生成AIを導入しても、現場で使われない。活用が進んでも、個人の作業効率化にとどまり、組織としての成果が見えない。こうした課題に企業はどう向き合えばよいのか。

Google Cloudが10月29~30日に開催した「Agentic AI Summit’26 Fall」では、NTTデータ テクノロジービジネス事業本部 テクノロジーコンサルティング事業部 リードコンサルタントの曾根康和氏が登壇。Google WorkspaceやGemini Enterpriseの導入を業務変革につなげるという視点から、成果創出を妨げる「3つの壁」について解説するとともに、金融業界での定着支援とエネルギー業界でのAIエージェントの検証事例を紹介した。

個人の効率化にとどまらず、組織全体の業務を変える

「ツールの導入は、あくまでも変革のスタート地点です。導入した後に、いかに使っていただくか。そして、いかに業務を変えて企業としての成果につなげていくかが重要だと考えています」

  • 曾根康和氏

    NTTデータ テクノロジービジネス事業本部 テクノロジーコンサルティング事業部 リードコンサルタント 曾根康和氏

曾根氏は講演の冒頭、生成AI導入に対する考え方をこう説明した。これまでは、業務ツールを安全に使える環境を整え、安定して運用することが導入の一つのゴールだった。しかし、生成AIが業務に組み込まれるようになった今、そのゴールは変わったと同氏は指摘する。

NTTデータでは、人とAIエージェントの協働を通じて業務や組織、働き方を変えることを「Agentic Workplace Transformation(AWT)」と呼んでいる。AWTがもたらす変化として、曾根氏は大きく2つを挙げた。1つは、資料やメール、議事録の作成、調査といった個人の作業の効率化。もう1つは、複数部門に分かれた情報をAIエージェントが利用し、組織全体の業務プロセスを変えることだ。

例えば、営業担当者が提案資料を作るとき、過去の案件情報を探したり、必要な情報を他部署に問い合わせたりすることがある。そうした情報をAIエージェントが横断的に利用できれば、情報収集から提案の骨子作成までを担える。営業担当者はエージェントが把握していない情報を補い、提案を磨き込むことに集中できるわけだ。

日本企業の成果創出を阻む「3つの壁」

では、人とAIエージェントの協働によって業務プロセスを変えるAWTを実現する上で、企業はどのような課題に直面するのか。曾根氏が顧客支援を通じて見いだしたのは、「リテラシー」「業務適用」「推進力」の3つの壁である。

  • 3つの壁

    生成AIの導入を成果につなげる上で障害となる3つの壁

リテラシーの壁とは、ツールがあっても社員が何に使えるのか分からず、利用が一部の人や用途に限られる状態を指す。業務適用の壁としては、情報が複数のシステムや部門に分散し、AIエージェントが必要な情報を集めにくいという問題がある。そもそもAIの利用を前提に業務が設計されておらず、一部の作業だけに適用しても全体の改善につながらない場合もある。

推進力の壁では、部署ごとの取り組みが乱立し、全体像を把握できない状況が生じる。個別最適にとどまったり、投資対効果を示せず意思決定が遅れたりすることも課題となる。

「これらの3つの壁は、単にツールの機能不足という話ではありません。組織や業務、人材、データ、ガバナンスといった企業の構造そのものに根ざしています。ツールを導入するだけでなく、組織を変えていくことがAWTの本質ではないかと考えています」

金融企業で月間アクティブユーザー率約90%を達成

講演で紹介された金融業界のある企業では、生成AIを導入したものの十分に使われず、業務時間の削減目標を達成するために、どの業務で生成AIを活用すべきかが明確になっていなかった。活用推進を担う組織にも、専門知識や人員などの面で制約があったという。

NTTデータはこの企業に対し、生成AIの活用を推進するCoE(Center of Excellence)の活動支援、社員向けのハンズオン研修、業務に即したユースケースの創出を組み合わせて提供した。単に研修を開くのではなく、顧客企業が組織として取り組みを続けられるようにすることが狙いだった。

