赤、ピンク、白、黄色、紫など、多彩な色彩を誇るサクラソウ科シクラメン属の「シクラメン」は人気の高い観賞植物として知られる。しかし、シクラメンは品種によってはゲノムが大きく複雑であるため、これまで育種や研究の基準となる高精度な「参照ゲノム」の整備が遅れていることが課題となっていた。
こうした課題に対し、かずさDNA研究所、埼玉工業大学、九州大学、香川大学の4者は、シクラメンの高精度な全ゲノム解読を行い、4万個以上の遺伝子を特定したと10月13日に共同発表した。
同成果は、かずさDNA研究所 先端研究開発部 植物ゲノム生物学研究室の白澤健太室長、埼工大 工学部 生命環境化学科の秋田祐介教授、九大大学院 農学研究院の水ノ江雄輝助教、香川大 農学部の髙村武二郎教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、かずさDNA研究所が刊行する、DNAやゲノム科学を扱う英文オープンアクセスジャーナル「DNA Research」に掲載された。
シクラメンが咲く仕組みや進化の謎を解くカギ
ヒトは、両親から受け継いだ23種類の染色体を2本ずつ持つ二倍体生物である(男性のみ性染色体はXYなので染色体は24種類)。
シクラメン(学名:Cyclamen persicum、和名:カガリビバナ)には、ヒトと同じ二倍体の品種と、同じ種類の染色体を4本ずつ持つ四倍体の品種が混在しており(古くから流通する品種は四倍体が多い)、特に四倍体はゲノムサイズが大きく複雑なゲノム構造を持つため、シクラメンの参照ゲノムの整備は遅れていた。
中でも、現在の園芸品種のルーツとされる二倍体ゲノムのCyclamen persicumのゲノム解読は、美しい花が咲く仕組みや進化の謎を解く重要な鍵となる。
そこで研究チームは今回、最新の解読技術や分析技術を活用し、二倍体Cyclamen persicumのゲノム解読に挑むことにした。
今回の研究成果
今回の研究では、世界で初めて二倍体Cyclamen persicumの高精度なゲノム解読に成功し、ゲノムサイズ(全DNAの長さ)は約14.8億塩基対であることが明らかにされた。24種類ある染色体(二倍体なので合計48本)の両端までほぼ完全に解読できた染色体も複数あり、解読の網羅率は98.1%と極めて高い水準が達成された。
また、ゲノム全体の約83%は同じ配列が繰り返される反復配列で占められていたが、その中から生命活動に必要なタンパク質をコードする遺伝子が4万223個特定された。他の植物と比較した結果、シクラメンだけが持つ特有の遺伝子グループや、サクラソウ科に共通するグループなどが発見された。これは、植物の進化の歴史を知る重要な手がかりになるという。
今回得られた高品質なゲノム情報を利用することにより、今後、シクラメン特有の美しい花の形、球根(塊茎)の成長、香りなどを生み出す遺伝子の特定を効率よく進めることが可能になる。また、これまで散逸していた研究データをこのゲノム情報に統合することで、遺伝子の働きを調べたり、植物に新しい性質を持たせたりする研究が大きく前進するという。
たとえば、花びらの枚数を増やす八重咲きに関わる遺伝子や、縁を波立たせるフリル咲きに関わる遺伝子、特有の色や香りに関わる遺伝子などをピンポイントで特定しやすくなる。従来の掛け合わせによる品種改良の限界を超えた、魅力的で丈夫なシクラメンを効率よく開発できるようになることが期待されるとした。
かずさDNA研究所の白澤室長は、「まるで花をデザインするように、豪華で見たことのない新しいシクラメンを効率よく生み出せるようになるかもしれない」と今回の成果についてコメントしている。
