この半導体ニュースのまとめ

・アナログ・デバイセズがGMSL、A2B、E2Bを組み合わせたSDV向け車載ネットワークを提案
・E2Bはセンサやアクチュエータ側のマイコンとソフトウェアを減らし、制御を中央へ集約
・A2B 2.0は従来比約4倍の帯域幅で車室内の音響高度化とSDVネットワークへの統合を支援

Analog Devices(アナログ・デバイセズ、ADI)は10月23日、自動車向けソリューションに関するメディア説明会を開催し、ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)やゾーン・アーキテクチャの普及を見据えた車載ネットワーク戦略を説明した。

説明を行ったアナログ・デバイセズ カスタマーソリューショングループ オートモーティブ シニアディレクターの沓掛真哉氏は、自動車の価値が個々の電子部品の性能だけで決まる時代から、センサ、通信、演算、電力、ソフトウェアを連携させ、車両全体で価値を生み出す時代へ移りつつあるとの見方を示した。

自動車は付加価値の向上として、単なる移動手段から、周囲の状況を捉えて判断し、販売後もソフトウェア更新によって機能を進化させるシステムへ変化している。一方、搭載機能の増加に伴い、ソフトウェアの分散、システム統合、検証の複雑化といった課題も拡大している。

ADIは、異なる種類のデータへ単一のネットワークを一律に適用するのではなく、映像・センサデータ、車室内音声、アクチュエータ制御など、それぞれの要件に適した通信技術を組み合わせることが重要として、それぞれに見合う技術を開発してきたことを強調する。

  • GMSL、E<sup>2</sup>B、A<sup>2</sup>Bを用途別に配置したアナログ・デバイセズの車載ネットワーク構成

    アナログ・デバイセズが提案する車載ネットワークの構成。ADASや自動運転などの認識系にGMSL、ゾーン制御にE2B、車室内の音声伝送にA2Bを用い、それぞれを車両全体で連携させる (提供:アナログ・デバイセズ)

高速映像伝送だけでは足りないGMSL

ADASや自動運転、ドライバーモニタリングなどの認識系では、カメラや各種センサが取得する大容量データを、中央の演算装置へ低遅延かつ確実に送る必要がある。

ADIの「GMSL(Gigabit Multimedia Serial Link)」は、高精細映像やセンサデータを伝送するSerDes技術で、映像に加えて音声、制御信号、電力などを1本のケーブルで扱うことができる。

配線を集約することで車両ハーネスを簡素化できるほか、カメラやセンサの増加に伴う車両重量やシステム設計の複雑化を抑えられる。

ただし、ADASや自動運転では、大量のデータを送れるだけでは十分とはいえない。カメラやセンサが正常に動いているか、データが正しく届いているか、問題が発生した場合にどの経路で異常が起きたかを把握する必要がある。

GMSLでは、通信リンクの継続的な監視、障害箇所の切り分け、原因解析を支援する診断機能を備え、認識系に求められる信頼性と機能安全への対応を図っている。

  • ADASや自動運転向け認識システムにおけるGMSLの役割

    GMSLはカメラやセンサから中央演算装置への広帯域・低遅延通信に加え、リンクの継続監視、障害箇所の切り分け、診断情報の可視化を提供する (提供:アナログ・デバイセズ)

ADIは2025年、デンソーやGlobalFoundriesなど21社と「OpenGMSL Association(OGA)」を設立した。GMSLをオープンな車載コネクティビティへ発展させ、半導体だけでなく、コネクタ、受動部品、計測器、試験・認証を含むエコシステムの構築を進めている。

GMSLを搭載したADIの製品は、OGA設立時点で25社以上の自動車メーカーと50社以上のティア1サプライヤへの採用実績を持つ。日本でもローデ・シュワルツやGranite River Labsとの連携を通じ、GMSLのコンプライアンステストや市場投入へ向けた支援環境を整えている。

E2Bでセンサやアクチュエータの制御を中央へ

SDVの普及に伴い、自動車の電子・電気(E/E)アーキテクチャは、機能ごとにECUを配置するドメイン型から、車両を前後左右などの領域に分けるゾーン型へ移行しつつある。

ゾーン・アーキテクチャでは、各ゾーンにあるセンサやアクチュエータをゾーンECUへ接続し、上位の高性能コンピューティング基盤でソフトウェアを集中的に実行する。

しかし、末端のセンサやアクチュエータごとにマイコン、通信用PHY、ソフトウェアを搭載すれば、ローカルノードの数に応じて部品、開発作業、検証対象も増加する。

ADIの「E2B」は、車載向け10Mbps Ethernet規格「10BASE-T1S」を基盤とし、センサやアクチュエータをイーサネットで中央側へ接続するソリューションとなる。

