約7,300年前、九州南方の海底にある鬼界カルデラで発生した「鬼界アカホヤ巨大噴火」は、新生代第四紀完新世(約1万1,700年前~現在)における世界最大級の火山噴火の1つとされる。西日本を中心に大量の火山性噴出物(テフラ)が降り積もり、遠く東北地方南部まで届いたほどだった。当時、九州地方には縄文文化が花開いていたが、この巨大噴火によって壊滅的な被害を受けた可能性が推測されてきた。
日本の考古学では、この噴火によって九州地方の縄文文化が「崩壊・全滅」したのか、あるいは何らかの形で「存続」したのか長年にわたり議論が続いていた。また、一部地域への影響は検討されてきたものの、日本列島全域にわたる影響の実態は未解明のままだった。
金沢大学(金大)は、考古遺跡から得られた放射性炭素年代データを用いた新手法により、鬼界アカホヤ巨大噴火の前後における日本列島各地の人口動態がどのように変化したかを解明したと、10月20日に発表した。
九州南部では噴火前から人口減少傾向が見られ、噴火後にはその動きがさらに加速した。一方、九州北部では噴火前からの人口増加傾向が噴火後も続き、本州などの噴火地点から離れた地域でも人口増加の停滞や減少が確認された。
同成果は、英・ケンブリッジ大学 考古学部のエンリコ・R・クレーマ教授を中心として、日本からは金大 古代文明・文化資源学研究所の内山純蔵客員教授、九州大学 比較社会文化研究院の桒畑光博特別研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米総合学術誌「Science」系の旗艦オープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
縄文時代の巨大噴火による人口動態への影響を探る
研究チームは今回、「放射性炭素年代を用いた人口動態分析」により、日本列島を61の地域に細分化し、地域ごとのデータ量の違いや隣接地域同士の関係性を考慮した新しい統計モデルを用いて、巨大噴火が縄文時代の人々の暮らしや人口動態に及ぼした影響を列島規模で包括的に評価することにした。
なお、放射性炭素年代測定は、宇宙線によって大気上層で微量に生成される半減期約5,730年の炭素の放射性同位体「14C」を利用した年代測定法だ。生物は生存中は14Cを取り込むため、炭素の最も多い安定同位体である「12C」との割合は大気中とほぼ同等の比率に保たれる。
しかし、死後は取り込まなくなるため、14Cは徐々に窒素の安定同位体「14N」へと壊変していく。そのため、14Cと12Cの比率を測ることで、その生物の死後の経過期間を算出することが可能だ(約5万年前まで適用可能)。
この放射性炭素年代データを活用した人口動態分析とは、考古遺跡から得られた年代測定結果の時期的・地域的な分布を、過去の人間活動や人口変化を推定する手がかりとして利用する分析手法のことをいう。今回の研究では、地域ごとのデータ量や隣接地域との関係を考慮した統計モデルが用いられた。さらに、各地域に堆積した火山灰の厚さもモデルに組み込まれ、環境への影響と人口変動との関係が検討された。
今回の研究成果
分析の結果、九州南部では噴火以前から人口が減少傾向にあり、噴火後にその現象が加速した一方、九州北部では噴火以前からの人口増加傾向が噴火後も持続したことが判明した。また、本州などの噴火地点から遠方の地域でも、それまで増加していた人口が噴火後に停滞または減少する例が確認された。
さらに、日本列島全体では降灰の厚さと人口への影響との間に一定の関係が見られたものの、その影響は単純に噴火地点からの距離や降灰量だけでは説明できない複雑な地域差が存在することが明らかにされた。
これらの結果は、噴火被害を受けた縄文人が単に環境回復を待つだけではなく、他地域への移動、生業の転換、新たな社会関係の構築などを通じて、大きな環境変化に柔軟に順応しようとした可能性を示唆しているとした。
今回の研究は、巨大災害が人間社会に与える長期的影響を理解する上で重要な出発点となるという。研究チームは今後、今回の分析から示唆された九州北部への人口移動や、内陸から沿岸への移動、海産資源利用の変化といった具体的な適応行動について、考古学的資料を用いてさらに検証する方針だ。
また、現代の日本社会も地震、水害、土砂災害、異常気象などの自然災害と常に隣り合わせにある。過去の社会が激しい環境変動にどう対峙し、どのような復興の道を歩んだのかを長期的視点で紐解くことは、現代における防災・減災のあり方を考える上でも極めて重要としている。