自動運転の進化には、クルマだけでなく「道路側」も変わる必要がある――。パナソニック エレクトリックワークス(以下、パナソニックEW)は、T2と共同で、自動運転トラックと道路照明設備を組み合わせた実証を進めている。

低い位置から道路を照らす「低位置照明」を自動運転車に適した光環境へと最適化するとともに、将来はセンサも一体化。道路照明を、自動運転を支える「デジタルインフラ」へ進化させようとしている。

  • 今回の実証では、T2が実際に運用している自動運転トラックを用いた

    今回の実証では、T2が実際に運用している自動運転トラックを用いた

高速道路で進む「低位置照明」とは?

そもそも道路照明は、夜間や薄暮時にドライバーや歩行者が道路状況を早期に認識し、安全に通行できるようにする設備だ。路面を明るくするだけでなく、明るさのムラを抑え、ドライバーが感じるまぶしさ(グレア)を抑制することも求められる。

高速道路の本線では、高さ10メートル前後のポールに照明を取り付ける方式が一般的だったが、近年は防護壁などの約1.2メートルという低い位置に設置する「低位置照明」が広がり始めている。2024年7月にはNEXCOの標準仕様書が改定され、本線の連続照明は原則として低位置照明方式を採用する方針となった。

  • 道路照明の役割と求められるもの

    道路照明の役割と求められるもの

  • 高速道路における低位置照明のメリット。筆者も夜の高速道路は頻繁に運転するので、低位置照明の見やすさは実感している

    高速道路における低位置照明のメリット。筆者も夜の高速道路は頻繁に運転するので、低位置照明の見やすさは実感している

低位置化にはいくつもの利点がある。設置や保守で高所作業を減らせるため、電気工事従事者の減少に対応しやすく、大掛かりな交通規制も回避できる。また、自然災害時のポール倒壊リスクを抑えられるほか、道路の外へ漏れる光を減らし、周辺環境への影響を抑える効果も見込める。

一方、設置位置が低ければ、照明そのものがドライバーの目に入りやすくなる。そこでパナソニックEWは、光を道路の先まで広く届けながら、ドライバー方向への光をカットする配光制御を組み合わせている。

デモンストレーションでは、暗室に実際の低位置照明を設置。器具そのものは低い場所にあるものの、光は道路を模した空間の奥まで広がっていた。2台の照明が互いの照射範囲を補うことで、照明の間に暗い場所が生まれにくくなることも確認できた。

  • 左が低位置照明ユニット。右は将来的に低位置照明ユニットとの一体化を計画しているセンサユニット

    左が低位置照明ユニット。右は将来的に低位置照明ユニットとの一体化を計画しているセンサユニット

  • 低位置照明ユニットを点灯。光の方向と拡散をコントロールしやすいLEDを生かして、ドライバーが感じるまぶしさを抑制する

    低位置照明ユニットを点灯。光の方向と拡散をコントロールしやすいLEDを生かして、ドライバーが感じるまぶしさを抑制する

  • 低位置照明の概要

    低位置照明の概要

  • デモンストレーションで体験。道路の先のほうまで明るく見やすい

    デモンストレーションで体験。道路の先のほうまで明るく見やすい

「人に見やすい」から「自動運転車にも見やすい」光へ

ここからが今回の取り組みの面白いところだ。高速道路における自動運転に適した照明、その先に道路インフラとしての活用まで見据えている。

従来の道路照明は、基本的に人間のドライバーにとって見やすい光環境を作ってきた。だが、自動運転車が周囲を認識する「目」となるのはカメラをはじめとする各種センサだ。人間にとって見やすい光と、自動運転車のカメラが認識しやすい光が、必ずしも同じとは限らない。

そこでパナソニックEWとT2は2026年1月、日本自動車研究所(JARI)の城里テストセンターにて、T2の自動運転トラックとパナソニックEWの低位置照明を使った実証を行った。

