有機ELの失速でマイナス成長となる中小型FPD市場

IHS Markitディスプレイ部門シニアディレクターである早瀬宏氏は、中小型FPD市場の現状と2018年後半の動向について以下のようなことを述べていた。(図3)。

  • 図3 講演をする中小型ディスプレイ担当の早瀬宏氏

    図3 講演をする中小型ディスプレイ担当の早瀬宏氏

  • Apple iPhoneの10周年モデルとしてスマートフォンの世代交代を担ったiPhone Xは、スマートフォンのプレミアム市場でフレキシブル有機ELの新たな需要を切り開くものと期待されていた。しかし、セット価格で10万円を超える高価格となったため販売数量は期待ほど伸びず、結果としてiPhone X向け有機ELの出荷数は2017年第4四半期のみ突出し、ディスプレイ市場に過剰な負荷をかける状況となった。
  • 一方、SamsungのGalaxy S8やiPhone Xが口火を切ったアスペクト比「18:9」を超える「フルスクリーン」パネルは、スマートフォン市場の新たなトレンドとして普及の動きを見せており、低価格で高精細パネルの生産に適したLTPSの需要を大きく押し上げる動きを見せている。
  • 反面、既存の「16:9」パネルの在庫消化のためのにa-Si TFT LCDの生産は減速、これらの動きを積み上げた2018年の携帯電話用FPD出荷は前年を下回る見通しとなっている。
  • ただし、自動車1台当たりの搭載枚数を増やす車載モニターや、新たな需要を切り開いたスマートウオッチ、VR用のNear Eyeパネルなどが出荷を伸ばしている事から中小型FPD市場の出荷数量はほぼ昨年並みの水準を確保する見通しとなっている。
  • とはいえ、高い需要の伸びが期待された有機ELの失速は、中小型FPD市場の金額的な伸びにブレーキをかける結果となり、2018年の中小型FPD市場の出荷金額はマイナス成長となる見通しとなっている。

なお、2017年の携帯電話用有機ELは、Samsungが96.9%のシェアを握っており寡占状態となっている。一方のLTPSはジャパンディスプレイ(JDI)が25.6%でシェアトップ、次いで中国Tianmaが16.8%で2位、以下、LG Display、シャープ、BOEと続く。また、a-Siは、BOEがシェア28.2%でトップであり、中国メーカーによる寡占化が進んでいる。

また、早瀬氏は、中小型FPD市場の長期的展望について次のように述べている。

  • 中小型FPD市場の中核となる携帯電話用FPD市場は、4G(LTE)に対応した高性能スマートフォンが世界規模で普及した事で、買い換え需要の伸びが頭打ちとなり、引き続きの成長を期待していた携帯電話のセット需要は下方修正する結果となっている。これにより、携帯電話用FPDの出荷予測も下方修正、中小型FPD市場全体の出荷予測も下振れする見直しとなっている。iPhone Xが期待通りの需要を喚起できなかった事で、有機ELの予測も下方修正する結果となっている。
  • 中小型FPD市場の今後の成長要因と期待される車載モニター市場は、センターディスプレイのマルチ化などの搭載枚数増加要因により今後も継続した成長が見込まれ、2022年には年間2億枚を超えるものと予想される。加えて電子ミラーの採用が上振れ要因となる可能性もあり、車載モニター市場は中小型FPD市場期待の次世代アプリケーションとして、注目を集める市場となるだろう。
  • 2018年後半に登場する見込みのiPhone 2018年モデルの反響によっては、有機ELの需要が改めて変動する可能性もある。一方、LTPSとのシェアの奪い合いの様相が強まってしまったため、携帯電話用FPD市場ではLTPSを置き換えるだけの価値に留まる状況となった。その点で、有機ELの参入では後発となった日本のディスプレイ産業は、スマートフォン以外の需要を創出し、今後の成長要因とすべき必要性が一段と高まったといえる。

ドライバICがひっ迫している部材市場

IHS Markitディスプレイ部門シニアディレクターの宇野匡氏は、ディスプレイ業界で大問題となっているドライバICのひっ迫について以下のように述べていた。

  • 半導体業界では、大型パネル用ドライバICを主に生産している200mmウェハの製造ラインに対する投資が行われておらず、投資は300mmウェハに集中しているため、200mmウェハの不足は当面継続すると予測される。ドライバICの製造を300mmウェハで製造することは技術的に可能だが、チップ価格が安いため、ファウンドリは積極的ではない。結果として、ドライバICの数が不足し、価格が上昇する結果となっている。
  • スマートフォン用のドライバICに限っては300mmウェハで生産されている。300mmウェハの需要も現在ひっ迫気味だが、継続した設備投資が行なわれており、2018年内にもひっ迫した状況は緩和されると予測される。
  • 大型パネル用ドライバICは90~110nmプロセスで製造され、スマートフォン用ドライバICは40~80nmプロセスで製造されているが、設備投資の主な対象プロセスは32nm以下であり、プロセスルールの面からみてもドライバICに対する生産能力は限定された状態となっている。
  • 半導体の生産能力のみならず、シリコンウェハ自体も不足している。さらに検査装置なども不足しており、現状のドライバICの供給状況は厳しいと言わざるを得ない。
  • 2017年にUMCがドライバIC向け生産能力を削減。2018年もさらに削減すると言われている。安価で利幅の小さなドライバICをやめて電源管理ICなど単価の高いデバイスへ移行したためである。台湾ファウンドリの生産能力に余力はまったくない状態であり、ファブレスのドライバICサプライヤは日本や韓国のファウンドリメーカーを訪問し、生産能力の確保しようとしている。たとえばSamsungのファウンドリはまだ200mmウェハの生産能力に余力があると言われている。
  • ファブレスドライバIC大手の台湾Novatekは、2018年第1四半期にドライバIC販売価格を10%ほどの値上げに成功している。中国ファウンドリでドライバICの量産候補となっているのはNexchipとSMICで、Nexchipは政府の出資比率が高く、BOEと良好な関係があると言われている。昨年来、NexchipとBOEと台湾ファブレスの間で、ドライバICの量産を開始すべく認定の作業が進められてきており、量産開始目前といわれている。Nexchipでの量産が始まればBOEはドライバICのひっ迫から解放されるだろう。SMICもドライバICの生産に興味を示しているが、具体的なスケジュールは聞こえてきておらず、結果としてドライバICのひっ迫は当面継続すると予測される。

(次回は8月29日に掲載します)