米Cresta(クレスタ)が日本法人のCresta AI合同会社を設立し、2026年10月1日から国内での事業を開始した。10月8日の記者発表会では、人とAIの協働を軸に据えた戦略が示された。単なるAIエージェントの提供ではなく、人の営みにAIを差し込む「AI in the loop」という考え方をベースにしている点が新しい。
日本を「転換点にある市場」と位置づける理由とは
Crestaは、顧客と企業の会話をAIで分析し、自動化から人の支援までを単一のプラットフォームで担う米国企業である。創業者にはOpenAI出身者が名を連ね、CTOも同様の背景を持つという。これまでにベンチャーキャピタルなどから約3億ドル相当を調達しており、直近のラウンドは日本のWiLL Innovation Labsが主導した。
その導入先は多岐にわたる。ユナイテッド航空やアラスカ航空といった航空会社、大手銀行や通信企業のほか、米国国立公園の観光事業を手がけるXanterra、ホームセキュリティのBrinks Homeなどが名を連ねる。提供範囲もインバウンド対応にとどまらず、アウトバウンド、セールス、インサイト、エージェントアシストまで幅広い。野球チームのニューヨーク・メッツとも、ファンへの価値提供で協業しているという。
登壇したAPAC ジェネラルマネージャーのアンドリュー・キャニントン(Andrew Cannington)氏は、日本が顧客体験と顧客サービスで世界最高水準にあると指摘した。
一方で、人口減少に伴う人手不足や、法対応が求められるカスタマーハラスメント対策によって、最前線の担い手に大きな負荷がかかっていると述べている。さらに、日本市場との対話を重ねる中で、AIを受け入れる素地が整っており、規模を拡大できる国だと確信したという。
同氏が掲げるAI戦略の根幹は、「AI対人」という対立構図ではなく、AIが人を支えるという協働の構図である。人の知識が自動化を加速させる燃料となり、自動化が人の仕事を助けるという好循環を回すことで、顧客サービス全体の質が高まる。
会話を4つに分けて捉え、AIで人を支える
Crestaは、企業と顧客の会話を4種類に整理している。1つ目は、壊れた業務プロセスや分かりにくいWebサイトに起因する、そもそも発生すべきでない会話である。2つ目は、単純で反復的な、自動化が効く会話だ。3つ目は、感情的な要素が強く価値も高いため人が担うべきだが、契約条件などの情報が複雑化している会話を指す。ここでは人が担う前提のまま、細かな情報面での支援が求められる。
4つ目は、現状では行われていないものの、本来は行うべき会話である。キャニントン氏はこの領域を最大の成長余地と見ており、例として、高齢者に音声エージェントが体調を確認する取り組みを挙げた。コストや手間の面で見送られてきた対話を、技術によって実現できるという発想である。
プラットフォームの柱は3つある。会話をリアルタイムで解析して問い合わせの理由や環境変化を捉えるインサイトと分析、音声やチャットなどあらゆるチャネルでの自動化、そして何をいつどう伝えるべきかを会話中の人に示すオーグメンテーション(拡張)である。同氏は、これらを個別の機能ではなく一体の基盤として提供できる点を強みとして強調した。また、会話インテリジェンスの分野でForresterから高い評価を得ているとも説明している。
人とAIの会話が切れ目なく引き継がれる
Cresta AI合同会社 VP 兼 日本カントリーマネージャーの田村元(たむらはじめ)氏は、30年以上にわたりERPなどの領域でIT業界に携わってきた。同氏は、競合の立場から「手強い」と見ていたのがCrestaだったと明かし、日本での実現を志して参画したという。
田村氏が繰り返し訴えたのは、Crestaは単なる「AIエージェントの会社」ではないという点だ。日本ではAIエージェントによるコスト削減に注目が集まりがちだが、全てをAIが担えるわけではなく、営業や窓口など人が対面で向き合う場面は依然として残り続ける。同社はそうした面をAIで助けるという立場を取り、入社初日からベテランのようなやり取りができる状態を目指しているという。
具体的には、満足度の高かった会話のパターンと不満につながったパターンを分析し、うまくいった手法を人にもAIエージェントにも展開する。複雑な会話は途中で人に引き継がれるが、AIがそれまでの経緯を把握しているため、切れ目なく対応できる。
田村氏は、日本で一般的な「Human in the loop」は、AIや自動化システムの処理の流れ(ループ)の中に人間が関与する構図だと指摘している。一方、Crestaが考えるのは、人の営みにAIを差し込む「AI in the loop」となる。さらに、AIが定型的な対応を担うことで、人はアドバイザーやコンサルタントに近い高付加価値の会話に注力できるとし、これを広い意味でのリスキリングと位置づけている。
リスキリングという言葉が日本ではジョブチェンジと同義で語られがちなことにも、同氏は言及した。今の業務をより高度にこなせるようになることも一つのリスキリングであり、人手が足りないために見送られてきた24時間対応や新規事業にも踏み出しやすくなるという。目指すのは単純なコスト削減ではなく、AIを使ってビジネスそのものを良くすることだと強調した。