照明の明るさや光のムラなどの条件を変えながら、トラックに搭載したカメラが道路の白線をどこまで認識できるかを測定。ヘッドライトのみの場合と低位置照明を加えた場合を比較した。

その結果、路面を明るく、光のムラが少ない環境にすると、特定条件下では白線の認識距離がヘッドライトのみの場合に比べて最大2.3倍に伸びたという。

  • 自動運転トラック(レベル2)のヘッドライトと低位置照明の組み合わせでは、トラックから認識できる道路の白線の距離が大きく伸びた。遠くまで認識できることは、自動運転を実現するうえで大きなメリット

    自動運転トラック(レベル2)のヘッドライトと低位置照明の組み合わせでは、トラックから認識できる道路の白線の距離が大きく伸びた。遠くまで認識できることは、自動運転を実現するうえで大きなメリット

パナソニックEWの担当者は、従来はドライバー視点で最適な光環境を研究してきたのに対し、今回の実証では「自動運転車両側のセンサにとって、どういった光環境が最適なのか」を明らかにするため、明るさや光のムラ、まぶしさなどさまざまな条件を変えて検証していると話す。

重要なのは、現在の自動運転車では安全性が足りないから、道路照明で補おうという話ではないことだ。上記の担当者も、「今の自動運転車両の技術がそこに追いついていないということではなく、さらに高めるために支援する」と述べる。

道路照明の基準に、将来は「人にとって見やすい」だけでなく、「自動運転車にとって認識しやすい」という視点が加わる可能性があるわけだ。

道路側から、自動運転車の「死角」を補う

もうひとつ、パナソニックEWが取り組んでいるのがセンサの低位置化だ。

  • センサを低位置化することによって(低位置照明も合わせて)、自動運転車両に対して高品質な作読み情報を提供する

    センサを低位置化することによって(低位置照明も合わせて)、自動運転車両に対して高品質な作読み情報を提供する

自動運転では、道路側のセンサが車両から見えない場所を検知し、その情報をリアルタイムに車両へ送る「路車協調システム」の検討も進んでいる。高速道路では、本線への合流や落下物などの情報を車両へ先回りして伝える用途が想定される。

従来はLiDARなどの長距離センサを高い位置に設置する方式が考えられているが、高所での施工やメンテナンスが必要になる。

パナソニックEWが提案するのは、AIカメラなどの近距離センサを低位置照明と一体化し、道路に沿って複数配置する方法だ。1台のセンサでは手前の車両に隠れて奥の車両を検知できない場合でも、複数のセンサでセンシング範囲を重ねる「アレー配置」によって別方向から補う。

  • 道路の側道側からセンシングするのだが、センサを並べる「アレー配置」によって精度が向上。センサから見て奥に位置する第2車線の情報をしっかり認識できている

    道路の側道側からセンシングするのだが、センサを並べる「アレー配置」によって精度が向上。センサから見て奥に位置する第2車線の情報をしっかり認識できている

今回の実証では、低位置センサでも先頭車両の検知について従来の高所設置方式と同等の性能を確認したほか、後続車両の検知にも強みが確認できたという。

なお、今回の実証では、照明とセンサを一体化した状態で検証したわけではない。光環境とセンサの低位置化は、それぞれ別個に効果を確認した段階だ。将来的には両者をまとめた「低位置センサと照明を一体化した設備」の開発を目指す。

レベル4の自動運転を目指すT2、自動運転トラックの現状

共同実証で自動運転トラックを提供したT2は、2022年に設立されたスタートアップだ。T2 事業開発本部 ソリューション企画部 部長の岩井博史氏は「トラックドライバー不足によって2030年には輸送力が34%不足するとの予測もあるなか、2027年度以降にレベル4自動運転トラックによる幹線輸送を始めることを目指している」と展望を語っている。