「CoE活動支援では、利用状況を可視化するためのKPIを設計し、活動の進捗や課題を把握できる仕組みを整えています。また、社内講師の育成にも取り組んでいます。我々が講師として情報を提供するだけでなく、お客様自身で研修を実施し、生成AIの活用を広げられる体制づくりを支援しています」

研修では基本操作に加え、機能別や職種別の内容も用意した。活用が進んでいない部門では、実際の業務に合った使用例を示し、社員が手を動かして試す機会を設けた。さらに、各部門の推進担当者とともに負荷の大きい業務を洗い出し、生成AIを適用できる仕事を検討した。アイデアを出すだけで終わらせず、実装に向けた設計・構築の段階まで支援した。

  • 金融業界での取り組みと成果

    CoE活動支援、ハンズオン研修、ユースケース創出支援を組み合わせた金融業界での取り組みと成果

曾根氏によると、2026年2月時点で、この企業の月間アクティブユーザー率は90%程度となり、一連の支援は、累計10万時間以上の業務時間削減にも貢献したという。

「まず対話型生成AIを導入し、社員一人一人が日常業務で使う習慣を身につけていただきました。ただ、ここがゴールではありません。次の段階では、利用環境やルールを整えるとともに、生成AI活用を前提とした業務フローの見直しやBPRを進めています」

見積もり支援エージェントで年間数千時間の削減を見込む

AIエージェントを試作できても、その後、実際の業務に組み込めるとは限らない。

「AIエージェントのPoCは動いたけれども、全社展開すると業務にうまく組み込めなかったり、期待した効果が出なかったりすることもあります。そのときに必要なのは、モデルの性能改善だけとは限りません。どの業務に適用するのか、人とAIの役割をどう分けるのか、何をKPIとして成果を測るのか。業務そのものの見直しが非常に重要です」

曾根氏が紹介したエネルギー業界のある企業では、年間で万単位の見積もり対応があり、担当者の負担が大きかった。AIエージェントによる効率化を検討していたが、どの範囲に適用するか、何をもって成功と判断するかが十分に定まっていなかったという。

NTTデータはまず顧客と対象業務を洗い出し、期待する成果について認識を合わせた。その上でFDE(Forward Deployed Engineer)サービスを通じ、見積もり業務を支援するAIエージェントをPoCとして作成した。FDEサービスは、顧客の現場で業務を理解し、エージェントの設計・実装から業務KPIによる成果の検証まで支援するものだ。

  • 見積もりAIエージェントのPoC

    エネルギー業界のある企業では、見積もりAIエージェントのPoCを実施。年間数千時間規模の業務時間削減を見込む

この事例では、現時点で年間数千時間規模の業務時間削減が見込まれているという。

「この事例のポイントは、最初から開発に飛びつくのではなく、業務を棚卸しして理解し、AIの適用先を見極めて、実際に検証するという一連のプロセスを、お客さまと一緒に進めたことです」

自社での実践を支援に生かし、成果から逆算する

NTTデータ自身も、2026年6月にGoogle WorkspaceやGemini Enterpriseを全社展開したことに加え、既存の業務システムやプラットフォームとの併用、業務に応じた使い分けを検証している。自社で使うことで、効果が出る業務や運用上の課題、解決のための工夫を把握するためだ。

「自分たちで使うからこそ、どの業務に効果があるのか、どこで運用上の課題が生まれるのか、どんな工夫で乗り越えられるのかを実感しています。成功も試行錯誤も含めた知見を、お客さまの導入や定着、業務変革に還元していく。これがClient Zeroの考え方です」

曾根氏は最後に、生成AIの導入前、導入後の定着、AIエージェントのPoCからの展開など、企業によって課題の段階が異なることを指摘。その上で、必要な支援を選ぶ際の考え方を次のように語り、講演を締めくくった。

「大切なのは、サービスを選ぶこと自体ではなく、実現したい成果、企業の目指す姿から逆算することだと考えています」