ガートナージャパン(Gartner)は11月4日、2027年に企業や組織にとって重要なインパクトを持つ「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」を発表した。大規模定量モデル(LQM)、音声推論モデル、ワールド・モデル、AIコンテキストプラットフォーム、AIエージェントのアイデンティティなど10項目を挙げている。

今回のトレンドについてAIを取り巻く深刻な摩擦は「アーキテクチャの統制が欠如した状態でAIシステムが稼働している点」にあると指摘。組織はモデルの能力を観察する立場から、組織、人間、マシンの境界を能動的に設計する立場へ転換する必要があるとしている。

AIモデルは数値や音声、物理世界へ

1つ目のLQMは定量データの処理・分析向けに設計されたモジュール型のハイブリッドニューラルネットワークアーキテクチャ。汎用言語モデルによる数値計算では精度やコンプライアンスにリスクが生じる可能性があるのに対し、LQMでは意思決定を事後対応型のトラブルシューティングから、先を見越したシミュレーションへ移行できるという。

2つ目の音声推論モデルは、音声をテキスト化することなく直接推論し、会話全体のコンテキストや意図を追跡しながら次のアクションを判断するAIシステム。複雑で高度な判断を伴う会話の自動化などへの活用が期待される。

3つ目のワールド・モデルは、マシンが空間、時間、因果関係を理解するための技術。自律エージェントが実行前に将来の状態をシミュレーションし、自らの行動がもたらす影響を理解できるようになる。ロボティクスや自律走行車、空間コンピューティングへの投資拡大が進化を後押ししているという。

AIエージェントを支える基盤とガバナンス

4つ目のAIコンテキストプラットフォームはエージェント型AIに対し、入力の解釈や意思決定、ビジネス目標に沿った行動に必要なコンテキスト知識を提供するもの。Gartnerは2027年までに、AI-Readyデータでセマンティクスを優先する組織は、エージェント型AIの精度を最大80%高め、コストを最大60%削減すると予測する。

5つ目のエージェント・コーディング・ハーネスは、ソフトウェア開発ライフサイクル全体で自律型開発エージェントの振る舞いを統制するクローズド・ループ型の制御システム。AIが生成した成果物の検証を人手に依存することで、AIによる生産性向上が相殺される問題を防ぐ狙いがある。

6つ目のAIエージェントのアイデンティティは、自律的にタスクを実行するAIエージェントのIDとアクセス権を管理する考え方だ。誰から権限を委任され、何を目的として、どこまで実行できるかを制御する。Gartnerは2028年までに、企業のセキュリティ侵害の25%が、管理されていないマシン権限やレガシーな認証情報に起因するAIエージェントの不正利用によるものになると予測している。

セキュリティからソブリンテック、WaaSまで

7つ目の自律型エクスポージャ修復(Autonomous Exposure Remediation:AER)は、AIと自動化を組み合わせて、企業のデジタル資産に存在するセキュリティ脆弱性の発見、優先順位付け、修復を行う機能群。パッチや仮想パッチのテストから本番環境への適用までを自動化する。

8つ目のソブリンテックは、主要プロバイダーへの依存から離脱できるよう、技術面と法的側面から設計されたハードウェアやソフトウェア、データベース、AIモデルを指す。Gartnerは2030年までに、米国以外の組織の75%以上がデジタル主権戦略を採用し、地政学的リスクやベンダーロックインを軽減するため重要なワークロードを移行すると予測する。

9つ目の使い捨てアプリケーションは、特定のビジネス目的を達成した場合や、その目的が意味を失った場合に廃止することを前提として設計する専用アプリケーション。同社は、こうした考え方がソフトウェアの調達、設計、予算策定を変え、アプリケーション群を長期的なレガシー投資から動的なシステムへ転換するとみている。

最後のサービスとしてのウェットウェア(Wetware as a Service:WaaS)は、生体システムや合成生物学的システムへクラウド経由でアクセスし、コンピューティングに利用する新たな運用モデル。ホスト型の有機プロセッサにより、生化学ネットワークの性質を生かして複雑なアルゴリズムを高いエネルギー効率で実行するという。AIの利用拡大に伴うコンピューティングの環境負荷やエネルギー需要への対応策として挙げられている。