E2Bを使ったハードウェア専用エッジノードでは、従来ローカル側に置いていたマイコンやソフトウェアを減らし、制御機能を中央演算基盤へ集約できる。

  • ローカルマイコンを減らしてソフトウェアを中央へ集約するE2Bの構成

    E2Bによるゾーン・アーキテクチャの構成。従来の10BASE-T1Sセンサノードに必要だったローカルマイコンとソフトウェアを減らし、制御を中央演算基盤へ集約する (提供:アナログ・デバイセズ)

ローカル側のソフトウェアを中央へ移せば、制御プログラムを一元的に管理しやすくなるほか、OTAによる機能更新にもつなげやすい。

複数車種や世代間で共通設計を利用しやすくなることから、車両プラットフォームの再利用性向上や、開発・検証負担の軽減も期待できる。

一方、ゾーン・アーキテクチャへの移行では、ローカル側のECUやマイコンが減る可能性がある。沓掛氏は、従来型の車載ネットワークやローカルマイコンを中心とする半導体メーカーには事業機会の縮小要因となる一方、E2Bを展開するADIにとっては事業機会の拡大につながるとの見方を示した。

  • E2Bのデモ風景

    E2Bのデモの様子。テールライトとプロジェクターへの映像投影を同時に実行しても問題がないデータ転送を実現できていることを示していた。映像投影だけで9.5Mbpsほどだとしていたので、最大通信速度である10Mbpsギリギリのデータ転送を行っても問題ないということとなる

E2Bは2028年以降の車両で採用拡大に期待

E2Bは、GMSLやA2Bと比べると市場投入からの期間が短く、ゾーン・アーキテクチャの普及とともに立ち上がり始めた段階にあるとするが、すでにBMWの車室内アンビエントライティングにおいて、従来型インタフェースから10BASE-T1SベースのE2Bへ移行する形での採用が決まるなど、実際の車両での活用が徐々に進みつつあることを強調する。

実際、2028年や2030年ごろに登場する車両プラットフォームに向けて、欧州、北米、中国などの地域を中心に採用機会が拡大しているという。

ただし、すべての自動車メーカーが同じ速度でゾーン型へと移行しているわけではない点に注意が必要である。

既存のE/Eアーキテクチャやソフトウェア資産を多く持つメーカーは、それらを継承しながら段階的に移行する必要がある一方、新興の電気自動車(EV)メーカーは従来資産の制約が少なく、中央集約型やゾーン型のアーキテクチャに対するハードルが低いため積極的に採用しやすい。中国メーカーの一部は2027~2028年の車両プラットフォームへ新技術を適用する一方、日本の自動車メーカーでは2030年前後のモデルを対象に検討する例もあるという。

こうした事情もあり、ADIでは、特定の車両アーキテクチャを一律に押し付けるのではなく、各自動車メーカーの要件や既存資産を踏まえ、システムアーキテクトとエバンジェリストの両面から移行を支援するとしている。

A2B 2.0で車室内ネットワークをSDVへ統合

このほか、ADIが車室内の音声伝送向けに展開してきたのが「A2B(Automotive Audio Bus)」である。

A2Bは非シールドツイストペアケーブルを使い、音声、制御信号、電力を伝送する。ヘッドユニットとアンプ、アンプとスピーカー、マイクなどをデイジーチェーンで接続し、車載オーディオの配線を簡素化できるという特徴がある。

2026年に量産出荷を開始した第2世代の「A2B 2.0」では、従来世代の確定的な低遅延通信を維持しながら、利用可能な帯域幅を約4倍の最大98.3Mbpsへ拡大した。

最大119の送受信オーディオチャンネルに対応し、Open Alliance SPIを介したイーサネットデータのトンネリングも可能とした。これにより、車室内オーディオを独立したネットワークとして扱うだけでなく、車両全体のSDVアーキテクチャへ組み込みやすくしている。

  • 音声と制御信号および電力を伝送するA2B 2.0の概要

    A2B 2.0は音声、制御信号、電力を車室内で伝送し、帯域幅拡大とSDVネットワークへの統合により、ロードノイズキャンセリングや座席別の音響体験を支援する (出所:アナログ・デバイセズ)

A2Bは過去10年間に35社以上の自動車メーカーで採用され、数億台規模の車両へ搭載されてきた実績を有する技術。沓掛氏は、車載オーディオ信号のデジタル伝送では、A2Bが事実上の標準に近い位置付けになりつつあるとの認識を示した。

車室内の音を固定設定からリアルタイム制御へ

A2Bの帯域拡大と、同社の持つSHARC DSPや音声・音響処理ソフトウェア「ADI LISTN」を組み合わせることで、ADIは車室内の音響体験を固定的な設定から、走行環境や乗員に応じて変化するシステムへ進化させる考えだ。

その具体例が、ロードノイズキャンセリング、インテリジェント・デノイジング、パーソナルサウンドゾーンといった技術となる。

ロードノイズキャンセリングでは、車軸付近に設置した加速度センサと車室内のマイクで道路から伝わる振動や騒音を検出する。A2Bを介してデータをDSPへ送り、逆位相の音をスピーカーから出力することで、低周波のロードノイズを抑える。

