従来の液晶(TFT-LCD)業界が成熟するにつれ、台湾と韓国のFPD(フラットパネルディスプレイ)メーカーの多くが戦略的に市場から撤退し、替わって中国企業が存在感を示すようになった。しかし、FPDを取り巻く競争環境は、新たなフロンティアであるAMOLED(アクティブマトリックス型有機EL)パネルへと移行しているとTrendForceが指摘している。

本稿では前後編に分けて、TrendForceが調査したAMOLED市場を取り巻く状況に関するレポートの内容を取り上げてみたい

自発光デバイスである有機ELは現在、バックライトモジュールが不要なため、薄型でフレキシブル化が可能な点を含めプレミアムディスプレイのスタンダードとなっている。そして現在、AppleのAMOLEDへの完全移行を機に中国メーカーと韓国メーカーの間での第8.6世代(G8.6)ガラス基板ベースのAMOLEDディスプレイをめぐる競争が加速する状況となっている。

SamsungやLG Displayなどの韓国FPD企業は、ウェアラブルからハイエンドテレビに至るまで、さまざまなアプリケーションに対して先行者利益を活かしてシェアを握ってきた。一方の中国メーカー各社は過去8年間、中国内のスマートフォン(スマホ)ブランドの台頭に併せる形で第6世代(G6)ベースの生産能力拡大を図ってきており、技術が成熟していくにつれ、中国勢と韓国勢の開発力の差は縮まってきて、徐々に競争領域がより先進的なG8.6へと広がりつつある。

OLED市場は韓国と中国の2極化へ

また、調査レポートでは技術力強化を推進する韓国勢や中国勢に対し、台湾および日本のFPDメーカーが中小型AMOLED市場で勢いを失いつつあると指摘している。背景には、開発がより大型の基板や次世代技術への対応へと進むにつれ、開発費用が増大しており、それが参入衝撃となっていることが挙げられる。そうした動きの結果、今後は韓国と中国という2つの巨大勢力による独占状態となり、2極化が進むことが予想されるという。

  • 世界のFPDメーカー各社のディスプレイ技術ロードマップと生産能力の状況

    世界のFPDメーカー各社のディスプレイ技術ロードマップと生産能力の状況(FMMはファインメタルマスク方式、FMM freeはマスクではなくインクジェットやフォトリソを用いる方式、e-LEAP=マスクレス蒸着とフォトリソを組み合わせたJDI独自方式、ViP=Visionoxが開発したフォトリソによるマスクレス方式、MAX=各ピクセルを個別にマスクレスで蒸着・封止するAMAT独自方式、QD OLED=量子ドット有機EL、W-OLED=白色有機EL) (出所:TrendForce)

Appleの採用によりAMOLED普及が一気に加速

2010年ごろにSamsungがスマホにAMOLEDパネルを採用し、市場として認知されるようになったが、本格的な成長期に突入したのは2017年にAppleがiPhone Xに採用したタイミングと言える。Appleが採用したことを受けて、多くのスマホブランドも追随。数年で一気に普及率が上昇し、2025年には採用率は60%を超えて、スマホの主流パネル技術となった。

このようなAppleの動向はサプライチェーンの観点からも注目される。2024年に同社はiPad ProシリーズにAMOLEDを採用。ディスプレイ業界から注目を集めることとなった。Appleでは少なくとも今後数年間はAMOLEDの採用を継続し、今後2~3年以内にiPad MiniやiPad Airでも採用を進めていくことで従来の液晶製品を段階的に廃止していく方向に向かうことが予想される。

すでに同社はiPhoneシリーズをすべてAMOLEDへと置き換え済みで、次のマイルストーンは2026年中の登場が噂されている折りたたみ式iPhoneへの搭載と見られている。Appleとしての初の折りたたみ製品は、式市場への初進出となる今回の発売は、この分野に大きな新たな成長の勢いをもたらすと期待されている。

  • TrendForceが予測するAppleのiPadシリーズならびに折り畳み製品向けOLED採用ロードマップ

    TrendForceが予測するAppleのiPadシリーズならびに折り畳み製品向けOLED採用ロードマップ (出所:TrendForce)

