ノーベル賞受賞者が語るGaNを用いた次世代ディスプレイ

フォーラムの最後には、2014年にノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学 未来材料・システム研究所所未来エレクロト二クス集積研究センター長の天野浩 教授が「世界を照らすLED」と題した講演を行ない、産官学のGaN研究組織である「GaN研究コンソーシアム」や研究中の「GaNナノロッドLEDディスプレイ」について紹介した。

  • 講演中の天野浩 教授

    講演中の天野浩 教授

天野氏は、まず、照明用青色LEDについて、「LEDに黄色蛍光体を加えることで白色LEDが実用化し、LEDが一般照明に使えようになり、社会を大きく変えた。LEDには大きな省エネ効果があり電力消費削減に貢献している。モンゴルの遊牧民もLED照明が使えるようになり、安心して遊牧できるようになった。世界の辺境でも太陽光発電を用いた低消費電力の照明が可能になった。まさに世界を照らす省エネ効果の高い新たな光となっている」と青色LEDがもたらした世界の変革を説明。さらに、「深紫外線LEDを用いて水の中の大腸菌を殺菌することで、安全な水を使えなかった世界中の多くの人々にも恩恵をもたらせるようになってきている。GaN基板を用いて、LEDなどの光デバイスだけではなく、無線通信用の高周波デバイス、電力制御用のパワーデバイス、医療や化学分析用の紫外線発光デバイスなどへの広範囲の応用を目指している。GaNを用いれば、従来のシリコンに比べ大幅な省エネルギーが実現できるようになる」とGaNの秘める可能性を述べた。

また、天野教授は、GaNの可能性を探るための産官学共同の研究機関である「GaN研究コンソーシアム」について「GaNの新たな研究展開と実用化を通して、世界をリードする省エネルギーイノベーションの創出を目的に、2015年に設立された。2018年7月24日には、名古屋大学キャンパス内に、『エネルギー変換エレクトロニクス実験施設』(施設長=須田淳 名大教授)が完成し、GaNの結晶成長・評価、デバイス製作プロセス研究からデバイス試作・評価を一貫して手がける体制が整った」と述べた。

GaNコンソーシアムには、47の企業、20の大学に加えて、3つの国立研究開発法人(産業総合研究所、宇宙航空研究開発機構、物質・材料研究機構)が参画しオールジャパン体制でディスプレイの基礎から応用まで、川上産業から川下産業までをカバーする体制が構築されている。同コンソーシアムの目的は、GaNデバイスによる省エネルギー社会の実現を目指し、GaNを中心的な材料として、世界をリードする省エネルギーイノベーションの創出を目指すというもので、「かつて大学は企業にシーズを提供する場に過ぎず、大学(基礎研究)と企業(実用化)の間にはいわゆるデスバレー(死の谷)が存在していた。このコンソーシアムがデスバレーの橋渡し役を務め、大学からイノベーションを興すようにしたい」(同氏)とコンソーシアムへの期待を述べた。

GaNのディスプレイへの応用については、現在研究を進めているGaNナノロッドLEDディスプレイの紹介が行なわれた。ナノロッドとは、ナノワイヤが線状の構造なのに対して微細な棒状の構造を指す。基板上に多数のGaNナノロッドを半導体ナノインプリント・リソグラフィ技術や先端のエピタキシャル成長技術を駆使して形成してマイクロLEDディスプレイの実用化を目指すという。

現在、普及している液晶ディスプレイや有機ELディスプレイは、消費電力が大きく、高効率が求められる次世代ディスプレイとしては自発光する微小な3原色のLEDを3次元に配列したマイクロLEDディスプレイが注目されている。LEDのチップサイズが小さくなるにつれて、外部量子効率(EQE:External Quantum Efficiency)はLEDチップ側壁からの発光がなくなってくるので小さくなってしまう。そこで、天野教授らは、サイズが小さくても発光効率の高いGaNナノロッドLEDディスプレイの開発に取り組んでいる。チップの活性層がp-GaNで覆われたコアシェル型ナノロッドの製作にはPM-MOVPE(Pulsed Mode Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)とナノインプリントを併用している。

マイクロLEDディスプレイ実用化の課題は、ピック・アンド・プレースによる微小なLEDを3次元に配列する実装技術とチップサイズの微小化に伴う発光効率の減少をいかに防止するかだといわれている。天野教授らが研究しているコアシェル型GaNナノロッドは、これらの課題を解決できる有力技術としてその実用化(カラー・マイクロLEDディスプレイ)が期待されている。