二重の圧力に直面しているとTrendForceは分析している。

同社の調査によると、ルノー・日産がロシアのブランドLADAを買収した後、その市場シェアは32%と、同国最大の自動車ブランドとなっており、次いでヒュンダイ・キアが23%、フォルクスワーゲンが12%、トヨタ自動車が7%となっている。

また、ルノー・日産はロシア最大の自動車メーカーであるAvtoVAZの筆頭株主であり、AvtoVAZが生産を停止もしくは国有化されれば、ルノー・日産の業績に影響を与える可能性がある。もし、生産を継続できたとしても、ルーブルの価値低下により部品の輸入コストが上昇する問題に直面することになるとしているほか、欧州、米国とその同盟国である日本、韓国、および台湾はロシアへの車載半導体の輸出を停止するなどの措置を講じており、輸入そのものができないという問題も出ているともしている。

  • 2021年のロシアにおける自動車市場のブランド別シェア

    2021年のロシアにおける自動車市場のブランド別シェア (出所:TrendForce)

自動車産業の回復を妨げる3つの問題

TrendForceでは、自動車産業の長大なサプライチェーンと部品点数は地政学的リスクを受けやすい構造だと指摘している。ロシアのウクライナ侵攻は、短期的にはロシアと世界中の自動車メーカーの資産、サプライチェーン、売上高、収益に影響を与えることになるほか、長期的には、事業計画や競争力そのものにも影響を与えるとしている。また、広義には、今回の動きは、新型コロナのパンデミックおよび半導体不足から回復するための自動車メーカーの計画を狂わせる結果を招いているとしている。

なお、TrendForceでは、自動車産業の回復を妨げる3つの大きな要因があるとしている。1つ目は、ウクライナでの自動車部品の生産停止。これにより例えばフォルクスワーゲンは、ウクライナからのワイヤーハーネスの供給不足が生じており、欧州でのキャパシティ拡大や、完成車の生産を北米や中国に移行させていることを明らかにしている。2つ目は、ロシアが自動車製造に必要なニッケルやパラジウムなどの材料産出国であること。供給に制約がかかることで、コストが上昇するため、一部の自動車メーカーでは完成車の価格を引き上げ始めているという。3つ目がインフレ圧力の急激な上昇。その結果、消費者は生活費の上昇に悩まされ、購買力の低下を招くことになるとしている。