MacBookについても、2026年に初のAMOLED採用モデルが登場すると噂されている。こちらはProもしくはより上位に位置づけられるとされるUltraという名称のシリーズとなるという話が出ているが、その一方で生産能力の配分およびAMOLED搭載シリーズの販売がどの程度となるのかが見通せないことから、MacBook AirへのAMOLED採用は当初は2027年と見られていたスケジュールから、2028年もしくは2029年まで延期される見込みであり、TrendForceでは2030年ごろまでにMacBookシリーズ全体としてLCDからAMOLEDへと仕様変更をする可能性が高いと見ている。

  • TrendForceが予測するAppleのMacBookシリーズ向けOLED採用ロードマップ

    TrendForceが予測するAppleのMacBookシリーズ向けOLED採用ロードマップ (出所:TrendForce)

現状、MacBook ProはiPad Proよりも大きい16.2インチと14.2インチのディスプレイサイズで提供されている。そのため、Appleでは生産効率と生産能力の最適化を図るため、MacBook向けAMOLEDパネルをG8.6ラインで製造することを検討している模様である。この水面下での動きが、次世代AMOLEDへの投資の急増を引き起こしているとTrendForceでは指摘している。このAppleからの大口受注獲得に向けて韓国および中国の大手パネルメーカーが生産能力と新規技術の導入に積極的な姿勢を見せているためだという。

リードする韓国勢、追随する中国勢

現在の大型基板ベースのAMOLED投資の動向としては、Samsung Display(SDC)が2023年にG8.6によるAMOLED生産ラインの構築に4兆ウォンを投資することを発表し、早ければ2026年第2四半期からの量産開始を予定していることが挙げられる。現時点でAppleのMacBook Proシリーズに向けたAMOLEDパネルの唯一のサプライヤとしての戦略的優位性を確保した存在と言える。

一方の中国勢としても、パネル大手のBOEが2023年末にSDCをキャッチアップするべく、独自のG8.6 AMOLEDに対する投資計画を発表。2026年後半からの量産開始を予定しており、韓国勢との技術面および供給面でのギャップを埋めることを目指している。

  • SDCとBOEのG8.6 AMOLED生産に対する投資タイムライン

    SDCとBOEのG8.6 AMOLED生産に対する投資タイムライン (出所:TrendForce)

さらに中国勢としては2024年第2四半期に、VisionoxがG8.6 AMOLED生産ライン構築への投資を発表。FMM(ファインメタルマスク)によるAMOLED技術に注力するSDCやBOEとは異なり、VisionoxはAMATと共同開発したViP(Visionox intelligent Pixelization)技術を活用し、FMMではなくフォトリソグラフィによるAMOLEDパネル生産を計画している。このラインは早ければ2027年前半にも量産が開始される見込みである。

さらに2025年第4四半期にTCLグループのディスプレイメーカー「CSOT」がインクジェット印刷方式OLED(IJP OLED)技術をベースとしたG8.6 AMOLED生産ラインの構築を目指す「T8プロジェクト」を発表。2027年後半からの量産開始を予定している。

このほか、HKCもAMOLEDの展開を加速させるべく、破産したRoyoleからの第5.5世代AMOLED生産ラインを買収したほか、ジャパンディスプレイ(JDI)から得た中古装置の活用と技術支援を踏まえたJDIのeLEAP技術の活用に向けた検討も進められており、将来的には中国における新たなAMOLED生産ラインへの投資も検討する可能性があるという。

TrendForceでは、こうした中国パネルメーカー各社の動きは、次世代ディスプレイ市場でのシェアを拡大するべく、技術競争で他社を上回ろうという動きを加速させていることを示すものだとしている。

  • CSOT、Visionox、HKCそれぞれのG8.6 AMOLED生産に向けた投資タイムライン

    CSOT、Visionox、HKCそれぞれのG8.6 AMOLED生産に向けた投資タイムライン (出所:TrendForce)