EVではエンジン音がなくなることで、従来は目立ちにくかったロードノイズが相対的に聞こえやすくなる。ただし同技術はEV専用ではなく、内燃機関車でエンジン音や走行音を抑える用途にも利用できるとする。

インテリジェント・デノイジングでは、ロードノイズ、風切り音、音楽、乗員の会話などが混在する車室内で音声をリアルタイムに分離し、必要な人の声や音を聞き取りやすくする。

パーソナルサウンドゾーンは、すべての乗員へ同じ音を流すのではなく、座席ごとに異なる音声やコンテンツを届ける技術となる。

  • アナログ・デバイセズが提案する3つの適応型車室内音響技術

    A2B、SHARC DSP、ADI LISTNを組み合わせ、ロードノイズキャンセリング、インテリジェント・デノイジング、パーソナルサウンドゾーンという3つの車室内体験を実現する (提供:アナログ・デバイセズ)

車室内の状況をセンサで捉え、データを決められたタイミングで伝送し、DSPで処理し、音響アルゴリズムによって出力を変化させる。一連の信号チェーンをリアルタイムで連携させることで、乗員や走行環境に応じた音響体験を実現する。

  • A2Bのデモ風景

    A2Bのデモの様子。6つのノードを接続し、すべてデイジーチェーンで接続しつつ、それぞれに異なる処理を行わせている

GMSL、A2B、E2Bを車両全体で連携

GMSL、A2B、E2Bは、いずれも車載通信技術だが、対象とするデータや役割が異なる。

GMSLは、ADASや自動運転に用いるカメラ・センサデータを中央演算装置へ高速かつ低遅延で届ける。A2Bは、車室内の音声、制御信号、電力を確定的なタイミングで伝送する。E2Bは、車両各所のセンサやアクチュエータをイーサネット化し、制御ソフトウェアを中央へ集約する。

ADIの狙いは、それぞれの通信技術を単独で提供することではなく、用途ごとに適切なネットワークを使い分けながら、車両全体を1つの知能化されたシステムとして動作させることにある。

上位層では高速EthernetやPCI Expressなどが中央演算基盤を接続し、末端ではGMSL、A2B、E2Bが映像、音声、センサ、アクチュエータとの接続を担う。異なるデータフローを中央で統合することで、SDVに必要な機能追加やOTA更新、プラットフォームの共通化へつなげる。

車載セキュリティはISO 21434などへ対応

ネットワーク化とソフトウェアの中央集約が進めば、車載セキュリティの重要性も高まることから、同社では自動車サイバーセキュリティに関する国際標準規格である「ISO/SAE 21434」などを踏まえ、製品ごとに脅威と対策を検討しているとする。

通信技術や製品の世代によって対応内容は異なるものの、各製品がどの脅威へさらされる可能性があるかを評価し、必要なセキュリティ機能を設計へ反映するほか、A2Bなどで扱うオーディオコンテンツについても、既存の標準技術を活用して保護する考えを示している。

電池内部の状態把握にもシステム技術を展開

車載ネットワークのほか、同社が力を入れてきたのがバッテリマネジメントシステム(BMS)のソリューションである。

従来のバッテリー管理システムでは、電圧、電流、温度を主に監視してきたが、そこに電気化学インピーダンス分光法(EIS)を活用したバッテリー状態の把握を加えることで、セルやバッテリーパック内部で起きている電気化学的な変化を捉えることができるようになり、異常の兆候、熱の状態、劣化、充電状態、健全性をより詳しく推定できる可能性があるとする。

  • 電気化学インピーダンス分光法を活用したバッテリー状態把握の流れ

    EISで取得した電気化学データをアルゴリズムやバッテリーモデルと組み合わせ、診断、熱管理、性能制御、充電状態・健全性の推定につなげる (提供:アナログ・デバイセズ)

なお、同社では重要なのは単にデータ量を増やすことではなく、センサで得た情報を通信し、演算・モデル・ソフトウェアと組み合わせ、システムとして有用な判断へ変えることだと強調している。その実現のために、自動車メーカー、ティア1サプライヤ、部品メーカー、ソフトウェア企業、標準化団体などとの協業を通じ、個々の半導体を提供するだけでなく、システムレベルで課題を解決し、量産車への導入期間を短縮する役割を担うとしている。

車両の知能化が進むほど、扱うデータの種類と量は増え、ネットワークに求められる帯域幅、遅延、同期、診断、安全性も多様になっていく。そうした増え続けるデータの種類と量に対し、GMSL、A2B、E2Bを用途別に組み合わせるADIの戦略は、SDVを支える車載ネットワークを単一規格へ統一するのではなく、異なる通信技術を車両全体で連携させるアプローチだといえるだろう。