  • T2 事業開発本部 ソリューション企画部 部長の岩井博史氏

    T2 事業開発本部 ソリューション企画部 部長の岩井博史氏

T2が想定するのは、高速道路ではドライバーが乗らないレベル4の自動運転とし、その前後の一般道ではドライバーが運転する方式(レベル2)だ。高速道路付近に設けた切り替え拠点で有人運転と無人運転を切り替え、同じトラックで荷物を目的地まで運ぶ。

会場には、T2が実際に自動運転の技術開発や商用運行に使用している大型トラックも展示された。市販車をベースに、カメラやLiDARなど25個のセンサを取り付け、これらで車両の周囲を「検知」し、ソフトウェアが走行状況を「判断」、操舵や加減速を「制御」することで自動運転を実現している。

  • T2の自動運転トラックは、すでに商用にも利用されている

    T2の自動運転トラックは、すでに商用にも利用されている

  • トラック前面のセンサ類(1)

    トラック前面のセンサ類(1)

  • トラック前面のセンサ類(2)

    トラック前面のセンサ類(2)

現在はドライバーが乗車するレベル2だが、2026年3月には関東―関西間の高速道路約500キロメートルを、ドライバーによるハンドル操作なしで走破。5月には料金所を自動運転のまま通行することにも成功したという。

レベル4になると、通常時だけでなく緊急時にもシステム側で対応する必要がある。想定しにくい事象をどう検知し、判断、制御するか。さらに豪雨や積雪などで白線を認識しづらくなった場合をどう扱うかなど、実用化には細かな課題を一つずつ詰めていく必要がある。

  • 自動運転のレベル。現在、T2はレベル4を目指している

    自動運転のレベル。現在、T2はレベル4を目指している

  • 高速道路のインターチェンジ付近に拠点を設け、有人運転と無人運転を切り替える構想

    高速道路のインターチェンジ付近に拠点を設け、有人運転と無人運転を切り替える構想

そう考えると、道路側から光や先読み情報を提供する意義も見えてくる。

「照らす設備」から道路のデジタルインフラへ

パナソニックEWが描く将来像は、照明とセンサを組み合わせて自動運転を支援するだけではない。低位置照明を道路のデジタルインフラへ進化させ、センサで得られた情報を自動運転支援に使うほか、将来的には路面の損傷などを把握するインフラ維持管理や、蓄積したデータを生かした交通ソリューションへ広げる構想だ。

ただ、インフラ維持管理などについては、現時点では今後の検討領域。今回の実証で確認したのは、自動運転車に適した光環境と、低位置に設置した複数センサによる検知性能までとなる。

パナソニック エレクトリックワークス社 ライティング事業部 プロフェッショナルライティングBU商品企画部 部長の濱野博司氏は「従来の単に道路を照らす照明設備から、今後は光とセンサなどを組み合わせ、未来の自動運転時代の道路を支えるインフラ設備へ進化させていく」と意気込みを示している。

  • パナソニック エレクトリックワークス ライティング事業部 プロフェッショナルライティングBU商品企画部 部長の濱野博司氏

    パナソニック エレクトリックワークス ライティング事業部 プロフェッショナルライティングBU商品企画部 部長の濱野博司氏

  • パナソニックEWが目指す道路照明の姿

    パナソニックEWが目指す道路照明の姿

今後は実証を重ね、道路管理者などとの協議を進めながら仕様化を検討。まず合流部やカーブといった主要箇所から導入し、自動運転車の普及に合わせて幹線道路へ広げ、2030年代の本格的な社会実装を目指す。合わせて、国土交通省など行政への働きかけと提案も行う考えだ。

自動運転の主役はクルマだが、そのクルマが走る道路にもできることがある。これまで「人が見るため」に道路を照らしてきた照明が、クルマにとっても道路を認識しやすくし、さらに情報を収集して車両へ届ける設備へと変わっていく。自動運転時代に向けた道路インフラの変化はすでに始まっている。